きよこの書き散らかし小説。
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Fly high, High sky

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第11話 嫌になること

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「ねえねえ! 鍾乳洞があるんだって!」

 車のダッシュボートに入れっぱなしになっていた旅行雑誌を広げながら、美月は甲高い声を上げた。
 国道4号にもだいぶ近付いてきたが、かれこれ四時間はぶっ通しで運転してる。
 さすがに疲れてきた時に、美月のこの声は頭に響いて頭痛がする。

「なに? どこに?」
「福島県!」
「あー……あぶくま洞?」
「うん。和実、知ってるの?」
「行ったことあるから。知己と」

 去年の夏休みだったか……あれは知己との初めての旅行だった。知己のおばあちゃんちが福島にあるらしく、一緒に遊びに行こうと誘われたのだ。
 免許取立てだった知己は、とにかく運転がしたかったみたいで、色んなところに連れ出された。行き先を決めるのはたいがい私だったけど、あの旅行だけは知己が行き先を決めた。
 知己のおばあちゃんに会うってことが、なんだか「結婚します」って挨拶に伺うみたいで、妙にドキドキしたのをよく覚えてる。
 実際、知己のおばあちゃんは、私と知己がいつか結婚するって、思い込んじゃったみたいだし。

「あそこ、プラネタリウムもあるよ。行く?」
「行く行く! プラネタリウムって、ステキステキー! ロマンチックー!」

 両手で体を抱きしめて左右に頭を振りながら叫ぶ美月は、クラブで音楽にノリすぎてイカれた女みたいだ。

「でも、明日にしようよ。疲れた」
「そう? じゃあ、宿探すかあ」

 運転してない美月は、疲れなんかひとっつもないらしい。座りっぱなしで腰は痛いらしく宿探しにはノリノリだ。
 あたりはだいぶ暗くなり、夏の強烈な日差しも和らいでいる。
 窓を開けると、蝉の鳴き声が雨のように降ってきた。

「私ね」
「ん?」

 夕暮れの涼しい風を右頬に感じながら、目を細める。夏の夕暮れは好きだ。一日の終わりがなんだか切なく感じる、この感覚が好き。

「和実が『いつでも一緒にいるわけじゃない』って怒ったの、まだ覚えてるよ」
「えー。美月って、根に持つタイプだったっけ?」
「違う違う。怒ってるわけじゃないの。その通りだなって、思ってるんだって」

 西日が差し込む車内は蒸し暑くなってくる。オレンジの光で頬を染め、美月はぼんやりと中空を仰ぐ。

「私……昔ね」
「うん」

 蝉の声が、ジイジイとうるさく響く。窓を閉めようとボタンを押したら、開く方に押してしまったらしく、窓がまた開いてしまった。

「昔、すごく嫌なことがあってね」
「嫌なこと?」
「……うん」

 もう一度、パワーウィンドーのボタンを押したら、後ろが開いてしまった。
 何してんだ、私。

「ちょっと、ウィウィうるさいんですけど! 私、真剣な話をしようとしてるんだよ!」
「ウィウィって、フランス人?」
「ウィー。ボンジュール、ぽんじゅーす」
「ポンジュースは飲み物ですよ、美月姫」
「ウィー」

 ああ。オレンジジュース飲みたくなってきた。

「そうじゃなくて!」

 両手をぐっと握りしめてぶんぶん振り回しながら怒るけれど、怒る気力をすぐに無くしたのか、美月は「あーもう」とため息をついて椅子に寄りかかってしまった。

「私、和実になりたかったなあ」
「なあに、それ」
「皆さあ、美月は美人でうらやましいとか、スタイル良くっていいなあって、褒め称えてくるけどさ。それでいい思いなんて、たいしてしたことないよ。言い寄ってくる男は多いけど、どいつもこいつも私の本性知ったら逃げてくし。和実はさあ、男の子と仲良くなれるじゃん? 和実と別れた男の子たち、皆言ってたよ。『和実はいいやつだ。別れてから後悔する』って」
「本当? 言われたことないよ、そんなの。本人に言ってほしいよねえ、そういうことはさ」
「和実って、さばさばしてるじゃん? 必要とされてない気がして、寂しいんだって」
「誰がそんなこと言ってたの?」

 歴代の彼氏を思い浮かべる。初めて彼氏が出来たのが大学一年の時で、それから四人と男と付き合った。
 三ヶ月で終わったやつもいれば、一年付き合ったやつもいる。私がふられたことも、ふったこともある。
 美月にそんな話をするやつがいたかどうか……最初に思い浮かんだのは二番目に出来た彼氏の、典久(のりひさ)だった。
 同じ高校で大学も一緒になったため親しくなった男で、美月とも友達だったはずだ。

「のり君」
「あーやっぱり。そうだと思った」

 典久は、友達連中には『のり君』と呼ばれていた。付き合ったのは大学一年の夏からで、二年の秋まで付き合ったから、知己より長い。

「あと、修二君だっけ? あの人も言ってたよ」
「修二、知ってんの!?」

 修二は知己の前に付き合った彼氏だ。美月とは面識はないはず。

「駅で話しかけられたの。『和実の元彼なんだけど、もしかして美月ちゃん?』って。写真見て、私のこと知ってたみたいよ」

 修二には、美月との思い出話をしていたのかもしれない。
 小学生からの付き合いなのだから、当然、写真なんて大量にあるし、美月は美人だから、印象に残るんだろう。

「もっと甘えればいいのに。彼氏にさ」
「知己には甘えてたつもりなんだけどなあ」

 甘えて愚痴ったらふられたんだ。甘えるのって、難しい。

「甘え方にもかわいいのとかわいくないのがあるわけよ。ねえ、和実。私、甘いの食べたくなっちゃった。コンビニ行こう」
「うわ、出たよ」

 大きな瞳をウルウルさせて、私の腕にかじりついてくる。

「かわいいでしょう?」

 自分で言っちゃおしまいだと思うんだけど。確かにかわいい。黒目がちな瞳で、ハの字に眉を下げられて懇願されちゃあ、男だったらイチコロだろう。

「これがテクってもんなのだよ、ブラザー」
「……それで何人の男をだまくらかしたんですか? 姫君」
「んん? 数えられなあい」

 鈴のような声で笑う美月は、どこからどう見てもやっぱり美少女だ。

「でもね、こんな武器、いらないんだよ。自分が嫌になる」

 ポツリと出た美月の言葉は、恐ろしいくらい冷ややかで、背中がゾクリと総毛だった。

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【2009/11/29 03:40】 | Fly high, High sky(青春コメディ)
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