きよこの書き散らかし小説。
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Deep Forest

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第27話 チャンスの神様、前髪をわしづかみされる

+++++++++++++

 ジャイさんの強引な誘いにまた負けて、私はまたジャイさんとデートするハメになってしまった。
 海浜公園駅の近くにある水族館で魚を堪能し、まだ時間があるからと海浜公園にやってきた。
 カップルや子供連れの家族がのんびりと散歩したり海を眺めていたり、なんとも穏やかな光景が広がる公園をゆっくり歩く。
 少し曇り空だけれど、それが逆に心地良い気温になっていて、芝生の上で寝転がってひなたぼっこしている人たちもいる。暮れ始めた太陽の光がオレンジ色に輝いて、別の世界に来ている気分になる。
 梅雨もそろそろ明ける。夏の空気を含み始めた風は海のにおいを乗せて、気持ちを高揚させる。

「魚、すごかったね。マグロとか」
「うまそうだった」
「寿司屋じゃないっつの」

 大きな水槽を優雅に泳ぎ回るマグロが特に印象的だったんだけど、ジャイさんは食べ物として見ていたらしい。
 確かにあのでかさ、あの泳ぎっぷり、食べるんだとしたら身がしまっていておいしそう。

「俺はマンボーが好きだな。ちょっと間抜けな顔なのに、でかくていかついし」
「ぬいぐるみだとかわいいのにねえ」
「あれは詐欺だな」

 他愛もない会話に笑ってしまう。なんだか、ずっと昔からの友達みたいで、気が楽だ。
 くだらない会話しかしてない。でも、楽しい。

 曇り空からのぞく太陽の光が、ストライプ柄の白シャツに反射する。まぶしくて目を細める私を、ジャイさんは横目でチラ見して小さく笑う。底意地の悪そうな含み笑いなのに、私はなぜか恥ずかしくなる。

「凛香ちゃんてさ、ちらっと見ると照れるよね」

 見透かされてるし。

「照れてなんかない」
「そう? すぐ目線はずしてうつむくから。その仕草って、何気にかわいいよな」
「そのセリフ、恥ずかしいよな」
「素直な感想ですよ」

 ふと、手と手が触れ合う。どうしようかと一瞬逡巡したけど、どちらともなく指を絡めあった。
 それが当たり前のように。いつもの、ごくごく自然な流れのように。
 右を見ても左を見てもカップルがいる。こうして手をつないで歩かない方が違和感を覚える。

「水族館でよかった?」

 西に消えゆく太陽を眺めながら、ジャイさんはつぶやく。

「ベタ」
「ベタベタ?」
「うん。ベタベタ」
「ベタベタしようか。せっかくだから」
「そのベタベタじゃないから」

 ベタなデートを繰り返して、私たちは恋人同士になるのだろうか。
 ジャイさんは本当にそれを望んでくれているんだろうか。
 ――付き合いたいから。あの言葉はどこまで真実なんだろう。

 夏へと季節は変わりゆく。上がっていく気温は、心の熱と比例する。
 恋をしようと、している。
 恋をしたいと、思ってる。
 でも……隅の方に追いやられたもうひとつの心が、ピーターパンのフック船長みたいな鍵爪で、ギリギリとこの気持ちを裂いてくるのだ。

 これは、恋になるのだろうか?
 これは、始まりなのだろうか?

「夕飯に行きますか」

 ぴたりと立ち止まったジャイさんの手に引っ張られ、私も立ち止まる。そういや、お腹すいてきた。

「うん。ゴハン食べよう」
「なに食べたい?」
「……マグロ?」
「水族館の?」
「捕獲しに行きますか」

 笑いあいながら、また歩き出す。

 居心地はいい。幸福感もある。
 なのに、なぜ。
 踏み切れない自分がいる。

 正体の無い黒い影が、いつも私の横でぶつくさと何事か囁いてる。何を言ってるのかはわからない。でも、それこそが、今の私の真実だ。
 ちゃんと聞き取らないといけない。向き合わなければいけない。

 わかってるけど、怖い。


 ***

「ごちそうさまでした」
「いえいえ」

 ジャイさんのおごりで、マグロ丼を堪能した。デートでマグロ丼を食べに行っちゃうあたり、これってデートなんですか? と問いかけたくなるけど、マグロ丼がおいしかったからいいや。
 そういえば、昼休みに連れてってくれた隠れ家っぽい料理屋でも丼もの食べさせられた。いや、あれはおいしかったし、選んだのは私だから文句を言う筋合いは無いんだけど。
 男女の関係というよりも男友達同士みたいだと思うのは、私だけか?

「さて、どうします?」
「なにが? あ、帰る? そんな時間?」

 腕時計を見ると、二十時。帰るにはまだ少し早いか。

「俺としては、ちょっとずるい手段だと思うから嫌なんだけどね。選択権は凛香ちゃんにあるから」
「帰るか帰らないかってこと?」

 今から帰ったとして、家に着くのは二十一時頃。明日は会社だし、そろそろ帰ってもいいかもしれない。
 でもなあ……。
 ジャイさんをぎろりと睨んで、口を膨らませる。
 ほんとにずるい。
 もう少し一緒にいたいって、言ってくれたらいいのに。言わせられるみたいで、悔しい。
 って、ちょっと待て。
 それって、私が一緒にいたいって思ってるってことじゃん。
 そんなバカな。

「ぱ、ぱぱぱぴ、ぱぴ」

 しまった。また宇宙と交信してしまった。

「凛香ちゃん、俺、宇宙人じゃないから、日本語で答えてよ」
「だ、だって。ちょ、ちょい待ってよ。わ、私のことはべ、べつに、別にしてもよ? ジャイさんはどうしたいの?」

 そうだよ。ジャイさんはどうなのよ? 帰りたいの? 帰りたくないの? その辺の意思の疎通は大切ですよね。

「俺? 何度も言ってる気がするんだけど。チャンスを逃す気は無いから。チャンスの神様は前髪しかなくて後ろはつるっぱげってね。神様の前髪をわしづかみにする主義」

 答えになってねえ!

「……おぬし、おそろしい男じゃのお」
「お代官様?」

 悪代官ごっこしてどうする!
 頭の中でピンクと白と黒と青がぐるんぐるん回っている。完全に停止しようとする脳みそをなんとか奮い立たせ、何を言うべきか模索する。

 やっくんと正式に別れて、まだ一ヶ月。たったそれだけしかたってない。
 ジャイさんに惹かれ始める私は、ほれっぽくて軽い女?
 それとも、やっくんへの気持ちがその程度のものだった?
 ……それともさ、寂しい気持ちを埋めるための代替え的なもの?
 それともそれともそれとも、本当に恋……なのか?

「もう少し、一緒にいてやってもいい」

 わかんないけどさ、それが素直な気持ちなんだよ。

「じゃ、俺んち来る?」

+++++++++++++

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拍手いただけると嬉しいです!

