きよこの書き散らかし小説。
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Fly high, High sky

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第7話 本当は、わかってる。

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 日もだいぶ暮れてきたため、私たちは宿に向かうことにした。
 海の家のおじさんが経営しているという民宿は海から車で一分もしない場所で、荷物を運び入れるとすぐにまた海に戻った。
 急な泊まり客のため食事は出せないと言われ、素泊まり扱いとなってしまった。仕方なく、ご飯を食べに外に出たはいいが、美月が「海辺でなんか食べたい」と言いだし、私としてはせっかく漁港の近くなんだから地元の食堂とかで海の物を食べたかったんだけど、美月のわがままに折れる形になった。
 浜辺で食事するというのも、心惹かれたしね。

 コンビニで買ってきた惣菜とそばのパッケージをはがし、美月はすぐさまポテトサラダを嬉しそうに頬張る。
 私はその横でそばをすすりながら、月夜に照らされる海を見つめた。
 もうすぐ満月になろうとする月は、異様に白い。
 波が一定のリズムを刻みながら、音を奏でていた。

「和実はさあ、なんでふられたの?」
「疲れるって言われたからって言ったじゃん」
「そうだけど、理由は?」

 ああ、と息をもらすみたいに返事した。
 理由なんて、考えてもいなかった。
 あの日、知己に言われた言葉ひとつひとつを思い出す。
 途端に息苦しくなって、喉の奥が圧迫されるみたいに痛くなった。
 喉を押さえ、月を見上げる。
 ふられてから今まで、そこまでつらくなかったのに、今更になって、寂しさや苦しさや悲しさが襲ってくるのはなぜだろう。
 遠くの陸地で起こった地震が、波となって何時間も後に対極の浜辺へ押し寄せてくるように、実感の伴っていない気持ちは後から後からやってくるものなのだろうか。

「私がグチグチ言いすぎたのかも。就活の疲れを知己に話して憂さ晴らししてたけど……知己にとっては重かったのかもね……」

『かも』ではなく、そうだったんだと思う。
 逆の立場で考えれば、それもわかる。毎日毎日グチしか聞かされなかったら、一緒にいることが苦痛になってしまう。

「美月はどうなの? 疲れるって言われた理由は?」
「……わかんない」

 そばをすするのをやめ、美月はうなだれてしまった。小さな膝小僧に顔をうずめ、砂にすーっと一筋、線を描く。

「……ううん。本当はわかってるんだ。私だって、ちゃんとわかってるの。私、すごい、重かったと思う。駿介は頑張って私のこと支えてくれようとしてたけど、きっと限界に来ちゃったんだよね」
「そっかあ」
「うん」

 美月は、こんなにも明るい子だけど、陰のある子だった。それがいっそう美月のきれいな顔立ちを際立たせているけど、昔はただ単に明るく元気な子だったのだ。
 どこで、美月はこの陰を身につけてしまったのだろう。
 一緒にいた時間は長いのに、思い出せない。

「中学生の時にさ」

 いきなり美月は明るい声を出して、私に笑いかけてきた。横に置いておいたそばを手に取り、またズズズとすすりだす。

「私と和実、好きな人かぶったじゃん?」
「そんなことあったっけ?」

 覚えていたけど、忘れたふりをした。正直、あまり思い出したくない思い出だ。

「中一の時だったかな。陸上大会の時に百メートル走で一位になった男子に二人して一目惚れしちゃったじゃん。覚えてないかな?」

 そんで、その男は、美月が好きだったんだよ。よおおおおく覚えてる。

「陸上大会の帰りさあ、二人で『高坂君、かっこよかったねえ』って話してさあ、和実が『ほれたかも』って言い出して。私も『私もー!』って立候補してさ。譲り合いっこしたじゃん。『美月が好きなら私は身をひくわあ』『何言ってんの、私は友情を取るわ!』『いいんだよ、恋をとっても。私は美月の友達でいてあげる』『和実!』『美月!』で、抱きしめあったよね」

 ……よく覚えてる。もちろんふざけてのやり取りだったけど、三角関係になるかもしれないって状況を、ついつい面白がって楽しんでしまったのだ。

「あれ、おふざけだったけど、私は嬉しかったんだよ。きっと同じ人好きになって、取り合いみたいになっても、和実はたぶん友達でいてくれるんじゃないかなって思ったんだもん」
「愛の告白?」
「うん。和実たん、愛してるー」
「嘘くさっ」

 鼻をつまんで、片手で仰ぐ。美月は「ひどーい!」と口を尖らせて、最後の一口だったそばを勢いよく食べた。

「ふられたーーーー!」

 美月が唾を飛ばして叫ぶから、私は食べていたそばを喉に詰まらせてブホッと咳き込んでしまった。

「ふざけんな! バカ男ーーー!」
「ちょ、美月?」
「こんないい女を振るなんて、馬鹿じゃねえのーーー!」
「自分でいい女って言っちゃったよ」
「和実も叫べーーー!」

 そうなるだろうと思ったけど、やっぱり巻き込まれるのね。
 私も最後の一口をずずっとすすって、立ち上がる。

「知己のあほーーー! 後悔しても知らないからなーーー!」

 そうだよ。バカ知己。いつか絶対後悔するんだから。

「こんないい女振るなんて、馬鹿だろーーー!」

 美月と同じように叫んで、全速力で駆け出す。
 バシャバシャと波打ち際に乗り込んで、思いっきり水を蹴飛ばした。海水は月の光に照らされて、流れ星のように瞬いて落ちる。
 美月も走り寄って来て、いきなり私に向かって手で水をかけてきた。
 悲鳴をあげ、お返しとばかりに水を飛ばす。飛沫は自分にもかかり、目の中に入る。
 片目をつぶった瞬間、またもや水の被害を受ける。

「冷たーい!」

 お返しをすれば、仕返しされる。お互い水浸しになりながらも、面白くておかしくて止められない。

「水も滴るいい女!」
「私もそう思った!」

 美月が笑う。私も笑う。
 私たちに非がある恋愛だったのかもしれないけど。
 それでもさ。
 どこかで信じたかった。
 いい恋をしたから、新しい一歩を進めるって。
 もっといい恋をする。もっといい男を見つける。もっと。もっと。

 私たちには明るい未来しか待ち受けていないと、信じて疑わずにいたかった。

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【2009/11/20 03:17】 | Fly high, High sky(青春コメディ)
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