きよこの書き散らかし小説。
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久々に短編を書きました。

小説家になろうというサイト様で開催されている「5分企画」の参加作品です。

5分で読める作品が揃っていますので、ぜひぜひ読んでみてください!


350ml
「実弥さんは父親の愛情を求めていただけだと思います」
下らない理由。私の本音はどこにも無い。先生と私の、放課後のひととき。


ジャンルがわからないのですが、一応ほんのり恋愛はいってます笑
出来たら、感想いただけると嬉しいです。
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【2010/05/04 02:35】 | 雑記
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Deep Forest

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第52話 一緒にいたい

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 ジャイさんとどういう話をするのか、それ以前に、何をどう伝えるべきなのか……わからないまま、時間が過ぎていく。
 ちゃんと向き合って前に進むと決めても、どこが前なのかわからない今の私に、進むべき方向は見えてこない。
 仕事中もぼんやりしがちで、これじゃあダメだと自分を奮い立たせ、いつものごとく川田に当り散らしストレス発散を行おうにも、最近の川田は何やら色々反省したらしく仕事に熱心で、なかなか怒るネタが無い。
 川田らしくないから問い詰めたら、はぐらかされた。イラッときてたら、岸川さんがこっそり教えてくれた。
 どうやら川田、合コンでかなり気に入った子が出来たらしい。その子が「仕事熱心な人が好き」とかなんとか言ったそうで、はりきってるっていう単純な話。
 恋のパワーはすごい。
 どんな人でも振り回される。いい意味でも、悪い意味でも。

 月中の今は、終電近くまで残業になることは少ない。疲れが溜まった水曜日、私は仕事を残業三十分で切り上げ、帰宅した。
 うこん君とも話をしないといけない。ずるずるしていては、うこん君に失礼だ。今日、家に帰ったら電話しようと考えて時計を確認する。
 もうすぐ七時になろうというのに、日はまだ暮れず、黄金色に包まれた道を歩く。
 ふと、向こうから歩いてくる女の子に目が留まった。制服の白いシャツをオレンジに染め、ぼーっとした様子で歩く、長い髪の女の子。
 どこかで見たことあるな、と思い、はっとする。
 弟の彼女だ。

「ねえねえ!」

 名前が思い出せず、走り寄って手を振ると、弟の彼女は怪訝そうに眉をしかめた。が、それは一瞬で、すぐに私が誰だか察したようで、顔を綻ばせる。

「お久しぶりです」

 ぺこりとお辞儀してくる礼儀正しさに、なぜか嬉しくなる。

「久しぶり。うちに来てたの?」
「はい。試験があるから、勉強しに」

 勉強だけだったの? と聞きたくなったが、オヤジ丸出しでセクハラだな、と思ったので止めておく。

「学生は大変だねえ。ええと……」
「竹永郁です」
「あ、郁ちゃんだ! 郁ちゃんはうちのバカと同じ大学行くの?」

 初々しくて、なんだか羨ましい。私もこういうかわいい時代があったはずなのに、どこに忘れてきてしまったんだろう。

「そのつもりだったんですけど」
「けどって? まさか別れるの!?」

 こんなかわいい子を捨てるなんて、あのバカは何考えてんだ! 家帰ったら説教三時間だな……とげんこつを作っていたら、郁ちゃんが首をぶんぶんと振って否定してきた。

「いえ。私が勉強したいって思ってる授業が、一緒の大学だと無くて。なんか……相手にすべて合わせちゃうのって、おかしいじゃないですか。自分が無いっていうか。ただ一緒にいたいってだけで、同じ大学を選んじゃっていいのかなって」
「ああー。確かにねえ」
「ごめんなさい。急に変な話して」
「ううん、いいよ。そういうの、悩むのわかるもん。ちょっとお茶でもしよっか?」