あとがき↓
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更新が遅くなってしまい申し訳ありませんでしたっ
昨日、友達とハロウィンパーティーしました。ハロウィン過ぎてたけど。
皆で手料理を持ち寄って、ホームパーティーです(^^)

パスタとかグラタンとか生春巻きとか麻婆豆腐とかピザとか。
おいしかったですー。

ちなみに私は飲み物係。(買っただけ)


新連載を始めました。
青春コメディ(になる予定)です。
こっちはアルファポリスの青春小説大賞に出してみたので、更新頻度を週3~4にして書く(予定)です。
(予定)がいっぱいなのは、私が「予定は未定」を地で行く人間だからです(苦笑)

お暇がありましたら、ぜひ読んでくださると嬉しいです。

Fly high, High sky
fh


拍手やコメントありがとうございます。
毎度言ってますが、ほんとにほんとに励みになります。
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【2009/11/02 03:10】 | Deep Forest(恋愛)
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第2話 ふられて旅。

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 不採用通知をもらうのは、これで何度目だろう。
 独り暮らしのポストに詰め込まれたチラシの中にうずもれて、二通の白い封筒が見えた時、私はでっかいため息をついて肩を落とした。
 最終面接に行った会社と、この間試験を受けた会社からうすっぺらい封筒が届けられた。
 そのぺらぺらっぷりに、封を開けなくても不採用通知だとわかった。

「まじで蟻地獄だよ……」

 あと少しで脱け出せると思いきや、ずりずりと砂は落ちてまた元の場所に戻る。あと何回これを繰り返せば、ゴールに辿りつけるんだ。

『また不採用だった。最悪』

 彼氏の知己(ともき)にメールを送る。すぐに返事が来ることを期待していたけど、ケータイはうんともすんとも言わない。

「神様ぁ……。疲れたよう」

 泣き言を吐いても、独り暮らしのこの家じゃ、聞いてくれるのはハムスターのタムだけ。と思ったら、タムはグレーの毛玉みたいになって丸まって寝ていた。
 ――誰も聞いてくれてない。

 神様、疲れました。わがまま言いませんから、就活を終わりにさせて下さい。嫌いなきのこも食べます。タムが頬袋に溜め込みすぎたひまわりの種を無理やり押し出して遊ぶのもやめます。知己のケータイを勝手にいじるのもやめます。
 だから、どうか。
 終わりにさせて下さい。

 意味も無く窓から見える空を仰いでお祈りしていたら、ケータイが大音量でベートーベンの『運命』を流す。
 シチュエーションが合いすぎて、怖すぎるんですけど。
 就活を始めてから、ケータイの着メロは『運命』になっている。だって、就職先から連絡が来たら、『運命』じゃないか。素敵な『運命』を願って……いわゆる願掛けだ。

「もしもし」

 勢いよく電話に出る。

『あ、俺』
「なんだ、知己か」

 誰からか見てなかった。面接を受けたどれかの会社からを期待してたけど、そううまいこといくわけないか。

『あのさあ、今日の夜ひま?』
「サークルの子と約束あるわ……ごめん」

 スケジュール帳を開いて確認すると、大学のサークルの友達数人と焼肉に行く予定が書いてあった。

『そっか。今、平気?』

 今日は大学が休みだったから買い物に行って、帰ってきたところだ。焼肉の時間まではあと三時間あるから、大丈夫。

「平気だけど、なに?」

 いつもより暗い声に、心臓がどぎまぎする。知己は春には内定が出てしまっているから、内定取り消しとかかわいそうなはめになってないか心配になる。

『いきなりだけどさあ、別れよう』
「は? 細胞分裂でもすんの?」
『……俺はお前の言うことがたまにわからなくなるわ』
「私もよくわからん」

 幻聴じゃなけりゃ、今別れようって言ったよね?

「理由は?」

 やけに冷静な自分がいる。胃の中にアイスノンをぺったり貼り付けたみたいに、冷たいものが体の真ん中にいる。

『お前といると疲れる』

 はっきり言うなあ。

『俺は就活終わったし遊びたいんだよ。でも、お前に気を使って何も出来ない。早く内定もらえよ』

 もらえるものならもらってるわっ!

『ぐちぐち不採用もらった不採用もらったって、そればっかメール来ると、俺も滅入るんだよ。もうやだ』

 口元が怒りでひくつく。
 かわいい(と思う)彼女が就活で参ってるってのに、「巻き添えくって嫌なんだよね、俺。遊びたいのに、卑屈な彼女がうじうじうるさいから遊べないしー。うざいから捨てちゃえー。ぽーい」ってことだろ?

「馬鹿じゃないの。お前みたいな男、こっちから願い下げだわ。海にでも行ってナンパでもして、ギャルのバカ女に遊ばれて金巻き上げられちまえ!」

 ケータイをぶちっと切る。

 なんなんだ。なんなんだっ。

 就活もうまくいかず、彼氏ともうまくいかず。悪循環ってこういうこと?

 神様。私の幸福はいずこ?

 がっくりとうなだれていたら、またケータイが鳴る。今度はゲゲゲの鬼○朗のオープニングの音楽だ。……誰? この着メロにしたの。ああ、私か。

『ゲ・ゲ・ゲゲゲの・ゲ~』

 ああ、頭が痛い。ケータイを開いて、届いているメールを見る。

『いつから旅行行ける?』

 美月からだ。例の『あてのない旅』の話ね。
 すかさず返事する。

『今からでもっ!』

 ***

 美月とは小学校一年生の頃からの付き合いだ。中学、高校と同じ学校に進学した。
 名は体を表すというが、美月はその名の通り、きれいな子で、小学生の時ですらそれは際立っていた。
 色白の肌と黒目の大きいパッチリ二重。縁取る睫毛は天然でクルリとカールしていて、マッチ棒を三本くらい乗せられそうなほど長かった。艶やかな黒髪は日本人らしくまっすぐで、人形みたいな女の子だ。
 対する私は色黒で奥二重。ぱっとしない地味な女の子だと思う。男の子に間違えられることもあるほど、マッチ棒みたいな体型を未だに維持している。
 美月と並んで歩くことは、劣等感を増幅させる行為だというのは、私たちの外見だけでもわかってもらえるだろう。
 中学生の頃はたいして気にならなかったけれど、少しずつ大人になる過程で、外見の差は周りの態度に謙虚に出る。美月は男子にちやほやされるのに、私はからかわれて遊ばれることばかり。
 それが嫌で嫉妬心を抱えていたくせに、周りにはばれないようにしていた。
 あたかも美月の大親友で、美月のことを大切にする子を演じたのだ。
 それは、私のプライドでもあった。外身を気にする女だと思われたくなかったのだ。

 けれど、そういう自分に疲れを感じていたのだろう。
 大学に進学した途端、私は美月と距離を取った。
 講義の時間が合わないとか、バイトが忙しいとか、疎遠になるための要素はふんだんにあった。連絡を取らなくなれば、自然と離れていくのも人間関係においてはよくあること。

