きよこの書き散らかし小説。
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Fly high, High sky

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第2話 ふられて旅。

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 不採用通知をもらうのは、これで何度目だろう。
 独り暮らしのポストに詰め込まれたチラシの中にうずもれて、二通の白い封筒が見えた時、私はでっかいため息をついて肩を落とした。
 最終面接に行った会社と、この間試験を受けた会社からうすっぺらい封筒が届けられた。
 そのぺらぺらっぷりに、封を開けなくても不採用通知だとわかった。

「まじで蟻地獄だよ……」

 あと少しで脱け出せると思いきや、ずりずりと砂は落ちてまた元の場所に戻る。あと何回これを繰り返せば、ゴールに辿りつけるんだ。

『また不採用だった。最悪』

 彼氏の知己(ともき)にメールを送る。すぐに返事が来ることを期待していたけど、ケータイはうんともすんとも言わない。

「神様ぁ……。疲れたよう」

 泣き言を吐いても、独り暮らしのこの家じゃ、聞いてくれるのはハムスターのタムだけ。と思ったら、タムはグレーの毛玉みたいになって丸まって寝ていた。
 ――誰も聞いてくれてない。

 神様、疲れました。わがまま言いませんから、就活を終わりにさせて下さい。嫌いなきのこも食べます。タムが頬袋に溜め込みすぎたひまわりの種を無理やり押し出して遊ぶのもやめます。知己のケータイを勝手にいじるのもやめます。
 だから、どうか。
 終わりにさせて下さい。

 意味も無く窓から見える空を仰いでお祈りしていたら、ケータイが大音量でベートーベンの『運命』を流す。
 シチュエーションが合いすぎて、怖すぎるんですけど。
 就活を始めてから、ケータイの着メロは『運命』になっている。だって、就職先から連絡が来たら、『運命』じゃないか。素敵な『運命』を願って……いわゆる願掛けだ。

「もしもし」

 勢いよく電話に出る。

『あ、俺』
「なんだ、知己か」

 誰からか見てなかった。面接を受けたどれかの会社からを期待してたけど、そううまいこといくわけないか。

『あのさあ、今日の夜ひま?』
「サークルの子と約束あるわ……ごめん」

 スケジュール帳を開いて確認すると、大学のサークルの友達数人と焼肉に行く予定が書いてあった。

『そっか。今、平気?』

 今日は大学が休みだったから買い物に行って、帰ってきたところだ。焼肉の時間まではあと三時間あるから、大丈夫。

「平気だけど、なに?」

 いつもより暗い声に、心臓がどぎまぎする。知己は春には内定が出てしまっているから、内定取り消しとかかわいそうなはめになってないか心配になる。

『いきなりだけどさあ、別れよう』
「は? 細胞分裂でもすんの?」
『……俺はお前の言うことがたまにわからなくなるわ』
「私もよくわからん」

 幻聴じゃなけりゃ、今別れようって言ったよね?

「理由は?」

 やけに冷静な自分がいる。胃の中にアイスノンをぺったり貼り付けたみたいに、冷たいものが体の真ん中にいる。

『お前といると疲れる』

 はっきり言うなあ。

『俺は就活終わったし遊びたいんだよ。でも、お前に気を使って何も出来ない。早く内定もらえよ』

 もらえるものならもらってるわっ!

『ぐちぐち不採用もらった不採用もらったって、そればっかメール来ると、俺も滅入るんだよ。もうやだ』

 口元が怒りでひくつく。
 かわいい(と思う)彼女が就活で参ってるってのに、「巻き添えくって嫌なんだよね、俺。遊びたいのに、卑屈な彼女がうじうじうるさいから遊べないしー。うざいから捨てちゃえー。ぽーい」ってことだろ?

「馬鹿じゃないの。お前みたいな男、こっちから願い下げだわ。海にでも行ってナンパでもして、ギャルのバカ女に遊ばれて金巻き上げられちまえ!」

 ケータイをぶちっと切る。

 なんなんだ。なんなんだっ。

 就活もうまくいかず、彼氏ともうまくいかず。悪循環ってこういうこと?

 神様。私の幸福はいずこ?

 がっくりとうなだれていたら、またケータイが鳴る。今度はゲゲゲの鬼○朗のオープニングの音楽だ。……誰? この着メロにしたの。ああ、私か。

『ゲ・ゲ・ゲゲゲの・ゲ~』

 ああ、頭が痛い。ケータイを開いて、届いているメールを見る。

『いつから旅行行ける?』

 美月からだ。例の『あてのない旅』の話ね。
 すかさず返事する。

『今からでもっ!』

 ***

 美月とは小学校一年生の頃からの付き合いだ。中学、高校と同じ学校に進学した。
 名は体を表すというが、美月はその名の通り、きれいな子で、小学生の時ですらそれは際立っていた。
 色白の肌と黒目の大きいパッチリ二重。縁取る睫毛は天然でクルリとカールしていて、マッチ棒を三本くらい乗せられそうなほど長かった。艶やかな黒髪は日本人らしくまっすぐで、人形みたいな女の子だ。
 対する私は色黒で奥二重。ぱっとしない地味な女の子だと思う。男の子に間違えられることもあるほど、マッチ棒みたいな体型を未だに維持している。
 美月と並んで歩くことは、劣等感を増幅させる行為だというのは、私たちの外見だけでもわかってもらえるだろう。
 中学生の頃はたいして気にならなかったけれど、少しずつ大人になる過程で、外見の差は周りの態度に謙虚に出る。美月は男子にちやほやされるのに、私はからかわれて遊ばれることばかり。
 それが嫌で嫉妬心を抱えていたくせに、周りにはばれないようにしていた。
 あたかも美月の大親友で、美月のことを大切にする子を演じたのだ。
 それは、私のプライドでもあった。外身を気にする女だと思われたくなかったのだ。

 けれど、そういう自分に疲れを感じていたのだろう。
 大学に進学した途端、私は美月と距離を取った。
 講義の時間が合わないとか、バイトが忙しいとか、疎遠になるための要素はふんだんにあった。連絡を取らなくなれば、自然と離れていくのも人間関係においてはよくあること。

 美月と離れてわかったことは、私だって磨けば光るということ。化粧をし、かわいい服を着て、いい女のふりをする。今まで美月の影に隠れていた私が大学に入って、それなりにちやほやされたことは女としての自信に繋がった。
『外見を気にする女だと思われたくない』と思うのは、結局、外見を自分が一番気にしていたからなのだ。くだらないプライドを持ち合わせているのは、自覚している。

 大学に入ってからは、彼氏が何人か出来た。おかげで、美月に対する私のコンプレックスは幾分か和らいで、三ヶ月に一度は顔をあわせるようになった。
 それが逆に私たちにとってはいい距離感だったようで、私たちはまだ友達として仲良くやっていっている。
 ここ一年は、お互い就活やら彼氏とのデートやらで疎遠になっていたけれど。

『俗世を捨てて、桃源郷を目指す旅。ルール:一、ケータイは持たない(俗世と繋がるものはいりません)。二、行き先は決めません(桃源郷の場所はわかりませんから)。三、誰とどこに行くかは親にも内緒(桃源郷なんて言ったら、頭がおかしくなったと思われます)。四、車出して(はーと)』

 後日、美月からこんなメールが来た。
 ……桃源郷って、なに?

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【2009/11/04 02:57】 | Fly high, High sky(青春コメディ)
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