 今まで弟の彼女と遭遇したことは何度かあるが、こういうまっすぐそうな子は初めてだ。ふわふわした綿あめみたいな子や、モデルみたいなきれいな子を連れていた弟が、こういうタイプを選ぶことが不思議に思えた。
 目力が強くて意志が強そうで、袴が似合いそうというか。花に例えるなら百合だな。
 姉としてこっそり彼女を値踏みしながらも、この子のちょっと儚そうな部分に、女の私でさえも心惹かれてしまう。
 支えてあげたくなるというか、優しくしたくなるというか。
 遠慮する郁ちゃんを無理やり誘い、駅前に戻って、小さなカフェに入る。生クリームたっぷりのカフェラテを注文し、前に座るカチコチに緊張した女の子を眺める。

「すいません。変な話しちゃって」

 恐縮そうに謝るところがまたかわいい。って、すっかりオヤジじゃん、私。

「いいよいいよ。悩んでたんでしょ?」
「……はい」
「大学受験って、大変だもんね。私も死に物狂いで勉強したもん。行きたかった大学、落ちたし。でもま、落ちてよかったと思うけどね。動機が『好きだった先輩が入った大学だから』だもん」

 何年も前のことを懐かしく思う。
 私は郁ちゃんのように悩みもしなかった。大学に行きたい理由も特に無かったし、あえて理由がつけられるのなら、それはそれで良いと思えた。
 大学に進学した方が就職に有利だとか、まだ働きたくないとか、そんなしょうもない理由で進学したのだ。

「弟はきっと同じ大学行きたいんだろうけどさ、郁ちゃんは郁ちゃんの人生があるんだから。よく考えて選ぶべきだよ。自分の人生は誰の物でもない、自分の物だからね」

 そう。私の人生を選ぶのは私だけ。不純な理由であろうが、情けないことであろうが、それで良いと思えるなら、それが良いのだ。

「大学って、別にそこだけしか受けられないわけじゃないしさ。何校か受けて、受かったところから選ぶしかないんだから、弟のことはその辺にほっぽり投げて、やりたいことをやるべきさ」

 ウェートレスが持って来てくれたカフェラテの生クリームだけをすくい取り、ぱくっと食べる。甘い食感が口の中にとけていく。

「そうですよね」

 納得したのかしないのか、郁ちゃんは小さく微笑み、ココアに口をつける。色が白くてかわええなあ。ああ、だめだ。今日はオヤジになってる。

「郁ちゃんは、豊介のどこが好きなの?」
「え!?」
「人当たりがいいのは知ってるからさあ、それなりにモテるんだろうなあとは思ってたんだけど。姉としては、どこがいいのかさっぱり」

 弟は、身長も低くないし、こざっぱりとしてるし、いいヤツを装ってるし、モテなくはないんだろう。だけど、身内ってのは、どうも魅力を分析出来ない。

「や、やさしい、ところ、かな」
「ふうん」
「あと、しっかりしてるところ、です」

 顔が真っ赤になってる。形の良いアーモンド形の目を伏せ、必死にココアを飲んで照れ隠ししてるのがこれまたかわいい。

「好きって、どういう気持ち?」
「え?」
「郁ちゃんにとっての、『好き』ってどういう状態のこと?」

 こういう頃の純粋だった気持ちを思い出せない。
 自分の寂しさや、この先の未来やらが絡んで、打算的にしか判断できなくなってる。

「一緒にいたいって思うこと、だと思いますけど、よくわからないです」

 恥ずかしいのか、声がか細くなってる。おっさん、もう抱きしめたいです、この子のこと!

「お姉さんにとってはどうなんですか?」

 お、反逆された。

「そうだね。郁ちゃんと同じかも。一緒にいたい」

 とても単純なこと。
 そばにいてほしいとか、そばにいたいとか、そういう、本当にささいな願い。
 今、私がやらなきゃいけないことは、恋愛経験で培ったいらない武装を全部取っ払い、根底にある感情、単純で明快な答えを見出すことだったのだ。


 一緒にいたい。


 それだけがすべて。

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【2010/05/11 03:30】 | Deep Forest(恋愛)
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ぷっちょんは、ひなたで両手反応するつもりだった?
でも、黄金色が退職するつもりだった。
それで会話した?