 美月と離れてわかったことは、私だって磨けば光るということ。化粧をし、かわいい服を着て、いい女のふりをする。今まで美月の影に隠れていた私が大学に入って、それなりにちやほやされたことは女としての自信に繋がった。
『外見を気にする女だと思われたくない』と思うのは、結局、外見を自分が一番気にしていたからなのだ。くだらないプライドを持ち合わせているのは、自覚している。

 大学に入ってからは、彼氏が何人か出来た。おかげで、美月に対する私のコンプレックスは幾分か和らいで、三ヶ月に一度は顔をあわせるようになった。
 それが逆に私たちにとってはいい距離感だったようで、私たちはまだ友達として仲良くやっていっている。
 ここ一年は、お互い就活やら彼氏とのデートやらで疎遠になっていたけれど。

『俗世を捨てて、桃源郷を目指す旅。ルール:一、ケータイは持たない(俗世と繋がるものはいりません)。二、行き先は決めません(桃源郷の場所はわかりませんから)。三、誰とどこに行くかは親にも内緒(桃源郷なんて言ったら、頭がおかしくなったと思われます)。四、車出して(はーと)』

 後日、美月からこんなメールが来た。
 ……桃源郷って、なに?

+++++++++++++++

アルファポリスの青春小説大賞にエントリーしています。
面白かったら投票していただけると嬉しいです。(投票用バナーは目次ページにあります)


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【2009/11/04 02:57】 | Fly high, High sky(青春コメディ)
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第3話 目指せ、桃源郷!

+++++++++++++++

 面接を受けた会社のほとんどから不採用通知が送られてきて、ある意味で一段落した夏休みの初め。
 私は実家に帰り、旅行の準備を進めていた。

 まだ就職先は決まらんのか、のんきに旅行なんて行ってる暇があるのか、とかなんとか言ってる親のお小言を全部聞き流して、免許を取ってすぐに中古で買った軽自動車に荷物を詰め込み出発した。
 弟と折半して買った車だから、弟には散々文句を言われたが、知ったこっちゃない。
 ジャイアンだって言っている。お前のものは俺のもの。俺のものはお前のもの。

 美月からメールで送られてきた旅のルールに則り、家族との連絡が途絶えても怪しまれないよう、海外旅行に行くと嘘をついた。「海外なら車いらないじゃないの」とごもっともな反論をいただいたが、朝早い便で行き夜遅い便で帰るから電車が無くなる。車が無いと困ると訴えて事なきを得た。

 実家からそのまま美月のアパートに向かい、待つこと十分。
 アパートの階段から長いストレートヘアをポニーテールに結わえた美月が、足取り軽く走り寄って来るのが見えた。

「おはよー」

 ショートパンツにボーダーのキャミソールを着た美月は、これから海に行く人にしか見えない。

「久しぶりー。なにげに一年ぶりくらい?」

 大きな瞳を細めて、ニコニコ笑顔で車に乗り込んでくる。私も「一年ぶり」と笑顔を返した。

「和実、変わってないねー。かわゆいかわゆい」

 どこぞのオヤジのように私の肩まで伸びた髪をつんつん引っ張ってくる。一年ぶりだから忘れかけてたけど(というよりは忘れようとしていたのかもしれない)美月はいつもテンションがおかしい。

「旅のルールは覚えてますか?」

 旅のルールって、あのメールで送られてきたやつのことか。
 ケータイは使わない、親に言わない、とかだったのは覚えてるけど。

「さては忘れてたね。いい? ちゃんと聞くように! その一!」

 その一。うんうん、とうなずきながら、美月の次の言葉を待つのに、美月は何も言い出さない。不思議に思って美月の顔をのぞきこむと、「その一!」ともう一度声を張ってきた。

「声が聞こえない!」

 ああ、卒業式みたいに山びこしないといけないのか。「ぼくたち」「わたしたちは」「卒業します」「卒業しまーす!」ってやつ。

「その一!」

 めげない美月に負けて、しょうがなく「そのいちー」と声を出してやる。

「ケータイは持たない!」
「ケータイは持たなーい」

 やる気のない声を出してるから怒られるかと思ったら、美月は満足そうだ。簡単なヤツ。

「その二!」
「そのにー」
「行き先は決めません!」
「そしたら、どこに行くの?」

 あてのない旅とはいえ、行き先はあるはずだ。そうじゃなきゃどこにも行けない。
 当然の疑問を口にしたのに、美月にとっては不服だったらしく、思いっきり睨まれた。大きくて形のいい目は凄みがありすぎて怖い。

「その三!」

 無視かよっ!

「そのさーん」

 無視されてもちゃんとのってやる私、優しいです。

「誰とどこに行くかは親にも内緒!」
「で、どこに行くの?」
「その四!」

 また無視された。

「そのよーん」
「車は和実のー!」

 美月は車もってないもんね。わかってる。

「その五!」
「そ、そのご」
 その五もあったとは。一体いくつあるんだ、このルール。

「びんぼーなので、安宿に泊まるー!」
「賛成!」

 私だってお金無い。就活を始める前までやっていたファミレスのアルバイトで貯めたお金がいくらかあるから多少の旅行は出来るが、働いていないのだからこれから先、収入は無い。
 就職が決まるまでは収入源を確保できないのだから、出来ればお金はなるべく使わないようにしたい。

「で、どこに行くの?」

 ていうか、行く場所決まらなきゃ、車だって出せない。いつまで美月のアパートの前に路上駐車してりゃあいいんだ。

「桃源郷」

 語尾にハートが乱舞してそうなかわいらしい声で返って来た答えは、意味不明。

「桃源郷って、なに」
「桃の花が咲き乱れ仙人がうろちょろする俗世を離れた理想郷、それが桃源郷よ、ブラザー」

 私は女だからシスターだってば。
 大体、仙人がうろちょろしてるなんて、まったくもってありがたみがない理想郷だな。ごくまれにしか会えないから価値があるってもんじゃないの。

「あの山を越え、あの谷を越え、行こうじゃないの! 桃源郷!」

 芝居がかった言葉の後、私の手をガシッと握り、バンザイする。
 誰か、止めてください。
 車の外から見たら、馬鹿丸出しです。

「で、そのとうへんぼくはどこにあんのー」
「桃源郷!」

 なんでもいいわ。

「ハニー、わかってないなあ。どこにあるかわからないから、『あてのない旅』になるんじゃないの。北に東に南に西に、日本縦断、桃源郷探しの旅。楽しいね」

 ……死ぬまで見つからないと思う。

「じゃあ、まずはどこを目指しますか? そろそろ車を動かしたいです」
「ふふん」

 鼻息荒く、美月が偉そうに差し出したのは一センチ四方の小さなサイコロだった。

「サイコロを振ります」
「はい」
「目が出ます」
「はい」
「ふくらみます」
「はい?」
「花が咲いたら」
「……じゃ、じゃん」
「じゃんけんぽーん」

 誰かあああ!! 家に帰りたいんですけど!!
 そうだ、美月はこんだけきれいな子なのに、頭のネジが一本取れた子なのだ。百七十センチちかくある身長にバランスの取れた細い体、そんでもってかわいい顔立ちをしてるから外見に騙されて言い寄ってくる男たちはいっぱいいるけど、美月と付き合った男たちはすぐにこう言い出す。

