きよこの書き散らかし小説。
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Fly high, High sky

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第10話 予感

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 あの日を振り返る時、私が一番に思い出すのは、教室で啖呵を切ったことじゃない。
 爆笑する美月を無理やり引っ張り出し、ひきずるように歩いて、渡り廊下に連れて行った。東校舎と西校舎をつなぐ廊下は、傾きかけた太陽の光が窓の四角い形に切り取られて、廊下をいくつも白く染めていた。
 端の窓に寄りかかり、美月を睨んだら、美月は笑うのをやめて真顔に戻った。

「なんで言わなかったの」

 すぐに言ってくれれば、もっと早く解決できたのに。そう思うと、くやしかった。

「だって、シカトされたの、一週間ぽっちだよ? すぐ終わると思ったし」
「終わんなかったらどうするつもりだったの? あんたは楽観的過ぎるよ! 五組の高橋さんなんて、一年間ずっといじめられて、学校来なくなったじゃん!」

 中学生っていうのは、もしかしたら一番残酷な時期なのかもしれない。
 小学生の時は、遊びの延長だったり、無邪気な気持ちの名残りがあったりと、悪意に満ちたいじめはそう多くはなかった気がする。
 中学に入ってからのいじめは、完璧な悪意がある。ともすればいじめの標的が『死』を選んでもかまわない、罪悪感のかけらはあっても、残虐な行為をしているという自覚が薄い。
 高校生になってからも、美月はたびたびいじめにあったが、その頃になれば「いじめなんて馬鹿らしい」と達観した子も出始める。だから、グループさえ抜ければ、うまくやっていけるのだ。

「だってえ……」

 美月は足元に小石でもあるかのように、地面を何度も蹴った。
 一個下の学年の女の子が四人、楽しそうにじゃれあいながら通り過ぎていく。
 その背中を目で追いながら、美月は唇を噛んだ。

「和実が助けてくれるって、信じてたし」
「ばっ……」

 馬鹿じゃないの、そう言いたかったのを押し殺した。
 嬉しい気持ちもあった。頼りにしてくれるのは、必要とされている気がして嬉しい。
 でも。

「いつでも助けられるわけ、ないじゃんか」
「でも、和実はいつも助けてくれたよ」
「私たち、ずっと一緒にいるわけじゃないんだよ。高校が同じになるとは限らないし、大人になったら、もっともっと離れてくよ。あんたを守れる距離に、私がずっといられるわけないでしょうが。私が横にずっといるって、そうやって思い込むな」

 予感があった。
 美月が好きだ。小学校からずっと一緒に歩いてきた、無二の親友だと、思ってる。絶対、口に出して「私たちは親友だよね」なんて言わないけど、そう思ってた。

 でも、疎ましくもあったのだ。美月が私の腕に寄りかかり、私と一緒にいることが当たり前だと思う、甘えきった気持ちが重かった。

 いつごろから、そう思っていたのだろう。
 いじめの事件が中二だったから、きっとその頃からだとは思う。
 美月が女子達に敵意を向けられ、私が美月をかばうことが多くなったのは、中学生になってからだ。
 私に甘えていると美月が自覚がしていたかどうかは知らない。
 でも、私は、美月が私に甘えていると、そう思い始めていた。
 だから、予感していた。
 いつか必ず、私は美月と距離を置きたくなる。閉塞的な関係になる前に、断ち切らなければいけないと、中学生のあの時から気付いていたのだ。

「和実は、私の味方でいてくれるじゃん」

 半べそをかきながら訴えてくる美月を、痛めつけたい気持ちになった。
 真っ白な雪に、真っ黒な足跡をつけたくなるような衝動だった。

「美月が悪いことをしたら、美月の味方にはならない。私に、甘えんな」
「なんでそんな冷たいこと、言うの」
「私に寄りかかって、盾にしようとするからだよ。私はあんたの彼氏じゃないんだ。美月は、友達ってもんを勘違いしてる。ずっと一緒にいるのも、ずっと味方でいるのも、友達じゃない。私は、あんたの下僕じゃない」
「じゃあ、友達って何? 私、和実のこと、下僕なんて思ったことないよ」

 ――友達ってなに? 
 あの時、刃のように刺さった言葉は、未だに私の心を宙ぶらりんに刺している。

 けれど、あの頃から考えは変わってない。
 一緒にいることが友達ではない。味方でいることが友達ではない。
 時には離れることもあるだろう。味方ではいられないことだってあるはずだ。それでも、友達だと言い切れることが、大事なんじゃないかと、そう思うから。

「あんたはちゃんと、自分で歩けるようになんなきゃだめだ。いつでも誰かがいて助けてくれるって思うの、やめなきゃだめだよ」
「でも、和実は助けてくれるでしょう?」
「そういうの、やめなって言ってるの! 私がいなかったら、どうすんの!?」
「でも」
「でもでもって、うるさい! もう知らない!」

 親にも、周りにも甘やかされて育った美月。誰かがいつでも手助けしてくれる環境を、当たり前だと信じて疑わない。
 でも、そんなのは今だけで、大人になれば、自分ひとりで歩かなければならない。
 そうしなければ、荒波の多い社会を生きていけないと、私は早くから自覚していた。
 もちろん、中学生のあの頃に、そんな意識はなかったけれど。
 美月の姿を傍目で見ることで、それは大きな実感を伴って、私の中で大きく育っていたのだ。
 こうはなりたくないと、反面教師のように美月を見つめていた。

 嫉妬心と羨望を、隠しながら。

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【2009/11/29 03:33】 | Fly high, High sky(青春コメディ)
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