きよこの書き散らかし小説。
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神様がくれた
じいに捧ぐ物語。

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第1話 始まりは、海。

+++++++++++

 目をつぶれば、あの時に戻れる。
 耳の底で鳴り止まない、波の音。
 朝焼けに照らされる赤い海の、あの色に染まる頬。

 海の音を。彼の声を。

 私は一生忘れないだろう。


 ***



 この海に来るのは、三度目だった。
 財布に残ったお金をつぎ込んで、電車に飛び乗り、この場所にたどり着いた。

 肩にかけたショルダーバッグには、財布とケータイと化粧品だけ。
 思い立ったが吉日だと、何も考えずに家を脱け出した。本当に何も考えていなかった。

「おなかすいた……」

 朝比奈実由(あさひなみゆ)はそれだけつぶやいて、朝焼けに染まる海を眺める。
 夕焼けよりも真っ赤に燃えた太陽は、海さえも赤く燃やしているようだった。

 家を出たのは、三日前。親に何も言わずに出かけて、メールで「友達の家に泊まる」とだけ伝えた。

 端的にいえば、『家出』したのだ。

 一晩で留まらず二晩目に突入した日、母親から電話があり、怒りの声を飛ばされた。
 だが、実由はあっけらかんと「明日も泊まるから」と答えた。
 実由は夜な夜な遊び歩くような子供だった。だから、母親も「連絡だけは毎日入れて」と呆れた声を発しただけだった。

 高校二年の実由にとって、闇雲に突き進んでいるだけのような今のこの時が、空しくてしかたなかった。

 大学は行くつもりだけれど、行きたい学校があるわけでもない。やりたいことがあるわけでもない。
 ずっと何も考えずに遊び歩いていたいだけ。
 将来のことなんて、考えたくもなかった。大人になるなんて、絶対に嫌だった。

 夏休みを迎えた日、実由の中で、何かが音をたてて壊れた。
 だから実由は、こうしてただ海を眺めている。

 さざ波が朝日を浴びて白い光を反射する。体育座りをした実由の足元にまで、波はせまってくる。
 けれど、実由はそこから動こうとしなかった。真っ白だったウェッジソールのサンダルはすっかり汚れ、その先端が少し濡れる。
 冷たい海風が頬をくすぐって、たまらず顔を膝の間にうずめた。

「なあ、あんた。この前からずっとここにいるけど、何してんの?」

 後ろから突然声をかけられて、実由はびくりと肩を震わせた。
 おそるおそる振り返ると、そこにはこげ茶の髪を寝癖でもしゃもしゃにした男が立っていた。
 実由よりも少し年上だろう。おそらくは大学生くらいの青年が、笑顔を向けてくる。

「海、見てる」

 あからさまに不機嫌な声で答える。見知らぬ人に声をかけられるのは苦手なのだ。

 優しげなタレ目はくっきりとした二重に彩られ、日に焼けて黒いのに肌は女の肌のように滑らかだ。
 実由は男の風貌を上から下まで眺めた後、急に恥ずかしくなって、また顔を膝の間にうずめた。

「もしかしなくても、家出?」

 図星をつかれて、顔を上げ、男を睨む。男はふっくらした唇を尖らせて「ひゅう」と風のような音を立てた。

「当たった」
「だから、なに? 関係ないじゃん」
「あそこ、俺の親がやってる海の家なんだ。ちょっと寄ってく?」

 彼が指差す先には、トタン屋根の薄汚れた海の家があった。『氷』と書かれた布が風で揺れている。

 突然のお誘いに、実由は驚きで目を見開くことしか出来なかった。


 ***


 夏といえども、海から吹いてくる風は涼しい。
 朝の風は潮の香りをのせて、海の家を通り抜けていく。
 実由は海側の一番端のテーブルに座り、寄せては返す波をじっと見つめていた。
 風で揺れる長い髪の毛を押さえると、ずしりと重みを感じる。潮風で髪の毛はすっかりごわついてしまっていた。
 肩甲骨辺りまで頑張って伸ばしたけれど、こうなるとうざったくって仕方ない。

 実由をこの場所に連れて来た青年は、ほうきで掃除をしながら、実由に話しかけてくる。
 彼は『高山厚志』という名前で、母親の経営する海の家――浜屋という――でアルバイトをしているらしい。
 大学二年の夏休みを暇で持て余してしまい、母の口車に乗って安い時給でこき使われるはめになってしまったのだそうだ。
 だからこそ、しょっちゅうさぼってるんだと、笑って話してくれた。

「あんた、この海に来るの、三度目だよね?」

 そう言いながら、厚志はガラス戸をどんどん開けていく。平屋の家屋はほぼすべてがガラス戸になっていて、風通しがよい作りになっている。

 ガラス戸が開く度に、夏の日差しが濃くなっていく気がした。

「なんで、知ってるの」
「一昨日も昨日も今日も、朝は俺がここの掃除をしてるんだよ。あんたの姿も見てた」

 波打ち際が遠い、干潮の朝の時間。実由はこの三日間、一人ぽつんと波打ち際に座っていた。
 厚志がその姿を見たのは、今日で三度目、三日連続だったのだ。

 まだ夜の余韻を残す冷たい風が、照り出した太陽の暑さを弱めてくれる。まぶしい光が、波間波間に揺れて、キラキラと光っていた。

「ずっと話しかけようか迷ってたんだよ。毎日一人だし。服も……ずっと一緒だし」

 実由は自分の服をつまんで、苦笑するしかなかった。
 白いTシャツにブラックデニムのショートパンツは、今日に至るまで三日間、一度も洗っていない。

「なんで家出したの?」



+++++++++++

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【2009/01/26 04:42】 | 神様がくれた(恋愛)
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2009/09/09(Wed) 19:22 |   |  #[ 編集]
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