きよこの書き散らかし小説。
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Fly high, High sky

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第5話 美月と私

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「美月、海に着いたよ」
「うえー」

 舌を出しながら渋そうな顔を私に向けてくる。失礼なことに、美月は爆睡こいていたのだ。運転してる私に対する気遣いゼロのやる気のない顔にむかっ腹が立つ。

「車の中で寝てるう」
「海の家のラーメン食べるんでしょー」
「おなかすいてないもーん」

 煙草の吸殻入れのところにひっかけたコンビニのビニール袋には美月が食べたお菓子の袋が詰まっている。いっぱい食べていっぱい寝るって、お前は赤ん坊か。

「車の中にいたら、サウナみたいになるよ。外に出たほうが今の時間は涼しいって」
「ぶーぶー」

 立てた親指を下に向けて抗議してくる。
 美月はいつだってわがまま姫だ。美月のご両親は美月を甘やかしてるし、美月の周りにいる男どもなんて、美月のこの容姿にヤラレてなんでも言うことを聞いてしまう。それこそお姫様に仕える僕のように。

「もう知らん」

 さっさとエンジンを切って車から出る。美月を甘やかさないのが、私の美徳ってヤツだ。
 トランクをあけ、彼氏の知己とピクニックに行った時に使ったビニールシートを取り出す。今年の春に使ったのだが、無精の私は入れっぱなしにしていたのだ。
 水着は持ってないけど、浜辺で寛ぐくらいはしてもいいだろう。

 準備を淡々と進める私の姿を見て諦めたのか、美月もようやくのっそりと体を起こして車から出てきた。
 三時過ぎの浜辺は海風が強くなってきていて、日差しは暑いのに体感温度は少し寒い。

「海入る?」

 聞くと、美月は首をぶんぶんと振り回して両手で体をさすった。どうやら「海に入るには寒いから無理」というジェスチャーらしい。

「運転も疲れたし、今日はここらへんに泊まろうよ。民宿もあるしさ」
「うん」

 公営駐車場のすぐ近くに海の家がずらりと並んでいる。そのひとつに入ったら、従業員らしきおじさんが「お、いらっしゃい」と声をかけてきてくれた。
 まっくろに日焼けした顔から真っ白な歯をのぞかせて笑うおじさんに、この近くに今日泊まれる民宿があるか聞いてみたら、「俺んところは民宿もやってるから、泊まるといい」と言ってくれて、早くも宿を見つけてしまった。

「お嬢ちゃん一人かい?」
「いえ、二人」

 美月の姿が見えない。奔放な美月は、こういう時はすぐに行方をくらませて人任せにしてしまう。私、よく友達やってるな……。

「すぐ来るかい? 近いから案内するよ」
「いえ。ちょっと海で遊んでからにします。車あるんで、場所だけ教えてもらえれば後で行くんで」

 親切な海の家のおじさんに簡単な地図を書いてもらって、美月を探しに浜辺に向かう。
 海岸線は遠く、黄土色の砂浜が続く。ちょうど干潮の時間なのだろうか。
 三時すぎて海風が強くなっても、まだ海水浴客は減らないようで、砂浜にはビニールシートを広げた若者が寝転がったり座り込んだりしている。海を見ると、色とりどりの浮輪が波間波間に見え隠れして、人の群れが戯れていた。

 これだけ人が多いと、美月の姿を見つけるのは至難の業だろう。
 薄情な私は美月探しを速攻諦めて、適当な場所にビニールシートを広げて寝転がった。
 変な日焼けするのは嫌だから、ショートパンツを折ってなるべく足を出しTシャツの袖をまくる。

 白い太陽の光が視界を真っ白に染めて、くらくらした。
 ふと、知己のことを思い出す。
 むかついて「こっちから願い下げ」なんて言ったきり、連絡を取っていない。
 ケータイの電源を落としてしまっているから、連絡が来たとしても旅行中は気付くことも出来ないだろう。
 あれで、私たちは終わりになったのだろうか。別れ話といえば別れ話だけれど、あんな感情的になった終わり方では、終わりにしたと思えない。
 もう一度会って話をすべきなんじゃないか――そう思って、頭を振る。

 話をしたって、別れ話にしかならない。

 氷を飲み込んだ時みたいに、胃がひやっとする。
 そう、私と知己は終わってしまったのだ。
 今更その事実を噛みしめる。急に寂しさが込み上げて、体を起こした。
 美月がいないか探したけれど、あのすらりとしたナイスバディはどこにも見当たらない。
 まさか一人でラーメンを堪能してるんじゃなかろうな。
 美月は一人で焼肉屋に入れる豪胆なのだ。海の家ごとき、一人でいるなんて余裕だろう。

 もう一度、ビニールシートに倒れこむ。

 知己と付き合いだしたのは、大学三年の春だった。だから、一年とちょっとの付き合いになる。
 大学のサークルの友達から紹介してもらったのが始まり。
 固そうな黒髪に、細めの二重まぶたの目が印象的で、真面目そうな人だな、っていうのが第一印象だった。少し猫背なのが気になったけど、笑う時に出来る片えくぼがなんか好きで、私は恋に落ちた。
 無趣味の知己を連れまわすのはいつも私で、美月の彼と四人でダブルデートをしたこともある。
 その時の知己が、美月に釘付けになっていたのを、私は未だに根に持っている。

 美月と一年近く連絡が途絶えたのは、実はそのせいだ。

 私と知己と、美月と美月の彼の駿介。四人でディズニーランドに行った。
 その日、美月は白いシャツにプリーツのはいったミニスカートを履いていて、白く細い足を見せびらかすように飛び跳ねてディズニーランドを歩き回った。
 快活な笑顔や、くるくると変わる表情は、女の私から見てもかわいらしくて、嫉妬を隠しきれなかった。

 今まで、目を背けていたことだった。

 美月の一番の友達を演じることは、私という人間のプライドだった。
 頭ひとつ飛び出た美貌を妬み嫉み、いじめに走る同級生と私は違う、私はそういう『人として最低なことをしないかっこいい自分』を誇りに思っていた。

 だけど、あの日、私は自覚してしまったのだ。

 美月を妬んでいじめた中学や高校の同級生たちと、私は。

 何ひとつ変わらないということを。

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【2009/11/12 03:12】 | Fly high, High sky(青春コメディ)
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