きよこの書き散らかし小説。
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Fly high, High sky

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第3話 目指せ、桃源郷!

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 面接を受けた会社のほとんどから不採用通知が送られてきて、ある意味で一段落した夏休みの初め。
 私は実家に帰り、旅行の準備を進めていた。

 まだ就職先は決まらんのか、のんきに旅行なんて行ってる暇があるのか、とかなんとか言ってる親のお小言を全部聞き流して、免許を取ってすぐに中古で買った軽自動車に荷物を詰め込み出発した。
 弟と折半して買った車だから、弟には散々文句を言われたが、知ったこっちゃない。
 ジャイアンだって言っている。お前のものは俺のもの。俺のものはお前のもの。

 美月からメールで送られてきた旅のルールに則り、家族との連絡が途絶えても怪しまれないよう、海外旅行に行くと嘘をついた。「海外なら車いらないじゃないの」とごもっともな反論をいただいたが、朝早い便で行き夜遅い便で帰るから電車が無くなる。車が無いと困ると訴えて事なきを得た。

 実家からそのまま美月のアパートに向かい、待つこと十分。
 アパートの階段から長いストレートヘアをポニーテールに結わえた美月が、足取り軽く走り寄って来るのが見えた。

「おはよー」

 ショートパンツにボーダーのキャミソールを着た美月は、これから海に行く人にしか見えない。

「久しぶりー。なにげに一年ぶりくらい?」

 大きな瞳を細めて、ニコニコ笑顔で車に乗り込んでくる。私も「一年ぶり」と笑顔を返した。

「和実、変わってないねー。かわゆいかわゆい」

 どこぞのオヤジのように私の肩まで伸びた髪をつんつん引っ張ってくる。一年ぶりだから忘れかけてたけど(というよりは忘れようとしていたのかもしれない)美月はいつもテンションがおかしい。

「旅のルールは覚えてますか?」

 旅のルールって、あのメールで送られてきたやつのことか。
 ケータイは使わない、親に言わない、とかだったのは覚えてるけど。

「さては忘れてたね。いい? ちゃんと聞くように! その一!」

 その一。うんうん、とうなずきながら、美月の次の言葉を待つのに、美月は何も言い出さない。不思議に思って美月の顔をのぞきこむと、「その一!」ともう一度声を張ってきた。

「声が聞こえない!」

 ああ、卒業式みたいに山びこしないといけないのか。「ぼくたち」「わたしたちは」「卒業します」「卒業しまーす!」ってやつ。

「その一!」

 めげない美月に負けて、しょうがなく「そのいちー」と声を出してやる。

「ケータイは持たない!」
「ケータイは持たなーい」

 やる気のない声を出してるから怒られるかと思ったら、美月は満足そうだ。簡単なヤツ。

「その二!」
「そのにー」
「行き先は決めません!」
「そしたら、どこに行くの?」

 あてのない旅とはいえ、行き先はあるはずだ。そうじゃなきゃどこにも行けない。
 当然の疑問を口にしたのに、美月にとっては不服だったらしく、思いっきり睨まれた。大きくて形のいい目は凄みがありすぎて怖い。

「その三!」

 無視かよっ!

「そのさーん」

 無視されてもちゃんとのってやる私、優しいです。

「誰とどこに行くかは親にも内緒!」
「で、どこに行くの?」
「その四!」

 また無視された。

「そのよーん」
「車は和実のー!」

 美月は車もってないもんね。わかってる。

「その五!」
「そ、そのご」
 その五もあったとは。一体いくつあるんだ、このルール。

「びんぼーなので、安宿に泊まるー!」
「賛成!」

 私だってお金無い。就活を始める前までやっていたファミレスのアルバイトで貯めたお金がいくらかあるから多少の旅行は出来るが、働いていないのだからこれから先、収入は無い。
 就職が決まるまでは収入源を確保できないのだから、出来ればお金はなるべく使わないようにしたい。

「で、どこに行くの?」

 ていうか、行く場所決まらなきゃ、車だって出せない。いつまで美月のアパートの前に路上駐車してりゃあいいんだ。

「桃源郷」

 語尾にハートが乱舞してそうなかわいらしい声で返って来た答えは、意味不明。

「桃源郷って、なに」
「桃の花が咲き乱れ仙人がうろちょろする俗世を離れた理想郷、それが桃源郷よ、ブラザー」

 私は女だからシスターだってば。
 大体、仙人がうろちょろしてるなんて、まったくもってありがたみがない理想郷だな。ごくまれにしか会えないから価値があるってもんじゃないの。

「あの山を越え、あの谷を越え、行こうじゃないの! 桃源郷!」

 芝居がかった言葉の後、私の手をガシッと握り、バンザイする。
 誰か、止めてください。
 車の外から見たら、馬鹿丸出しです。

「で、そのとうへんぼくはどこにあんのー」
「桃源郷!」

 なんでもいいわ。

「ハニー、わかってないなあ。どこにあるかわからないから、『あてのない旅』になるんじゃないの。北に東に南に西に、日本縦断、桃源郷探しの旅。楽しいね」

 ……死ぬまで見つからないと思う。

「じゃあ、まずはどこを目指しますか? そろそろ車を動かしたいです」
「ふふん」

 鼻息荒く、美月が偉そうに差し出したのは一センチ四方の小さなサイコロだった。

「サイコロを振ります」
「はい」
「目が出ます」
「はい」
「ふくらみます」
「はい?」
「花が咲いたら」
「……じゃ、じゃん」
「じゃんけんぽーん」

 誰かあああ!! 家に帰りたいんですけど!!
 そうだ、美月はこんだけきれいな子なのに、頭のネジが一本取れた子なのだ。百七十センチちかくある身長にバランスの取れた細い体、そんでもってかわいい顔立ちをしてるから外見に騙されて言い寄ってくる男たちはいっぱいいるけど、美月と付き合った男たちはすぐにこう言い出す。

「付き合いきれない……」

 美月とまともに付き合えたのは、大学に入ってから出来た彼氏で、駿介だけだ。天ボケした男の子だけど、美月の一番の理解者なのだ。

「えっとね、まずはサイコロ振るでしょ。一回目に振るサイコロは、偶数が0、奇数が1なのね」

 そう言いながら、美月はサイコロをダッシュボードの上に転がす。
 出た目は4。

「次に転がす数字と、今さっき出た数字を合わせた数字の国道を目指すの」

 もう一度振ったサイコロは、6で止まる。

「0と6だから、国道6号に向かうってことね。ね、面白くない?」
「ちょっと、面白いかもね」

 なんだかまるで、人生ゲームみたいだ。あれはサイコロじゃなくてルーレットだけど。
 まさにあてのない旅。
 ナイスなアイディアだって言ったら美月が喜ぶ。それも癪だから、顔には出さないようにしたけど、なんだかワクワクしてきた。

 どこに行くか、たどり着くか、全くわからないけど。
 楽しそうなことが待ち受けていそうな予感がしたんだ。

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【2009/11/05 04:57】 | Fly high, High sky(青春コメディ)
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