きよこの書き散らかし小説。
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Fly high, High sky

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第9話 世界一、かっこいい

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「ほい、4が出ました!」

 次の日、私たちはサイコロを振って、行き先を決めていた。最初に出た目は1、次が4だったから、国道4号に向かうことが決定した。
 アクセルを踏み、車を始動させる。ゆるゆると動き出した景色を楽しみながら、どうでもいい話に花を咲かせる。
 小学校の時や中学校の時、高校の時、大学での出来事の数々を笑いながら話す。
 中高の頃のことを話したがらない美月が、今日に限っては饒舌に過去を語る。

 そうして話すたび、私たちの付き合いの長さが身に沁みて、胸の奥がぽっと熱くなる。
 つかず離れずの距離を維持しながら、私たちはとても近くにある道を歩いて来たのだ。

「こうやって話してると、うちらってほんとずっと一緒にいたんだなーって実感するね」

 それは、なんとなく恥ずかしくもあった。照れくさいというか。
 知己よりも誰より、私を理解しているのは美月なのかもしれない。歳を追うごとに変化していく私のすべてを、美月は知っているのだ。私が美月のすべてを真横でずっと見てきたように。

「和実がいてくれてよかったなって、たまに思うよ」

 カールを頬張りながら言うもんだから、どうも真剣味を感じない。美月の言動はいまいち信憑性が薄い。考えながらしゃべるから、コロコロコロコロ意見が変わってしまうのだ。

「中学の時に、私、いじめにあったじゃん」

 まさか美月が自分からその話題に触れてくるとは思っていなくて、ぎょっとする。ハンドルを握る手に汗がにじんだ。

「何が発端だったんだか……覚えてないけどさ。いきなりクラス全員が私のことシカト」

 ハッと息を短く吐いて、自嘲気味に笑う。
 私もあの日のことはよく覚えている。異様な雰囲気の教室の中で、美月だけが凛とした表情でクラスメートに冷たい視線を送っていた。
 湖に薄く張った氷のような鋭い冷たさと、すぐに壊れてしまいそうな危うさが、そこにはあった。

「なんつうのかねえ……殺伐としてるっつうか。張りつめた糸っていうか、あんな状態の教室に、和実ってば『イエー!』って軽く踊りながら突入して来るんだもん。びっくりしたよ」
「あれは某アイドルの物真似だったんだってば」
「ちっとも似てなかったよ」
「うるさい」

 どうしてそうなったのか……私も詳しくは知らない。
 とある男子を好きになった女子が告白したら、美月のことが好きだからと断られてしまい、美月は嫉妬されていじめにあうっていうよくある話だったと思う。
 女は同性に厳しい。飛びぬけて綺麗な女なんて、格好の的だ。

「和実はかっこいいよ。行動力があるっていうか、私と全然違う」
「おだててゴハンおごらせる気でしょ?」
「ばれた?」

 美月のヤツ、旅行がスタートしてからずっと、なかなか車の中から出ようとしない。朝ごはんも昼ごはんも私がコンビニで自分の分を買うついでに美月の分も買ってやってるのだ。
 どんだけ出無精なんだ。そんで太らないって、どういう体してんだ。

「おだて半分だけど、本気も半分だよ。バファリンの成分並みでしょ?」
「バファリンの成分並みのおだてなんていらないわ」
「ああん。和実ってば冷たいー」

 中二の夏休み明けだったか。いじめは突如勃発した。
 私たちの学年は六クラスあり、私は二組、美月は六組で、教室は離れていた。そのため、私はいじめの兆候さえ知らなかった。
 その日は部活も無く、帰る約束をした美月が昇降口にいつまでたっても現れないから、クラスに様子を伺いに行ったのだ。
 美月はクラスの女子四人に囲まれ、体を小さく縮こまらせていた。大きな丸い瞳は恐怖で歪んでいたけれど、本当の意味でビビッてはいなさそうだった。
 美月の目の奥は、メスライオンのような鋭さを宿していた。

 助けに入るべきか迷った。だけど、美月の目を見た瞬間、私は動けなくなってしまった。
 それほど美月は鬼気迫っていて、綺麗だった。

 美月の破天荒っぷりや、それでも男子に好かれる姿に、クラスの中の何人かは美月を疎ましく思っていたのだろう。
 シカトは一週間ほど続いていた。業を煮やした美月はその日の放課後、怒りを爆発させたのだ。
 突然の出来事に、クラスの女子の数名が戸惑いながらも反撃した。
 美月を囲み、美月を罵ったのだ。

「顔だけ女」「性格最悪」「皆お前なんか嫌いなんだよ」「男の前だけいい顔してんじゃねえよ」

 そんなことを言われたらしい。
 幸いだったのは、六組にリーダーシップを取って行動できる女子がいなかったことだった。
 美月を罵倒した女子達に続いて罵声を飛ばすクラスメートはいなかった。

 だから、ここで止めなければいけないと思った。
 いじめの始まりの、この瞬間に終わりにさせれば、いじめはすぐに終わる。
 それを察知した私は、のん気な顔で教室に突入したのだ。

 全く似てない(似てたと思うんだけどなあ)アイドルの物真似をして。

「しかもさあ、『めっちゃほ~りで~』って教室入ってきてからも踊り続けるし。目が点になるって、まさにあのことだよね」

 金曜だったもんで。次の日がホリディだったもんで。

「あの時ほど、和実が馬鹿で間抜けでアホだと思った日はなかったよ」
「ひどいなー。救世主じゃん」
「そう。馬鹿で間抜けでアホだけど、私にとっては世界一の救世主」

 青信号になったから、車を停める。ふと美月を見ると、カールを食べるのをやめ、じっと窓の外を睨んでいた。

「世界一、かっこいいって思った」

 唖然とする美月のクラスメートをよそに、私はあの日、美月の手をつかんだ。

「美月は馬鹿で間抜けでアホだけど、この辺の地域じゃあ一番の美人なんだよ。美人がモテて、何が悪いっつーんだ。ひがんでる暇があったら自分磨きでも勤しむんだな。性格ブスどもが!」

 そう叫んだら、皆、ぽかーんとして、美月だけが爆笑していた。

 だって、あの時はそう思ったんだもん。馬鹿らしい、あほらしいって思ったんだもん。
 美月の容姿が優れているのは、生まれ持ったもので、妬んでもひがんでもしょうがないって、あの頃から知ってた。
 美月が責められる理由なんて、どこにもないって、思ってた。

 それが、私の、偽善であり、プライドだった。

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【2009/11/25 02:11】 | Fly high, High sky(青春コメディ)
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