きよこの書き散らかし小説。
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Fly high, High sky

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第6話 似たもの同士

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 熱を放射する太陽はだんだん西に傾き始めていた。
 肌寒くなった体をタオルで包んで海の家に戻る海水浴客たちが増えてきている。肌を露出し水に使った体では、この潮風は冷たく感じるだろう。
 風になぶられる髪が口に入る。片手で髪を掻いた後、両手で顔を覆った。

 美月は中高といじめにあった。
 だが、世間で言ういじめのレベルからすると、たいしたことではない。
 美月のクラスメートの数人が美月の悪口を言いふらし、クラス内で美月が孤立するように画策したのだが、影響力のあまりなかったそいつらではクラス全体を巻き込んでのいじめにならなかったのだ。
 すべてに無視されるのはつらいが、一部でも無視しない人がいれば、いじめは乗り越えられる。
 それでも、悪意を向けられるということは、心に傷を作るのだろう。美月は中高時代の話を自分からはしてこない。

「和実、発見!」
「世界! 不思議発見! みたいな言い方やめて下さい」

 某クイズ番組の司会者の声真似をしているっぽいが全く似てないので、私にしか理解できないだろう。

「どこ行ってたのさー。探したんだよー」

 美月は口を尖らせるが、それはこっちのセリフだっつーの。

「海、気持ちいいね」

 大きく伸びをして幸せそうに笑む美月は、どこぞのCMかと思うほど、爽やかさに満ちている。

「海に来ると思い出さない? 潮干狩りに行った時のこと」
「あー! 懐かしい」

 思わず笑ってしまう。
 あれは、小学校五年生の時だったか。テレビで芸人が潮干狩りしていたシーンを観た私と美月は、潮干狩りツアーを計画した。もちろん、美月の提案だ。
 美月が物置から発掘してきた砂場遊び用のキティちゃんのバケツと、熊手が無いからシャベルを持ってでかけた。
 バケツとシャベルを、袋に入れずそのままでだ。それで二時間も電車に乗ったのだから、今にして思えば恥ずかしくってしかたない。

 海に到着した私と美月は一心不乱にシャベルを動かし、あさりを掘り漁った。これでもかこれでもかと掘り続け、キティちゃんのバケツはあさりでいっぱいになっていた。
 これだけ大漁ならお父さんもお母さんも大喜びだね、なんてのん気な会話をかわして駅まで戻って、私たちははっとした。
 泥だらけの上に、あさりはバケツにそのまま。
 潮干狩り場のおじさんが、「袋に入れてあげるよ」って言ってたのに、美月が「なに言ってやがる。バケツに大量に盛ってあるのが味ってもんでい」とかなんとか、なぜか江戸っ子口調で主張して、二人で意気揚々と駅まで行ってしまったのだ。

 戻ろうかとも思ったけれど、バケツいっぱいのあさりはさすがに重く、また海に戻る気にはなれないし、ましてや一生懸命とったあさりを捨てていくのも嫌だったから、そのまま電車に乗ってしまった。
 車内全体に広がる磯臭さは、その原因を簡単に辿らせた。
 泥だらけの、あさりこんもりのバケツを持った女の子二人。乗客たちは私たちを怪訝そうに何度もチラ見した。
 私は恥ずかしさでうつむいて必死に顔を隠したけれど、美月は何も気にしない様子で「くさいね。次はパピーに頼んで車で行こうね」と次回に心躍らせていた。

 だが、次回は無かった。
 理由は簡単。
 私も美月も、あさりが嫌いだったのだ。
 二人揃って、その事実を忘れていた。
 私たちにとっては自慢に思えた大漁のあさりは、親にとっては宝の持ち腐れ状態。「あんた、食べられないくせにこんなにとってきてどうするつもりなのよ!」と母親に怒られ、私はあさりご近所おすそ分けツアーに行かされるはめになった。
 美月はというと、武器になるあの容姿でもって、お隣のおじさんにすべて押しつけたらしい。
 天使のように笑って「おじさん、これ、美月がおじさんのためにとって来たの。もらってくれるよね?」って言ったらイチコロだったらしい。

 美月は人に好かれることを得意としていた。どうすれば大人が喜ぶか理解していたし、幼い頃から、自分の容姿を武器にする術を知っていた。
 悪く言わなくても、八方美人なのだ。

「そういやあ、あれから一回も潮干狩り行ってないねえ」

 残念そうに美月がつぶやくから、美月の肩をどついてやる。

「あさり嫌いじゃん」
「でも、駿介は好きだったんだよ。あさりの酒蒸し、居酒屋行くと絶対頼んでたもん」

 磯の香りが急に鼻をついた。あさりの酒蒸しの話なんかするから、さっきまで気にしてなかった海の独特な生臭さが思い出されたのだ。

「……私さあ、駿介と別れたんだ」
「え」

 突然の告白に、驚いて息を飲んだ。短く声をあげるのが精一杯で次の言葉が出てこない。

「和実を旅行に誘う前。ふられちゃった」
「な、なんで?」

 あんなに仲良しだったし、駿介は美月にゾッコンラブっぽかったのに。
 ……そうは言っても、私が駿介に会ったのはディズニーランドの時と、その後、一回飲みに行った時だけだ。その時の印象でしかないから、事実は違ったのかもしれない。

「私といると、疲れるんだって。そう言われたの、これで何人目なんだろ……」

 私の横に座り、美月は小さく肩を震わせて膝に顔をうずめた。
 落ち込む美月をよそに、私は笑いが込み上げてきて、我慢できず、ブフッと吹き出してしまった。

「ちょっとお! 真剣に悩んでるのに、笑うのっておかしくない!?」

 美月が怒るのも当然だ。人の不幸を笑ったようなものだもん。

「ごめん。でもさあ、あー……私たちって似たもの同士なのかもね」
「なんでさ?」
「私もふられたの。しかも、理由、一緒」
「まじ?」
「まじ」
「まじですか?」
「まじですよ」
「うわあ、ありえない」
「ねえ、本当に」

 二人して顔を見合わせて、苦笑した。そしたら美月の目がどんどんへの字に歪んで、頬がどんどん膨らんでいく。
 絶対笑いをこらえてんな、と思ったと同時に、私も笑いがまた込み上げて、二人同時に笑い出した。

「つうか、同時期にふられるって、どんだけ仲良しなの、うちら!」

 笑い転げながら叫ぶ。美月もひーひー言いながら、砂を叩いた。

「すっげえ寂しいやつらじゃん! ふられて女二人旅!」
「死ぬ! 孤独死! 孤独死する!」
「私がいますよ、美月姫ー!」
「わあい! 寂しさが増したー!」
「なんでやねん!」

 いつの間にか、海水浴客のほとんどがいなくなっていて、浜辺でビニールシートを敷いているのは私たちくらいになっていた。だから、遠慮することなく大騒ぎが出来ちゃって、必要以上に笑いまくった。
 笑いすぎて涙が目の端に滲む。ちらりと見た海は、涙のせいかキラキラと白く輝いていた。

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【2009/11/14 02:36】 | Fly high, High sky(青春コメディ)
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