「付き合いきれない……」

 美月とまともに付き合えたのは、大学に入ってから出来た彼氏で、駿介だけだ。天ボケした男の子だけど、美月の一番の理解者なのだ。

「えっとね、まずはサイコロ振るでしょ。一回目に振るサイコロは、偶数が0、奇数が1なのね」

 そう言いながら、美月はサイコロをダッシュボードの上に転がす。
 出た目は4。

「次に転がす数字と、今さっき出た数字を合わせた数字の国道を目指すの」

 もう一度振ったサイコロは、6で止まる。

「0と6だから、国道6号に向かうってことね。ね、面白くない?」
「ちょっと、面白いかもね」

 なんだかまるで、人生ゲームみたいだ。あれはサイコロじゃなくてルーレットだけど。
 まさにあてのない旅。
 ナイスなアイディアだって言ったら美月が喜ぶ。それも癪だから、顔には出さないようにしたけど、なんだかワクワクしてきた。

 どこに行くか、たどり着くか、全くわからないけど。
 楽しそうなことが待ち受けていそうな予感がしたんだ。

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【2009/11/05 04:57】 | Fly high, High sky(青春コメディ)
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第28話 俺んち、来る?

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 俺んち来る? ってあんた。
 思春期のお子ちゃまじゃないんだから、俺んち行ってのほほんとお茶だけして終わるわけがないってことくらいわかってる。○○○や××××や△△△△△△は当然するでしょうよ!
 ていうか、そうだよ。シラフでセックスしようぜ! って言い出したのは私じゃないですか。
 お父さんお母さん、本当にごめんなさい。凛香は「カーンチ! セックスしよ!」のセリフで有名な某ドラマの悪影響を受けました。観たことないけど、あのドラマ。

「か、か、か、こ、こ、こ」
「にわとりのまね?」
「ちいがわ!」

 違うわ! って言ったつもりが、もう日本語しゃべれてない。だって、だって。ちゃんと考えなきゃ。
 このままついていったら、なし崩し的にやることになるだろう。夕飯食べた時はお酒飲まなかったから、今現在、思いっきりシラフだし。
 でも、それを望んでるんじゃないの? ジャイさんの気持ちを試したいんじゃない。
 ジャイさんが本気なのかどうか……知りたいんじゃないの?

「ジャイ、さんは、どう、してほしい……?」

 たどたどしい声で質問をして、ジャイさんを見上げる。ふわふわの髪が風で揺れている。その下の目は月明かりを浴びて、白く光を湛えていた。

「一緒にいたいな、もう少し」

 握った手の平にきゅっと力が入ったのがわかった。注がれる視線が恥ずかしい。
 急激に熱くなる頬を冷たい海風がなでていった。

「……うん」

 ついついうなずいてしまった。だって、ジャイさんの顔は、子犬が飼い主に「置いて行かないでえ!」って言いたげな表情を作るのとそっくりなんだもん。
 ムツゴロウさんの物真似しながら「一緒にいるう!」って叫びたくもなる。
 すっかり平常心は吹っ飛んでしまった。
 もう、もうなるようになれだ。私だっていい大人だ。突発的なセックスを後悔するような乙女心は、もうどっかに忘れてきてしまった。……たぶん。
 歩き出したジャイさんの手に引っ張られて、電車に乗り込む。ジャイさんのアパートはここから三十分ほどらしい。
 電車に揺られながら、隣に座るジャイさんの顔をのぞきこむ。「なに?」と目で問いかけてくるジャイさんを直視できなくて、すぐに視線をずらした。
 つないだ手はそのまま。この手をいつ離してくれるんだろう。

「そういえば、部屋、掃除してないな」
「汚い?」
「散らかしてはいないと思うけど。汚かったらごめん」
「別に、平気」
「布団は干してあるよ」
「やだ、なに言ってんの」

 なんなんだ、この付き合いたてのカップルみたいな会話は。
 初めてのお泊りでどきどき☆ウフフ☆な、初々しいまでのできたてほやほやカップルの会話っぽい。そんで、ついついそういう会話にわざとしてしまう自分が情けない。女ってもんは怖いもので、どうしても演技してしまうんだよ。
 舞台に立てば女優魂に火がつくように、今の私は、今の現実に酔いしれてはまりこんでいる。酒は飲んでいないのに、飲んだ時みたいに心が浮かれてる。なのに、浮かれて飛び跳ねる心臓の裏で、冷静な自分もしっかりいて、叱責を繰り返している。

 なに、バカなことしてるんだ。セックスして何になる? ジャイさんへの気持ちが固まるとでも思ってる? やっくんを忘れられるとでも思ってる?

 ――違う。
 ひっかかっているのは、もっと別のことだ。
 もっと、自分自身の気持ちと向き合わなければいけない。今の私は、風船のようにふわふわと飛んで、地に足がついていないだけのバカな女だ。
 きちんと考えなければいけないことから、目をそらしてる。
 怯えていることから、目をそらしているだけだ。

 ***

 ジャイさんの家は、駅から徒歩五分ほどのアパートだった。見た目はマンションに近く、レンガっぽい造りの外観はなかなかおしゃれだ。二階の一番端の部屋がジャイさんの部屋で、階段のすぐそばの部屋に案内された。
 廊下の右にトイレと風呂、左に小さなキッチンという一般的な1DKで、部屋はたぶん六畳か七畳くらいだろう。グレーを基調にしているのか、ベッドカバーもカーテンもグレーだった。散らかっていると言っていたけど、元から部屋にあまり物を置いていないからなのか、散らかっている印象はない。テーブルの上に置かれた灰皿にこんもりと吸殻が溜まっているのと、今朝脱いだままらしいスエットが床に落ちているのが気になるくらいだ。

「そこ、座って。お茶用意する。ウーロン茶でいい?」
「うん」

 指差されたテーブルの前に座る。ガラステーブルは煙草の灰が落ちていて、うっすらと汚れていた。

「ようこそ、我が城へ」
「大魔王がいる」
「凛香ちゃんは勇者?」
「ある意味、勇気はあるかもね」

 台拭きでささっとテーブルを拭いて、ウーロン茶を差し出してくれる。受け取って、すぐにゴクリと飲み込んだ。
 火照った体には、冷たいウーロン茶が心地いい。

「海浜公園、なかなかよかったな」
「うん」

 左横のベッドに寄りかかりながら、ジャイさんもテーブルに座る。家にいるからなのか、すっかり寛いだ様子で、足を大の字に広げて大あくびをしてる。
 なんか、左半身だけ緊張で体が固くなってきた。今、九時ちょい前。私の終電がたぶん0時少し前くらいだろうから、あと三時間。
 私は一体ここで何をすればいいんですか? 世間話ですか? 恋バナですか? それとも。

「テレビでも観る? 観たい映画やってるんだよね」
「いいねいいね!」

 神様ありがとう! これで二時間はつぶれました!