*このエントリは、ブログペットの「ぷっちょん」が書きました。

【2010/05/14 07:16】 | ブログペットぷっちょんの部屋
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第53話 恋は落ちるもの

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 街並みは夜に融けて、ゆっくりと時を刻む。
 淡いオレンジ色は影を潜め、すっかり闇に沈んだ空を眺めながら、ため息を漏らした。
 大人になるにつれ、重ねていく経験。時にそれは、足枷となって、人生を迷わせる。
 何も知らなかった頃の純粋な気持ちは、きれいに包まり心の奥底に隠され、人生経験というウンチクまがいの頭でっかちな考えが、心の大部分を占めてしまうのだ。
 本当に大切なのは、その純粋な気持ちだというのに。

 四文字熟語を今ここで言え、と言われたら、私は「初志貫徹」と答えるだろう。初心忘れるべからず。最初の志を通せという言葉。
 志とはまた別だけど、最初に抱いた気持ちこそが、一番大切にしなければいけない感情に思えてならない。

 弟の彼女、郁ちゃんと別れた後、家路へと向かう道すがら、私ははたと足を止めた。ケータイを取り出し、電話帳を検索する。
 人通りの少ない裏道で、電柱の端に隠れながら、電話をかける。
 五コール目、聞きたかった声が電話越しに聞こえてきた。

「仕事中?」

 もうすぐ八時になる。でも、残業の多い仕事をこなす彼は、きっとまだ仕事の最中だろう。

 もう終わるよ、と短い返事が来る。そっか、とつぶやいて、二の句がつげない。

『そっちは? 残業?』
「ううん。もうすぐ家」

 お互い言いたいことがあるはずなのに、拒む空気が流れている。湿気の含んだ空気みたいなそれを払拭するように大きく息を吸い込んだ。

「あのさ、金曜日、ね」

 うん、という返事がやけに優しく聞こえて、涙が出そうになった。
 自分中心に生きる私を、なぜ彼は咎まないのだろう。

「おいしい飲み屋に連れてってよ」

 言うと、彼の笑い声が聞こえてきた。軽快な「OK」の返事に、ほっとする。

「じゃ、金曜ね」

 短く「バイバイ」と告げて、すぐさま電話を切った。
 胸が苦しくなって、ぎゅっとケータイを掴む。

 一緒にいたい、一緒にいたい、一緒にいたい。

 呪文のように繰り返す。

――好きって、どういう気持ち?
――一緒にいたいって、思うこと。

 そうだね。一緒にいたい。そばにいたい。そばにいてほしい。会いたい。……会いたい。


 ***

 家に帰ると、母親の「ゴハン早く食べなさい」というのん気な命令を無視して、二階の自室に駆け込んだ。
 深呼吸をくり返し、ベッドに座り込む。
 目の前に放り出したケータイを睨みながら、また電話帳を開いた。
 頭をもしゃもしゃに掻き、覚悟を決めて通話ボタンを押す。今度は三コール目で明るい声が聞こえてきた。

「もしもし」
『凛香ちゃん? どうしたの?』

 凛香ちゃんから電話もらえるなんて嬉しいな、と笑うから、なんだか申し訳なくて胃が痛くなる。

「ちょっと話があるんだ」
『なに?』

 ケータイで話してしまうことがためらわれた。どこかに誘おうかと思うが、それもためらう。
 気持ちが固まった今、別の異性と二人で会うという行為が、浅はかに思えたのだ。

「電話で言うの、すごく悪いんだけど」
『いいよ、言って』

 言わなくても伝わってしまうものなのだろうか。電話越しに、覚悟を決めた固さを感じる。

「私、気持ちに答えられない」

 早口でそう言うと、彼の息遣いがかすかに聞こえて、心臓がどくどくと音を立てた。

「嬉しかったけど、私、自分の気持ちと正面から向き合うことにした。だから、ごめんね」

 ちゃんと告白されていない。考えてほしいと言われた。
 だから、答えを出す必要がある。

『俺の方がいいと思うんだけどなあ』

 彼の明るい言葉に、少しだけ気持ちがほぐれた。

「私もそう思う」

 つい笑いながら答える。『だろ?』と彼も笑う。

『いいの? ちゃんと言ってくれないから辛いんじゃなかったの? 俺だったら、百万回でも言うよ。凛香ちゃんが好きって、何度でも言うよ』

 すごい殺し文句。
 ああ、もう。彼を好きになれたら、どれだけ楽だったか。
 でも、楽であるのを選ぶことと、幸せを選ぶということはイコールでは無い。
 苦しくても辛くても、選ぶべきなのは、もっと違う、もっと大切な理由なのだ。

