きよこの書き散らかし小説。
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Deep Forest

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第27話 チャンスの神様、前髪をわしづかみされる

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 ジャイさんの強引な誘いにまた負けて、私はまたジャイさんとデートするハメになってしまった。
 海浜公園駅の近くにある水族館で魚を堪能し、まだ時間があるからと海浜公園にやってきた。
 カップルや子供連れの家族がのんびりと散歩したり海を眺めていたり、なんとも穏やかな光景が広がる公園をゆっくり歩く。
 少し曇り空だけれど、それが逆に心地良い気温になっていて、芝生の上で寝転がってひなたぼっこしている人たちもいる。暮れ始めた太陽の光がオレンジ色に輝いて、別の世界に来ている気分になる。
 梅雨もそろそろ明ける。夏の空気を含み始めた風は海のにおいを乗せて、気持ちを高揚させる。

「魚、すごかったね。マグロとか」
「うまそうだった」
「寿司屋じゃないっつの」

 大きな水槽を優雅に泳ぎ回るマグロが特に印象的だったんだけど、ジャイさんは食べ物として見ていたらしい。
 確かにあのでかさ、あの泳ぎっぷり、食べるんだとしたら身がしまっていておいしそう。

「俺はマンボーが好きだな。ちょっと間抜けな顔なのに、でかくていかついし」
「ぬいぐるみだとかわいいのにねえ」
「あれは詐欺だな」

 他愛もない会話に笑ってしまう。なんだか、ずっと昔からの友達みたいで、気が楽だ。
 くだらない会話しかしてない。でも、楽しい。

 曇り空からのぞく太陽の光が、ストライプ柄の白シャツに反射する。まぶしくて目を細める私を、ジャイさんは横目でチラ見して小さく笑う。底意地の悪そうな含み笑いなのに、私はなぜか恥ずかしくなる。

「凛香ちゃんてさ、ちらっと見ると照れるよね」

 見透かされてるし。

「照れてなんかない」
「そう? すぐ目線はずしてうつむくから。その仕草って、何気にかわいいよな」
「そのセリフ、恥ずかしいよな」
「素直な感想ですよ」

 ふと、手と手が触れ合う。どうしようかと一瞬逡巡したけど、どちらともなく指を絡めあった。
 それが当たり前のように。いつもの、ごくごく自然な流れのように。
 右を見ても左を見てもカップルがいる。こうして手をつないで歩かない方が違和感を覚える。

「水族館でよかった?」

 西に消えゆく太陽を眺めながら、ジャイさんはつぶやく。

「ベタ」
「ベタベタ?」
「うん。ベタベタ」
「ベタベタしようか。せっかくだから」
「そのベタベタじゃないから」

 ベタなデートを繰り返して、私たちは恋人同士になるのだろうか。
 ジャイさんは本当にそれを望んでくれているんだろうか。
 ――付き合いたいから。あの言葉はどこまで真実なんだろう。

 夏へと季節は変わりゆく。上がっていく気温は、心の熱と比例する。
 恋をしようと、している。
 恋をしたいと、思ってる。
 でも……隅の方に追いやられたもうひとつの心が、ピーターパンのフック船長みたいな鍵爪で、ギリギリとこの気持ちを裂いてくるのだ。

 これは、恋になるのだろうか?
 これは、始まりなのだろうか?

「夕飯に行きますか」

 ぴたりと立ち止まったジャイさんの手に引っ張られ、私も立ち止まる。そういや、お腹すいてきた。

「うん。ゴハン食べよう」
「なに食べたい?」
「……マグロ?」
「水族館の?」
「捕獲しに行きますか」

 笑いあいながら、また歩き出す。

 居心地はいい。幸福感もある。
 なのに、なぜ。
 踏み切れない自分がいる。

 正体の無い黒い影が、いつも私の横でぶつくさと何事か囁いてる。何を言ってるのかはわからない。でも、それこそが、今の私の真実だ。
 ちゃんと聞き取らないといけない。向き合わなければいけない。

 わかってるけど、怖い。


 ***

「ごちそうさまでした」
「いえいえ」

 ジャイさんのおごりで、マグロ丼を堪能した。デートでマグロ丼を食べに行っちゃうあたり、これってデートなんですか? と問いかけたくなるけど、マグロ丼がおいしかったからいいや。
 そういえば、昼休みに連れてってくれた隠れ家っぽい料理屋でも丼もの食べさせられた。いや、あれはおいしかったし、選んだのは私だから文句を言う筋合いは無いんだけど。
 男女の関係というよりも男友達同士みたいだと思うのは、私だけか?