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【2009/11/09 01:28】 | Deep Forest(恋愛)
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第4話 ミノムシの思い出

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 国道6号に向かって、車を走らせる。
 6号はそう遠くないから、すぐにたどり着くだろう。渋滞を避けて裏道の県道に入り、細い道をくねくねと曲がる。
 美月はせんべいをぼりぼりとかじりながら、道路地図を睨んでいた。

「次のサイコロが357になったらディズニーランドのほうに行けるよー」

 浮かれたことを言っているが、美月の言うサイコロ方式では、357号の数字は出なくないか? 選択肢は1~16しかないじゃないか。今更気付いた。
 そう教えてやると、美月は「しまった!」と口を大きくあけて、しばらく道路地図を睨み続けていた。

「美月ってさあ、突拍子もないこと思いつくくせに、絶対爪が甘いよね」
「うるさい!」
「思い出しちゃった。小学生の時のこと」

 美月と同じクラスになったのは、小学一、二年と、五、六年しかない。中学も高校も一緒だったけど、ずっとクラスは別だった。
 だから、昔の思い出をふと思い出すとき、まっさきに思い浮かぶのは小学生の頃のことだった。

 あれは確か、二年生の時だったと思う。
 美月が突然、秘密基地を作り出すと言い出した。
 美月の家は小学校のすぐ近くで、小学校と美月の家のちょうど真ん中辺りに小さな裏山があった。そこに秘密基地を作ると言って、小さなシャベルとハサミを持って出かけたのだ。

 雑木林の木を切って、テントみたいにするとはりきっていたけれど、小学生用の小さなハサミでは小枝くらいしか切ることが出来ず、美月はミノムシの住処みたいな小枝の塊を作って、早々と諦めた。
 美月に無理やり連れ出された私は、美月の「ひみつきちをつくるんだよ! そこにロボットのはっしんそうちをとりつけて、うらやまがばかーって割れて、だんだだんだだん! はっしゃーーー!」という訳のわからない言葉にそそのかされ、ルンルン気分で穴を掘っていた。

「かずみちゃん、もぐらの穴でも作ってんの?」

 私が掘った穴を見た美月は、爆笑して馬鹿にしてきた。夢見がちな乙女だった私の乙女部分をことごとく破壊する女、それが美月だ。
 一方の美月が作り上げたのは、ミノムシの巣みたいな枝の山だ。諦めるにしてももう少し頑張ってほしいところじゃないか。

「みのむし……!!」

 思い出し笑いが止まらなくて、唇が震えてしまう。
 美月に馬鹿にされたのがむかついてしょうがなかったのに、美月のミノムシの巣を見たら、どっちもどっち状態で、笑い転げるしかなかった。
 あの頃から美月は、しょうもないことに熱心になるくせに自分のおバカさで失敗する、間抜けな子だったのだ。

「ちょっとお。ミノムシのこと、思い出して笑うのやめてよねえ」
「だって、あれは無いよ。ミノムシの秘密基地作ってやったのかよって話じゃん。あー、バカだったよねー」
「ミノムシは喜んでたよ、絶対!」

 喜ぶわけないっつの。

「サイコロのルールの話だけどさあ」

 昔のバカ話を思い出して、話が逸れるところだった。サイコロのルールを変更しなくては、国道1~16号しか行けないで終わってしまう。

「1が出たら一桁、2が出たら二桁、3が出たら三桁で、サイコロ振ればよくない?」

 名案が浮かんで提案するが、美月はよくわかってない様子で首をかしげる。

「だから、最初に一回振って1の目が出たら、次にサイコロ振った数字の国道に行くの。2が出たら、サイコロを二回振って、一回目と二回目の目を組み合わせた国道、3が出たら、三回振って……ってかんじでさ」
「和実、頭いーいー!」

 美月の褒め言葉は軽い。全然褒められた気がしないのは、気のせいじゃないと思う。

「最初に振った時に4から6が出たらどうすんの?」

 美月にしては珍しく、問題点に気付いたようだ。

「振りなおせばいいんじゃない?」
「和実、あったまいーいー!」

 ……褒められた気がしないのは、気のせいじゃない。


 ***

 6号に近付いたころ、またサイコロを振った。出た目は最初が2、つまり、二桁の国道に向かうことが決まった。
 次が5、その次が1。で、51号に向かうことに。
 道路地図をなぞっていた美月から歓声が上がる。

「海だよー! 和実、海沿い!」

 はしゃぐ美月は道案内をやめてしまったから、仕方なく私は路肩に車を止めて、美月から道路地図を奪った。
 私の車はカーナビが無い。こうやって道路地図をなぞりながら行き先を決めなければいけないのだ。

「ほんとだ。茨城の海沿いの道路だね」
「和実、水着持って来た!? 私、持って来てるー!」

 持って来てるわけがない。
 車の窓から差し込んでくる強い日差しを仰ぐ。ギラギラと照りつく夏の太陽はバックミラーに反射して、目の端できらめく。
 時計を見ると、十二時過ぎ。
 昼時の時間だ。今から51号を目指すとなると、着くのは二時か三時くらいだろう。
 となると、海に入るには少し潮風が強く冷たくなってきついかもしれない。

「ま、ルールはルールだしね。行きますか」

 腰をさすりながら一息入れて、方向指示器を右に動かす。
 コンビニで買ったおにぎりのビニール包装をはずし、口に放り込んだ。
 美月はポテトチップスの袋を開けながら、「海、海」と変な歌を口ずさんでいる。

「海についたら、ラーメン食べよう」

 ばりぼりポテトチップスを食べてるくせに、まだ食べ物のこと考えてるのか。
 でも、海の家っていったら、ラーメンだよね。

「いいね、海の家のラーメン!」

 美月は馬鹿な子だけど。
 だからこそ、ちっぽけなことが楽しくなる。ラーメンごときが死ぬほど楽しみになるのだから、美月のハイテンションは侮れない。

 太陽の光が、ハンドルを握った右手を焼く。熱を帯びる右半身にだけタオルをかけて、車の流れの中に入っていった。

+++++++++++++++

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【2009/11/09 03:20】 | Fly high, High sky(青春コメディ)
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第5話 美月と私