「私の気持ちが一番大切だから」

 相手がどうのこうのなんて、そんなの、いいわけじゃないか。
 愛されているという実感だけを求めて、目をそらし続けていた。
 私を「好き」と言ってくれる人が、そのまま私を愛してくれる人だと、ずっとそばにいてくれる人だと、そういう人を求めていたけれど。
 結局は、やっくんにふられた自分に対する慰めでしかない。

 目をそらすな、隠すな、逃げるな。そう言って、私を叱咤激励するのは、紛れもなく私自身。

「だから、求めるの、やめることにした」

 言葉にした瞬間、すっと力が抜けた気がした。肩に入ったよけいな力が、足の裏から逃げていくような、体が軽くなるような感覚に、一瞬戸惑う。

『あー……』

 電話越しの低い声が、軽やかに弾む。

『今の、惚れる』

 漏れる笑い声に、私も笑う。

『うまくいくことを願ってるよ』
「……うん。ありがとう。あのね、本当にありがとね』
『こちらこそ』

 私を気遣ってくれる優しさに感謝しながら、おやすみ、と告げて電話を切る。
 優しい人。彼を好きになったら、きっと幸せになれたとも思う。
 でも、でも、でも。

 恋愛感情は、いつだって思い通りにならない。
 恋に落ちると言い出した人は、きっと天才だ。
 恋は落ちるもの。抗えず、ただ落ちていくんだ。

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【2010/05/15 02:37】 | Deep Forest(恋愛)
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第54話 気持ち、爆発

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 ジャイさんとの約束の日が訪れた。朝から気もそぞろで、あれやこれやと考えたりしてたら家を出る時間が遅くなってしまい、危うく遅刻しかけた。
 走って出勤したため、シフォン素材のブラウスに汗が滲み、汗臭くなってないかクンクンと鼻を動かす。念入りにセットしたはずの髪の毛は、ぼさぼさになっていた。
 衿ぐりにつけられたリボンを結びなおし、ふーと長い息を吐く。今日は残業しない。ジャイさんに会うのだから。
 滞りなく進む仕事をこなしていると、妙に冷静さを取り戻していく。もう一人の私が、もう一人の私を見ているような、俯瞰するような視線で自分を見つめる。
 やっくんにふられて、二ヶ月ちょっと。ずっと気持ちは右往左往して、惑ってばかりいた。
 寂しさやくやしさが絡み合い、自分の気持ちのあるべき場所を見失う。
 冷静さを欠いた心は、真実から自分を遠ざけた。
 この気持ちは、ただのしがらみ。ぽっかりと開いた穴を塞ぐのに、形の合わない蓋の山をかき分けて、そこには無い正しい蓋を探し求めた。
 開いた穴を塞ぐ、ただひとつの蓋は、どこにも存在しない。
 そんなもの、ありはしない。
 穿たれた穴を受け入れることこそが、私に必要なことだった。
 そして、新しい風を感じることこそが――。

 出会った人。
 酔っ払った視界の、歪んだ世界に、ただひとつ見えた、鮮明な人。
 彼だけが、輝いて見えた。
 あの瞬間を、私ははっきりと思い出せる。

 ***

 待ち合わせはお台場を指定された。ちょっと乗換えが面倒な場所ではあったけど、海沿いで夜景がきれいなことを知っているから、そういう場所を選んでくれたことが嬉しい。
 駅からアクアシティに近い場所に出て、そこから見える海をぼんやりと見つめる。
 ジャイさんはまだ来ていない。
 波間に映るビルの光を眺めていると、体の奥に心地良い風が吹きつけているような感覚に捉われた。
 空っぽになっていくような、逆に満たされていくような、不思議な感覚。
 地中深くに埋まり、やっと地上を見出して清廉な空気を吸い込んだ……そんなかんじがする。
 大きく深呼吸を繰り返せば、海風が鼻を通り抜ける。潮臭さに顔をしかめ、吐き出した時。
 ジャイさんが手を振っている姿を見つけた。

