きよこの書き散らかし小説。
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

Fly high, High sky

目次へ
TOPへ

第8話 恋愛ごっこ

+++++++++++++++


 さすがに水浸しの服では体が冷えて、私たちは早々に海から引き上げた。

「あー。花火買えばよかったね」
「そうだ。忘れてたー。ショック!」

 とは言うものの、美月はさほどショックを受けていなさそう。
 こんななりになってしまっては、のんきに花火なんてしたら風邪を引いてしまう。花火があったとしても、やる気は起きないか。
 Tシャツのすそから滴り落ちる海水が、ピタピタとコンクリートに黒い跡を残す。
 海岸沿いにまっすぐ伸びる道路を歩きながら、私は鼻歌を歌い始めた。なんだか、ちょっと気分がいい。

「ねえ、一人でどうしたの?」

 突然声をかけられ、ビクリと肩を震わせた。正面から歩いてきた男が二人、話しかけてきたのだ。
 Tシャツにハーフパンツのラフな格好をしていて、二人とも真っ黒に日焼けしている。一人は茶色の短髪をつんつんとおったて、もう一人は日に焼けて痛んだ金髪を肩まで伸ばしている。

 たぶん、ナンパだろう。
 当然無視して歩き出すが、短髪の男が私の肩をつかんできた。

「無視しないでよ。俺たち、ここ地元なんだよ。よかったら星がきれいに見えるところ、案内するよ。 友達は?」
「いや……彼氏と来てるんで」
「嘘だあ。さっきまで女の子と一緒に歩いてたじゃん。あの子、どこ行ったの?」

 言われて気付いた。美月がいつの間にかいない。

「女二人で歩いてたけど、彼氏もいるの。民宿で待ってるから。怒られるのやだし」

 長髪の男が「一人しかいねえんじゃ、つまんねえよ。行こうぜ」と短髪男を促す。短髪男は不服そうに舌打ちして、「一緒にいた女、超絶美少女だったんだぜ? もったいねえよ」と抗議する。
 あー……やっぱり美月狙いだったのね。

「超絶美少女なんて、いねえじゃん。もう俺は行くぞ」

 長髪男は美月の姿を見なかったんだろう。さほど関心を示さず、さっさと歩き出してしまった。短髪男は渋々「じゃあまたねえ」と長髪男の後を追って歩き出す。

 美月のやつ、妖怪アンテナみたいに感度が鋭いから、前から歩いてくる男二人組の雰囲気を察してさっさと逃げたな。
 美月はいつもそうだ。忍者みたいに急にいなくなったり、現れたり。
 学校とかでしつこく告ってくる男とすれ違いそうになる時なんかは、あっという間にいなくなってしまう。
 高校の終わりあたり、友達の間で美月のあだ名が「ハットリ君」になっていたのは言うまでもない。

 美月はモテモテだった。中学校も高校も、大学に進学してからは疎遠になっていたから詳しく聞く機会は少なかったけど、モテっぷりは変わらなかっただろう。

 中学の時に二人して好きになった男の子も、美月が好きだった。
 一目惚れなんて、今にして思えば、上っ面に惚れただけのお軽い恋愛ごっこだった。
 だけど、中学生だった私にとっては真剣な恋で、彼と同じ委員会になった時は浮かれ放題だった。
 週一の集まりの時なんかは、たいして頑張る気もなかったくせに、顔を覚えてもらいたくて色々発言しまくった。
 目立つことと頑張ってる風を装うことで、彼の心に印象付けようとしたのだ。
 何の委員会だったか……美化委員だったかな。

 たまたま、帰りが一緒になったことがあった。委員会の時、私と彼だけが提出物を提出し忘れていて、残るはめになったのだ。
 中学生の男女で、ましてや付き合ってもいないとなると、下校はさすがに照れくさかったのだろう。一緒に歩いたのは、昇降口までだった。