+++++++++++++++

「美月、海に着いたよ」
「うえー」

 舌を出しながら渋そうな顔を私に向けてくる。失礼なことに、美月は爆睡こいていたのだ。運転してる私に対する気遣いゼロのやる気のない顔にむかっ腹が立つ。

「車の中で寝てるう」
「海の家のラーメン食べるんでしょー」
「おなかすいてないもーん」

 煙草の吸殻入れのところにひっかけたコンビニのビニール袋には美月が食べたお菓子の袋が詰まっている。いっぱい食べていっぱい寝るって、お前は赤ん坊か。

「車の中にいたら、サウナみたいになるよ。外に出たほうが今の時間は涼しいって」
「ぶーぶー」

 立てた親指を下に向けて抗議してくる。
 美月はいつだってわがまま姫だ。美月のご両親は美月を甘やかしてるし、美月の周りにいる男どもなんて、美月のこの容姿にヤラレてなんでも言うことを聞いてしまう。それこそお姫様に仕える僕のように。

「もう知らん」

 さっさとエンジンを切って車から出る。美月を甘やかさないのが、私の美徳ってヤツだ。
 トランクをあけ、彼氏の知己とピクニックに行った時に使ったビニールシートを取り出す。今年の春に使ったのだが、無精の私は入れっぱなしにしていたのだ。
 水着は持ってないけど、浜辺で寛ぐくらいはしてもいいだろう。

 準備を淡々と進める私の姿を見て諦めたのか、美月もようやくのっそりと体を起こして車から出てきた。
 三時過ぎの浜辺は海風が強くなってきていて、日差しは暑いのに体感温度は少し寒い。

「海入る?」

 聞くと、美月は首をぶんぶんと振り回して両手で体をさすった。どうやら「海に入るには寒いから無理」というジェスチャーらしい。

「運転も疲れたし、今日はここらへんに泊まろうよ。民宿もあるしさ」
「うん」

 公営駐車場のすぐ近くに海の家がずらりと並んでいる。そのひとつに入ったら、従業員らしきおじさんが「お、いらっしゃい」と声をかけてきてくれた。
 まっくろに日焼けした顔から真っ白な歯をのぞかせて笑うおじさんに、この近くに今日泊まれる民宿があるか聞いてみたら、「俺んところは民宿もやってるから、泊まるといい」と言ってくれて、早くも宿を見つけてしまった。

「お嬢ちゃん一人かい?」
「いえ、二人」

 美月の姿が見えない。奔放な美月は、こういう時はすぐに行方をくらませて人任せにしてしまう。私、よく友達やってるな……。

「すぐ来るかい? 近いから案内するよ」
「いえ。ちょっと海で遊んでからにします。車あるんで、場所だけ教えてもらえれば後で行くんで」

 親切な海の家のおじさんに簡単な地図を書いてもらって、美月を探しに浜辺に向かう。
 海岸線は遠く、黄土色の砂浜が続く。ちょうど干潮の時間なのだろうか。
 三時すぎて海風が強くなっても、まだ海水浴客は減らないようで、砂浜にはビニールシートを広げた若者が寝転がったり座り込んだりしている。海を見ると、色とりどりの浮輪が波間波間に見え隠れして、人の群れが戯れていた。

 これだけ人が多いと、美月の姿を見つけるのは至難の業だろう。
 薄情な私は美月探しを速攻諦めて、適当な場所にビニールシートを広げて寝転がった。
 変な日焼けするのは嫌だから、ショートパンツを折ってなるべく足を出しTシャツの袖をまくる。

 白い太陽の光が視界を真っ白に染めて、くらくらした。
 ふと、知己のことを思い出す。
 むかついて「こっちから願い下げ」なんて言ったきり、連絡を取っていない。
 ケータイの電源を落としてしまっているから、連絡が来たとしても旅行中は気付くことも出来ないだろう。
 あれで、私たちは終わりになったのだろうか。別れ話といえば別れ話だけれど、あんな感情的になった終わり方では、終わりにしたと思えない。
 もう一度会って話をすべきなんじゃないか――そう思って、頭を振る。

 話をしたって、別れ話にしかならない。

 氷を飲み込んだ時みたいに、胃がひやっとする。
 そう、私と知己は終わってしまったのだ。
 今更その事実を噛みしめる。急に寂しさが込み上げて、体を起こした。
 美月がいないか探したけれど、あのすらりとしたナイスバディはどこにも見当たらない。
 まさか一人でラーメンを堪能してるんじゃなかろうな。
 美月は一人で焼肉屋に入れる豪胆なのだ。海の家ごとき、一人でいるなんて余裕だろう。

 もう一度、ビニールシートに倒れこむ。

 知己と付き合いだしたのは、大学三年の春だった。だから、一年とちょっとの付き合いになる。
 大学のサークルの友達から紹介してもらったのが始まり。
 固そうな黒髪に、細めの二重まぶたの目が印象的で、真面目そうな人だな、っていうのが第一印象だった。少し猫背なのが気になったけど、笑う時に出来る片えくぼがなんか好きで、私は恋に落ちた。
 無趣味の知己を連れまわすのはいつも私で、美月の彼と四人でダブルデートをしたこともある。
 その時の知己が、美月に釘付けになっていたのを、私は未だに根に持っている。

 美月と一年近く連絡が途絶えたのは、実はそのせいだ。

 私と知己と、美月と美月の彼の駿介。四人でディズニーランドに行った。
 その日、美月は白いシャツにプリーツのはいったミニスカートを履いていて、白く細い足を見せびらかすように飛び跳ねてディズニーランドを歩き回った。
 快活な笑顔や、くるくると変わる表情は、女の私から見てもかわいらしくて、嫉妬を隠しきれなかった。

 今まで、目を背けていたことだった。

 美月の一番の友達を演じることは、私という人間のプライドだった。
 頭ひとつ飛び出た美貌を妬み嫉み、いじめに走る同級生と私は違う、私はそういう『人として最低なことをしないかっこいい自分』を誇りに思っていた。

 だけど、あの日、私は自覚してしまったのだ。

 美月を妬んでいじめた中学や高校の同級生たちと、私は。

 何ひとつ変わらないということを。

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【2009/11/12 03:12】 | Fly high, High sky(青春コメディ)
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第6話 似たもの同士

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 熱を放射する太陽はだんだん西に傾き始めていた。
 肌寒くなった体をタオルで包んで海の家に戻る海水浴客たちが増えてきている。肌を露出し水に使った体では、この潮風は冷たく感じるだろう。
 風になぶられる髪が口に入る。片手で髪を掻いた後、両手で顔を覆った。

 美月は中高といじめにあった。
 だが、世間で言ういじめのレベルからすると、たいしたことではない。
 美月のクラスメートの数人が美月の悪口を言いふらし、クラス内で美月が孤立するように画策したのだが、影響力のあまりなかったそいつらではクラス全体を巻き込んでのいじめにならなかったのだ。
 すべてに無視されるのはつらいが、一部でも無視しない人がいれば、いじめは乗り越えられる。
 それでも、悪意を向けられるということは、心に傷を作るのだろう。美月は中高時代の話を自分からはしてこない。