「緊張する……」

 ぼそりとつぶやきながらも、顔には笑顔をはりつける。横浜でのあの失態を思うと、どういう顔をすればいいのかわからない。

「凛香ちゃん」

 走り寄って来たジャイさんは、いつもと同じくニヤついた笑みで私を見下ろし、「行こうか」と歩き出した。

「ちょっと待ってよ」
「なに? 俺、腹減った」

 なんとのんきな。
 もう会わないって言った、横浜での出来事をもう忘れちゃったの?

「あのさ、先に謝りたいんだけど」
「何を?」

 本気でわからないのか、首をかしげて困っている。

「横浜で……ごめんね」
「ああ……。でも、あれも凛香ちゃんの本音でしょ?」

 そう言われると、うなずくしかない。
 あの時の私は、悩みすぎて悲観的になっていたと思うけど、あれはあれで、私が出した答えでもある。

「少し散歩してからメシ食べるか」

 フジテレビやアクアシティがある方へと歩き出そうとしていたジャイさんがクルリと振り返って、海浜公園がある方向へと歩き出した。
 私も慌てて歩き出す。

「メシ食べてから話そうかと思ってたけど、きまずいからね。今、ちゃんと話そう」

 前を歩くジャイさんの表情は見えない。グレーのスーツの裾が風ではためくのを見つめながら、後ろをついていく。

「本当はもっと強引にやってくつもりだったんだよ。でも、凛香ちゃんの目がそれを拒むから、俺、躊躇してた」

 私の目が、って。私、そんな風に思われてたの?

「臆病になってたのは、俺の方かも」

 ふと振り返り、苦笑いを浮かべる。街灯の光を照らし出す瞳が潤んでいるように見えたのは、きっと気のせいだ。

「ジャイさん」

 走って、彼の隣に追いつく。
 スーツの袖を人差し指でほんの少し掴み、こっそりと深呼吸を繰り返した。

「一番近くにあるものって、目に映らないよね。近すぎて、よくわからない」

 波間のきらめきで、目が眩む。小さな自由の女神が見えてきた。遊歩道の手すりをつかんで、私が足を止めると、ジャイさんもすぐ後ろで、海を仰ぐ。

「まどろっこしいの、大嫌いなの。でも、今一番まどろっこしいのは私なんだよね」

 振り返り、ジャイさんを見上げる。
 潮風で柔らかい髪がゆれている。なんだかワカメが海で泳いでるみたい。

「ジャイさん、耳の穴かっぽじってよく聞いて」

 ジャイさんの首をつかみ、引き寄せた。眼前に近付いたジャイさんの目が、驚きで見開かれる。

「好き、に、なった」

 緊張で声が震えて、エセ外国人みたいな話し方になってしまった。恥ずかしさで顔が赤くなるのを感じながらも、ジャイさんから目を離さない。
 真剣な気持ちを伝える時は、ちゃんと目を見なきゃだめだ。そうじゃなきゃ、伝わらない。
 呆然としたジャイさんの薄い唇がぱっかりと開く。

「いつからかわかんないけど、好きなの! バカ! アホ! ジャイのバカ!」

 ずっと溜まりこんでいた気持ちが溢れかえって止まらない。
 そうだよ。いつからかなんてわからない。でも、私は、このバカに恋をしていた。
 だから、ずっと、考え込んでいたんじゃないか。
 セックスから始まった私たちがうまくいくのか、この気持ちが寂しさから来るニセモノの思いじゃないのか……。
 割り切れない気持ちを抱えて、入口も出口もわからないまま彷徨い続けていた。
 ジャイさんが好きだから、私はずっと悩んでいたのだ。
 好きだから。好きだからだ。
 それ以外の理由なんて、どこにも無い。