「委員会、頑張ってるよね」

 彼はぼそりとそう言ってくれた。

「そ、そうかな」

 恥ずかしくて、声を上ずらせながら返事する。微妙な会話の間が、苦しかった。

「よく一緒にいるけど……栗井さんとは仲いいの?」
「え? うん。同じ小学校だったから」

 中学生の時、美月と私は同じクラスにならなかったけど、しょっちゅう登下校は一緒にしていた。
 めんどくさいからと活動の少ない手芸部に入った美月は、ソフトボール部に所属していた私を待って、図書室で時間をつぶしてくれたりしていた。

「栗井さんて……誰か好きな人、いたりする?」

「仲いいの?」と聞かれた時点で、嫌な予感はしていた。美月と仲が良かった私に、探りを入れてくる男子は多かった。
 たいていの男はたいがいこの言葉から始めて、美月のことを聞き出そうとする。

「美月のこと、好きなんだ?」
「え!?」

 率直に問いただしたのは、正直に言って、むかついたからだ。
 どいつもこいつも。美月美月美月。
 確かに美月は綺麗だけど、性格は破綻してる。けして性悪なわけじゃないけど、あの突拍子もない性格についていける男なんていやしない。
 外面だけに惚れこんで、美月の内面なんて見てやしないくせに、好きって、なんなのさ。

「はっきり言えばいいじゃん。遠まわしに聞くなんて、男らしくない」

 あの頃の私には、自覚は無かった。『美月の内面も知らないで惚れる男の愚かしさ』に怒りを覚えているんだと信じていた。
 だけど、たぶん違ったのだろう。
 私は、美月に嫉妬していたんだと、思う。

「……お前って、嫌なやつだな」

 彼は白けた顔をして、ぼそっとそう言った。
 冷たい針で頭から足の先っぽまで刺された気がした。

「図星なこと言われて、むかついた? 自分こそ嫌なやつだね」

 プライドが邪魔をした。謝ることもできず、そう吐き捨てた。彼の顔も見ずに逃げるように帰って、それ以降、彼と話をすることは一度もなかった。
 しばらくたってから、美月が彼のことを振ったって噂を聞いたけど、美月はなんで彼を振ってしまったんだろう。
 私はあの出来事を話してなかったのに。


「かずーみ」

 後ろから抱きつかれ、またもや肩を震わせてしまった。美月の体がすっかり冷えていたからだ。

「美月、どこ行ってたの?」
「だってえ。前から男二人が歩いて来るんだもん。ナンパされたらめんどくさーい」
「私を盾にしたね」
「ばれた?」

 ふっくらした小さな唇を歪ませて、ニヒニヒ笑ってやがる。

「ちょっと聞きたいんだけどさ。さっき話した、二人で取り合った男って」
「高坂君?」
「高坂って言ったっけ? あいつって、美月はなんで振ったの? 惚れてたくせにさ」
「えー。覚えてないよー」

 さすがに中学生の頃のことなんて覚えてないか。美月は相当数の男に告られてるしな。

「あ! 覚えてる。性格悪かったんだよ。人の悪口言いふらしてたの、私知ってるもーん」
「それって、私の悪口?」

 美月は小首をかしげるだけで、何も答えない。
 波の音だけが、私と美月の間を通り過ぎていく。
 生ぬるい潮風が濡れた体を冷やす。ブルリと震えて、腕をさすった。

 ……たぶん、私の悪口だったんだろう。

「意外と、律儀だね。美月って」
「今更知ったの!? 遅い!」

 月の光は海を白く照らし出す。波の揺れで、白い光がゆらゆらと揺らめく。
 心地の良い波の音に、体が浮ついている気がした。

+++++++++++++++

次話(第9話)へ
目次へ
TOPへ

FC2blog テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

【2009/11/20 03:22】 | Fly high, High sky(青春コメディ)
トラックバック(0) |
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿
URL:

Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。