「和実、発見!」
「世界! 不思議発見! みたいな言い方やめて下さい」

 某クイズ番組の司会者の声真似をしているっぽいが全く似てないので、私にしか理解できないだろう。

「どこ行ってたのさー。探したんだよー」

 美月は口を尖らせるが、それはこっちのセリフだっつーの。

「海、気持ちいいね」

 大きく伸びをして幸せそうに笑む美月は、どこぞのCMかと思うほど、爽やかさに満ちている。

「海に来ると思い出さない? 潮干狩りに行った時のこと」
「あー! 懐かしい」

 思わず笑ってしまう。
 あれは、小学校五年生の時だったか。テレビで芸人が潮干狩りしていたシーンを観た私と美月は、潮干狩りツアーを計画した。もちろん、美月の提案だ。
 美月が物置から発掘してきた砂場遊び用のキティちゃんのバケツと、熊手が無いからシャベルを持ってでかけた。
 バケツとシャベルを、袋に入れずそのままでだ。それで二時間も電車に乗ったのだから、今にして思えば恥ずかしくってしかたない。

 海に到着した私と美月は一心不乱にシャベルを動かし、あさりを掘り漁った。これでもかこれでもかと掘り続け、キティちゃんのバケツはあさりでいっぱいになっていた。
 これだけ大漁ならお父さんもお母さんも大喜びだね、なんてのん気な会話をかわして駅まで戻って、私たちははっとした。
 泥だらけの上に、あさりはバケツにそのまま。
 潮干狩り場のおじさんが、「袋に入れてあげるよ」って言ってたのに、美月が「なに言ってやがる。バケツに大量に盛ってあるのが味ってもんでい」とかなんとか、なぜか江戸っ子口調で主張して、二人で意気揚々と駅まで行ってしまったのだ。

 戻ろうかとも思ったけれど、バケツいっぱいのあさりはさすがに重く、また海に戻る気にはなれないし、ましてや一生懸命とったあさりを捨てていくのも嫌だったから、そのまま電車に乗ってしまった。
 車内全体に広がる磯臭さは、その原因を簡単に辿らせた。
 泥だらけの、あさりこんもりのバケツを持った女の子二人。乗客たちは私たちを怪訝そうに何度もチラ見した。
 私は恥ずかしさでうつむいて必死に顔を隠したけれど、美月は何も気にしない様子で「くさいね。次はパピーに頼んで車で行こうね」と次回に心躍らせていた。

 だが、次回は無かった。
 理由は簡単。
 私も美月も、あさりが嫌いだったのだ。
 二人揃って、その事実を忘れていた。
 私たちにとっては自慢に思えた大漁のあさりは、親にとっては宝の持ち腐れ状態。「あんた、食べられないくせにこんなにとってきてどうするつもりなのよ!」と母親に怒られ、私はあさりご近所おすそ分けツアーに行かされるはめになった。
 美月はというと、武器になるあの容姿でもって、お隣のおじさんにすべて押しつけたらしい。
 天使のように笑って「おじさん、これ、美月がおじさんのためにとって来たの。もらってくれるよね?」って言ったらイチコロだったらしい。

 美月は人に好かれることを得意としていた。どうすれば大人が喜ぶか理解していたし、幼い頃から、自分の容姿を武器にする術を知っていた。
 悪く言わなくても、八方美人なのだ。

「そういやあ、あれから一回も潮干狩り行ってないねえ」

 残念そうに美月がつぶやくから、美月の肩をどついてやる。

「あさり嫌いじゃん」
「でも、駿介は好きだったんだよ。あさりの酒蒸し、居酒屋行くと絶対頼んでたもん」

 磯の香りが急に鼻をついた。あさりの酒蒸しの話なんかするから、さっきまで気にしてなかった海の独特な生臭さが思い出されたのだ。

「……私さあ、駿介と別れたんだ」
「え」

 突然の告白に、驚いて息を飲んだ。短く声をあげるのが精一杯で次の言葉が出てこない。

「和実を旅行に誘う前。ふられちゃった」
「な、なんで?」

 あんなに仲良しだったし、駿介は美月にゾッコンラブっぽかったのに。
 ……そうは言っても、私が駿介に会ったのはディズニーランドの時と、その後、一回飲みに行った時だけだ。その時の印象でしかないから、事実は違ったのかもしれない。

「私といると、疲れるんだって。そう言われたの、これで何人目なんだろ……」

 私の横に座り、美月は小さく肩を震わせて膝に顔をうずめた。
 落ち込む美月をよそに、私は笑いが込み上げてきて、我慢できず、ブフッと吹き出してしまった。

「ちょっとお! 真剣に悩んでるのに、笑うのっておかしくない!?」

 美月が怒るのも当然だ。人の不幸を笑ったようなものだもん。

「ごめん。でもさあ、あー……私たちって似たもの同士なのかもね」
「なんでさ?」
「私もふられたの。しかも、理由、一緒」
「まじ?」
「まじ」
「まじですか?」
「まじですよ」
「うわあ、ありえない」
「ねえ、本当に」

 二人して顔を見合わせて、苦笑した。そしたら美月の目がどんどんへの字に歪んで、頬がどんどん膨らんでいく。
 絶対笑いをこらえてんな、と思ったと同時に、私も笑いがまた込み上げて、二人同時に笑い出した。

「つうか、同時期にふられるって、どんだけ仲良しなの、うちら!」

 笑い転げながら叫ぶ。美月もひーひー言いながら、砂を叩いた。

「すっげえ寂しいやつらじゃん! ふられて女二人旅!」
「死ぬ! 孤独死! 孤独死する!」
「私がいますよ、美月姫ー!」
「わあい! 寂しさが増したー!」
「なんでやねん!」

 いつの間にか、海水浴客のほとんどがいなくなっていて、浜辺でビニールシートを敷いているのは私たちくらいになっていた。だから、遠慮することなく大騒ぎが出来ちゃって、必要以上に笑いまくった。
 笑いすぎて涙が目の端に滲む。ちらりと見た海は、涙のせいかキラキラと白く輝いていた。

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【2009/11/14 02:36】 | Fly high, High sky(青春コメディ)
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第7話 本当は、わかってる。

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 日もだいぶ暮れてきたため、私たちは宿に向かうことにした。
 海の家のおじさんが経営しているという民宿は海から車で一分もしない場所で、荷物を運び入れるとすぐにまた海に戻った。
 急な泊まり客のため食事は出せないと言われ、素泊まり扱いとなってしまった。仕方なく、ご飯を食べに外に出たはいいが、美月が「海辺でなんか食べたい」と言いだし、私としてはせっかく漁港の近くなんだから地元の食堂とかで海の物を食べたかったんだけど、美月のわがままに折れる形になった。
 浜辺で食事するというのも、心惹かれたしね。