 だって、私は見つけてしまっていたんだ。
 妄言でしかない、運命の相手。
 ありえもしない運命の出会い。
 運命なんて、信じてない。あの日からずっと、あるわけないものにすがりつく気なんて全く無かった。
 でもね、でもでも。
 運命は出会うもんじゃない。創り出すもの。
 私は、今、この瞬間、自分の運命を創り出したのだ。
 あの日の始まりを、あの時の気持ちを、彼の言葉を、信じたのだ。

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【2010/05/20 02:02】 | Deep Forest(恋愛)
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第55話 深い森の出口

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 自分の気持ちを吐き出した途端、体中から魂が抜けていく気がした。脱力しそうになるのを必死にこらえて、ジャイさんを見据える。
 波間の光を映しこむ瞳は、私へと注がれる。切れ長の目を細め、優しく笑む彼に、私はどきまぎしてしまう。
 ジャイさんとの別れを決めたのはつい最近のこと。ジャイさんからしてみれば、あの日ですべてが終わってしまったかもしれない。
 人の気持ちなんて、案外簡単に変わってしまう。『終わり』を告げた気持ちならなおさらだ。
 何も言ってこないジャイさんを上目遣いで睨み、「何か言ってよ」とぶうたれる。
 海から吹きつける風が、彼のネクタイを揺らめかせた。

「待ってて良かった」

 薄い唇から零れ落ちる笑み。含みを持った笑顔が、私を混乱させる。
 今の言葉は、どういう意味? 素直に受け止めれば、私が「好き」と言うのを待ってて良かったってことだよね? でも、相手はジャイさん。意地悪の申し子だ。本当は違う意味なのかもしれない。
 じっと見つめられて、恥ずかしさで目を背けた。

「あの、さ。振るなら振っていいんだよ? 私、すごい振り回す女だし」

 わがままで自己中なのは自覚してる。この歳で改善するっていっても、劇的な変化なんて見込めないだろう。そうやって自分を諦めるのはいけないことだけど、二十六年間こうやって生きてきたのだから、突然それを変えるなんてなかなか難しいことだ。

「知ってる」

 ジャイさんはポツリとつぶやいて、風で乱れる私の髪を人差し指ですくい取り、そのまま頬に触れてきた。

「凛香ちゃんのそういうところ、俺は面白いって思ってるよ」

 面白がってたのかよっ! いや、わかってたけどさ。

「初めて会った日、俺が言ったこと覚えてる?」
「え? なに? いつ? 朝? 夜?」
「朝」

 眼前にあの朝の光が広がった気がした。ラブホテルの脇の、汚い路地裏の道。淀んだ水たまり。けれど、光を反射して輝いていた。
 そこに映る私は、汚い部屋を掃除し終わった時みたいな、爽快感溢れた表情をしていた。
 まばゆいくらいに……きらめいた。

「リセットボタン、押してくれるんだよね?」

 聞くと、彼は大きくうなずき、ごつごつした手を私の頬に添えてくる。

「もう押した」
「嘘。いつ?」
「初めて会った日に。効き目がなかなか現れなくて、時間がかかったけどね」

 クスクスと笑いあいながら、そうだね、と心の中でうなずいた。
 あの日、すでに私はリセットボタンを押していたのだ。気付くのが遅くなってしまったけれど。

「俺は、凛香ちゃんに捕まっちゃったんだよ。自分で見つけるとか言って、本当に俺を見つけやがった」
「犬の嗅覚並だから」

 出会いは偶然。再会もまた、偶然でしかない。でも、見つけたのだ。私は、ただ一人の人を見つけた。

「好きだよ」

 ずっと待ち望んだ言葉は、耳からではなく、心へと直接響いていく。
 沁み込み、ジワリと落ちる、彼の、気持ち。

「――うん」
「ちゃんと、付き合おう」
「うん」

 言葉を発しようにも喉が熱くて、声がうまく出せなかった。うなずいてみせるしか出来ないから、彼のスーツをぎゅっとつかんだ。
 せがむように、顔を上げる。
 目が合う瞬間。改めて実感する。

