きよこの書き散らかし小説。
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神様がくれた
じいに捧ぐ物語。

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第2話 海の家でアルバイト。

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 唐突の質問に、実由はごくりと唾を飲んだ。
 いきなりそんな核心を突くようなことを聞かれるなんて、思ってなかった。

「……初対面の人に、教えることじゃないし」
「ま、そうだけど」

 つい冷たい声色になってしまったが、厚志は何も気にしていない様子だ。穏やかな笑顔で、実由を見ている。
 観察されているようで、どうも気恥ずかしくて、実由は体を背けて海に目を向けた。
 
「麦茶、飲む?」

 飲む、と答えていないのに、実由の右手の近くに麦茶の入ったコップが置かれた。水滴のついたコップは、触れるだけで実由の体を冷やしてくれた。

「そんなに警戒しなくても大丈夫だって」

 実由の前に厚志は腰を下ろし、からからと笑った。
 そのまま、足を崩しあぐらをかく。目の前であまりにリラックスした姿を見せる厚志に、実由はほんの少し安心感を覚えた。
 人に警戒心を与えない、優しい笑顔。目尻によった皺が、彼の優しさを物語っているようだった。

「……居場所が無いんだ」

 つい本音がこぼれる。なぜこんな素直に言葉を吐いてしまったのか、実由は慌てて自分の口を手で塞いだ。

「それが家出の理由?」

 うなずいて、そのままうつむく。もう言ってしまったことは取り返しがつかない。

「いじめ?」

 首を振る。学校内で横行するいじめだけれど、実由はラッキーなことにいじめにあったことは一度も無かった。

「親と不仲?」

 さらに首を振る。親には半分あきらめられているが、仲が悪いわけではなかった。

「彼氏と別れた?」

 首を振ろうとして、止めた。事実、実由は終業式の日に彼氏に振られていた。それが家出の理由ではなかったが、きっかけではあった。

「何日間、家に帰ってないの?」

 指を三本立ててみせた。厚志は「やっぱり」と苦笑いを浮かべて、ごろりと寝転がった。

「どうすんの? 親に連絡はした?」
「したから、平気」

 家出したとはいえ、実由は律儀な性格だった。親に言われたとおり、毎日連絡をしている。ある意味、親公認の家出なのだ。

「それって、家出じゃなくね?」

 声を立てて笑う厚志のくしゃくしゃになった顔が、実由にはまぶしく見えた。ちょうど、朝日が彼の顔に当たっているせいかもしれなかったけれど。

「麦茶飲んだら、家に帰りな。駅まで送ってやるから」
「嫌。帰らない」

 家に帰らなければならない――そう思ったら、急に喉がぐっと痛くなった。帰りたくないと、理由も無いわがままが支配して、てこでも動かない。

「帰らないって、じゃあ、どうすんの?」

 再びのそりと起き上がった厚志の体から、畳に残った砂が舞い落ちる。朝日に当たって輝いて、実由は少しめまいに似た感覚を覚えた。
 光の粒が、彼の体から落ちているみたいだった。

「ホームレスになる」
「はあ?」
「昨日、あそこにいるダンボールのおじいさんと仲良くなった」

 実由の指差す先には、防波堤がある。
 その先にある水族館の近くに、いつもダンボールを抱えた老人が住み着いている。
 行く当てもなくさまよっていた実由は、昨日、その老人と夜遅くまで一緒に過ごしたのだ。
 
「あのおじいさんと一緒にいる」

 厚志は実由の突拍子も無い発言に、唾を飛ばして噴き出してしまった。

「高校生でしょ? あんた」
「あんたじゃなくて、朝比奈実由」
「みゆ……みゅーちゃん、高校生でしょ?」

 いきなり名前を呼ばれて、実由は頬を赤く染めた。
 馴れ馴れしい、とは思ったけれど、悪い気はしなかった。
 厚志の透き通った声は嫌味なかんじを与えない。心地良さだけが残る。

「高二」
「高二の女の子が薄汚れたシャツ着て、ホームレスって本気?」
「帰りたくないんだもん」

 薄汚れたシャツ、と言われて、改めて自分の着ていたシャツをつまんで眺めた。家を出た時は真っ白だったシャツが、薄く黄ばんでいた。心なしか、汗臭い気もする。

「わかった。俺のかあちゃんに頼んで服借りるから。それで風呂入れ。ついでにここの手伝いをしろ」
「は?」
「アルバイト、探してたんだ。二、三日働いて、すっきりしたら家に帰ればいいだろ」

 厚志はいたずらっこみたいな笑顔を向けてくる。実由の顔は火がついたように熱くなった。 こんななりした自分が恥ずかしくなる。いきなり出された提案に、頭が回らない。

「はい、そうと決まったら、掃除よろしく。俺はかあちゃん呼んで来るから」

 柱に立てかけてあったほうきを手渡され、実由は両手でそれをかっちり掴んでしまった。
 わけがわからないままなのに、その行動を「YES」のサインと受け取られてしまったようで、厚志は「頼んだぞ」とだけ言い残して、小走りで海の家を出て行ってしまった。



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【2009/01/27 22:18】 | 神様がくれた(恋愛)
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