「さて、どうします?」
「なにが? あ、帰る? そんな時間?」

 腕時計を見ると、二十時。帰るにはまだ少し早いか。

「俺としては、ちょっとずるい手段だと思うから嫌なんだけどね。選択権は凛香ちゃんにあるから」
「帰るか帰らないかってこと?」

 今から帰ったとして、家に着くのは二十一時頃。明日は会社だし、そろそろ帰ってもいいかもしれない。
 でもなあ……。
 ジャイさんをぎろりと睨んで、口を膨らませる。
 ほんとにずるい。
 もう少し一緒にいたいって、言ってくれたらいいのに。言わせられるみたいで、悔しい。
 って、ちょっと待て。
 それって、私が一緒にいたいって思ってるってことじゃん。
 そんなバカな。

「ぱ、ぱぱぱぴ、ぱぴ」

 しまった。また宇宙と交信してしまった。

「凛香ちゃん、俺、宇宙人じゃないから、日本語で答えてよ」
「だ、だって。ちょ、ちょい待ってよ。わ、私のことはべ、べつに、別にしてもよ? ジャイさんはどうしたいの?」

 そうだよ。ジャイさんはどうなのよ? 帰りたいの? 帰りたくないの? その辺の意思の疎通は大切ですよね。

「俺? 何度も言ってる気がするんだけど。チャンスを逃す気は無いから。チャンスの神様は前髪しかなくて後ろはつるっぱげってね。神様の前髪をわしづかみにする主義」

 答えになってねえ!

「……おぬし、おそろしい男じゃのお」
「お代官様?」

 悪代官ごっこしてどうする!
 頭の中でピンクと白と黒と青がぐるんぐるん回っている。完全に停止しようとする脳みそをなんとか奮い立たせ、何を言うべきか模索する。

 やっくんと正式に別れて、まだ一ヶ月。たったそれだけしかたってない。
 ジャイさんに惹かれ始める私は、ほれっぽくて軽い女?
 それとも、やっくんへの気持ちがその程度のものだった?
 ……それともさ、寂しい気持ちを埋めるための代替え的なもの?
 それともそれともそれとも、本当に恋……なのか?

「もう少し、一緒にいてやってもいい」

 わかんないけどさ、それが素直な気持ちなんだよ。

「じゃ、俺んち来る?」

+++++++++++++

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あとがき↓
更新が遅くなってしまい申し訳ありませんでしたっ
昨日、友達とハロウィンパーティーしました。ハロウィン過ぎてたけど。
皆で手料理を持ち寄って、ホームパーティーです(^^)

パスタとかグラタンとか生春巻きとか麻婆豆腐とかピザとか。
おいしかったですー。

ちなみに私は飲み物係。(買っただけ)


新連載を始めました。
青春コメディ(になる予定)です。
こっちはアルファポリスの青春小説大賞に出してみたので、更新頻度を週3~4にして書く(予定)です。
(予定)がいっぱいなのは、私が「予定は未定」を地で行く人間だからです(苦笑)

お暇がありましたら、ぜひ読んでくださると嬉しいです。

Fly high, High sky
fh


拍手やコメントありがとうございます。
毎度言ってますが、ほんとにほんとに励みになります。
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更新が遅くなってしまい申し訳ありませんでしたっ
昨日、友達とハロウィンパーティーしました。ハロウィン過ぎてたけど。
皆で手料理を持ち寄って、ホームパーティーです(^^)

パスタとかグラタンとか生春巻きとか麻婆豆腐とかピザとか。
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こっちはアルファポリスの青春小説大賞に出してみたので、更新頻度を週3~4にして書く(予定)です。
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【2009/11/02 03:10】 | Deep Forest(恋愛)
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