 私、この人が好きだ。
 好きなんだ。

「好き」

 気持ちを吐露することが、恥ずかしさを超越する。
 今言わなきゃ、伝えられない。

「好き」
「うん」

 バカみたい。十代の頃みたいに、気持ちを抑えられない。くり返しくり返し、思いの丈をつぶやけば、ジャイさんは笑いながら何度もうなずいてくれる。
 手の温かさが、心を満たしていく。
 触れる唇が、思いを伝えてくれる。
 しがみついて苦しいくらいに抱き合うと、心臓は跳ね上がるように動くのに、心は安らいでいく。
 寝る前に抱きしめる、ぬいぐるみみたい。
 船の光が、目の端を通り過ぎる。煙草のにおいが混じった彼の香りをスウと吸い込んだら、とても心地良くて、離れたくなくなってしまった。

「凛香ちゃん」

 ぐう、とお腹が代わりに返事した。お腹って、ある意味正直……。

「お腹すいた」
「腹で返事するな」
「だって」
「しょうがない。メシ、行くか」
「うん」

 おいしいところ、連れてってくれる約束だ。楽しみのあまり、顔がにやつく。
 ジャイさんの手を取り、自由の女神に背を向けた。

「そういえば、ちゃんと付き合うからには、ひとつだけ条件がある」

 絡ませた指が嬉しくて、ニタニタしたまま、彼を見上げると、なぜかキッと睨まれた。
 あれ? 私、何か悪いことした?

「なに、条件って? SMプレイとか無理だからね」
「凛香ちゃんは俺を何だと思ってんの」
「どM」
「ってことは、凛香ちゃんは女王様?」
「えー」
「えー。違うの?」

 ムチ買わなきゃなって。っておい。

「名前を呼んでほしいんですが」
「ナマエ?」
「まさか忘れたとか言わないよな?」

 ありえない話じゃないから怖いよね。ごまかし笑いを浮かべながら、わざとつないだ手を大きく振った。
 今更名前? 恥ずかしくて言えやしない。

「俺、ジャイアンと似ても似つかないと思いたいし」

 何言ってやがる。ジャイアンの男気っていったら、あんた、もう惚れるっちゅうねん。

「いいじゃん、ジャイアン。ジャイさんはジャイさんだもーん」
「不服だ。不服!」

 異議を唱えてくるが、却下だ。凛香さまの法律には、誰も逆らえないのであった。

「ジャイさん」
「……はい」

 にーーーっと最大級の笑顔をしてやったら、ジャイさんは諦めたようにため息をついた。

「タケシ」
「……はい。って、え?!」
「おなかすいたー」

 一歩歩くたび、距離が縮まっていく気がする。
 それは、私を連れ出す歩み。
 深い森を彷徨い続けた私が、やっと見つけた出口。

 そうして、私は、ようやく知るのだ。

 ずっと隣にいた、唯一無二の存在。

 私を導く、ただ一人の人。

 光を通さない葉の群れから、零れ落ちる。
 緑を透かす太陽の光は、私をずっと温め続け、勇気づけ、そばに在り続けた。
 深いほうへ迷い込むと見せかけ、指し示したのは――


 心のごみ屋敷を片付け、私はようやくスタートに立った。
 森の先に続くのは、これもまた困難な道。
 それがわかっていても、今は大丈夫と思える。

 彼の手が、ここにあるから。
 彼がそばにいてくれるって、知ってるから。

 だから、歩ける。進めるのだ。

+++++++++++++

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あとがき↓
実質、この第55話が最終話です。
このあと、番外編もどきが1話か2話ありまして、『Deep Forest』完結となります。
連載を開始して一年ちょっと。
長い間、お付き合いいただき、ありがとうございました(^^)

二人の行く末を、もう少しだけ見届けていただけると嬉しいです。


6月初めに引っ越すことになりました。
とは言っても、たいした距離の引っ越しではないので、さほど大変じゃないです笑
ただ、ネットを開通するのにちょっと時間がかかるので、1,2週間ほど消えます。
そうなる前に、完結できればいいなーと思っております。



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【2010/05/25 03:25】 | Deep Forest(恋愛)
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