 コンビニで買ってきた惣菜とそばのパッケージをはがし、美月はすぐさまポテトサラダを嬉しそうに頬張る。
 私はその横でそばをすすりながら、月夜に照らされる海を見つめた。
 もうすぐ満月になろうとする月は、異様に白い。
 波が一定のリズムを刻みながら、音を奏でていた。

「和実はさあ、なんでふられたの?」
「疲れるって言われたからって言ったじゃん」
「そうだけど、理由は?」

 ああ、と息をもらすみたいに返事した。
 理由なんて、考えてもいなかった。
 あの日、知己に言われた言葉ひとつひとつを思い出す。
 途端に息苦しくなって、喉の奥が圧迫されるみたいに痛くなった。
 喉を押さえ、月を見上げる。
 ふられてから今まで、そこまでつらくなかったのに、今更になって、寂しさや苦しさや悲しさが襲ってくるのはなぜだろう。
 遠くの陸地で起こった地震が、波となって何時間も後に対極の浜辺へ押し寄せてくるように、実感の伴っていない気持ちは後から後からやってくるものなのだろうか。

「私がグチグチ言いすぎたのかも。就活の疲れを知己に話して憂さ晴らししてたけど……知己にとっては重かったのかもね……」

『かも』ではなく、そうだったんだと思う。
 逆の立場で考えれば、それもわかる。毎日毎日グチしか聞かされなかったら、一緒にいることが苦痛になってしまう。

「美月はどうなの? 疲れるって言われた理由は?」
「……わかんない」

 そばをすするのをやめ、美月はうなだれてしまった。小さな膝小僧に顔をうずめ、砂にすーっと一筋、線を描く。

「……ううん。本当はわかってるんだ。私だって、ちゃんとわかってるの。私、すごい、重かったと思う。駿介は頑張って私のこと支えてくれようとしてたけど、きっと限界に来ちゃったんだよね」
「そっかあ」
「うん」

 美月は、こんなにも明るい子だけど、陰のある子だった。それがいっそう美月のきれいな顔立ちを際立たせているけど、昔はただ単に明るく元気な子だったのだ。
 どこで、美月はこの陰を身につけてしまったのだろう。
 一緒にいた時間は長いのに、思い出せない。

「中学生の時にさ」

 いきなり美月は明るい声を出して、私に笑いかけてきた。横に置いておいたそばを手に取り、またズズズとすすりだす。

「私と和実、好きな人かぶったじゃん?」
「そんなことあったっけ?」

 覚えていたけど、忘れたふりをした。正直、あまり思い出したくない思い出だ。

「中一の時だったかな。陸上大会の時に百メートル走で一位になった男子に二人して一目惚れしちゃったじゃん。覚えてないかな?」

 そんで、その男は、美月が好きだったんだよ。よおおおおく覚えてる。

「陸上大会の帰りさあ、二人で『高坂君、かっこよかったねえ』って話してさあ、和実が『ほれたかも』って言い出して。私も『私もー!』って立候補してさ。譲り合いっこしたじゃん。『美月が好きなら私は身をひくわあ』『何言ってんの、私は友情を取るわ!』『いいんだよ、恋をとっても。私は美月の友達でいてあげる』『和実!』『美月!』で、抱きしめあったよね」

 ……よく覚えてる。もちろんふざけてのやり取りだったけど、三角関係になるかもしれないって状況を、ついつい面白がって楽しんでしまったのだ。

「あれ、おふざけだったけど、私は嬉しかったんだよ。きっと同じ人好きになって、取り合いみたいになっても、和実はたぶん友達でいてくれるんじゃないかなって思ったんだもん」
「愛の告白?」
「うん。和実たん、愛してるー」
「嘘くさっ」

 鼻をつまんで、片手で仰ぐ。美月は「ひどーい!」と口を尖らせて、最後の一口だったそばを勢いよく食べた。

「ふられたーーーー!」

 美月が唾を飛ばして叫ぶから、私は食べていたそばを喉に詰まらせてブホッと咳き込んでしまった。

「ふざけんな! バカ男ーーー!」
「ちょ、美月?」
「こんないい女を振るなんて、馬鹿じゃねえのーーー!」
「自分でいい女って言っちゃったよ」
「和実も叫べーーー!」

 そうなるだろうと思ったけど、やっぱり巻き込まれるのね。
 私も最後の一口をずずっとすすって、立ち上がる。

「知己のあほーーー! 後悔しても知らないからなーーー!」

 そうだよ。バカ知己。いつか絶対後悔するんだから。

「こんないい女振るなんて、馬鹿だろーーー!」

 美月と同じように叫んで、全速力で駆け出す。
 バシャバシャと波打ち際に乗り込んで、思いっきり水を蹴飛ばした。海水は月の光に照らされて、流れ星のように瞬いて落ちる。
 美月も走り寄って来て、いきなり私に向かって手で水をかけてきた。
 悲鳴をあげ、お返しとばかりに水を飛ばす。飛沫は自分にもかかり、目の中に入る。
 片目をつぶった瞬間、またもや水の被害を受ける。

「冷たーい!」

 お返しをすれば、仕返しされる。お互い水浸しになりながらも、面白くておかしくて止められない。

「水も滴るいい女!」
「私もそう思った!」

 美月が笑う。私も笑う。
 私たちに非がある恋愛だったのかもしれないけど。
 それでもさ。
 どこかで信じたかった。
 いい恋をしたから、新しい一歩を進めるって。
 もっといい恋をする。もっといい男を見つける。もっと。もっと。

 私たちには明るい未来しか待ち受けていないと、信じて疑わずにいたかった。

+++++++++++++++

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【2009/11/20 03:17】 | Fly high, High sky(青春コメディ)
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第8話 恋愛ごっこ

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 さすがに水浸しの服では体が冷えて、私たちは早々に海から引き上げた。

「あー。花火買えばよかったね」
「そうだ。忘れてたー。ショック!」

 とは言うものの、美月はさほどショックを受けていなさそう。
 こんななりになってしまっては、のんきに花火なんてしたら風邪を引いてしまう。花火があったとしても、やる気は起きないか。
 Tシャツのすそから滴り落ちる海水が、ピタピタとコンクリートに黒い跡を残す。
 海岸沿いにまっすぐ伸びる道路を歩きながら、私は鼻歌を歌い始めた。なんだか、ちょっと気分がいい。

「ねえ、一人でどうしたの?」

 突然声をかけられ、ビクリと肩を震わせた。正面から歩いてきた男が二人、話しかけてきたのだ。
 Tシャツにハーフパンツのラフな格好をしていて、二人とも真っ黒に日焼けしている。一人は茶色の短髪をつんつんとおったて、もう一人は日に焼けて痛んだ金髪を肩まで伸ばしている。

 たぶん、ナンパだろう。
 当然無視して歩き出すが、短髪の男が私の肩をつかんできた。

「無視しないでよ。俺たち、ここ地元なんだよ。よかったら星がきれいに見えるところ、案内するよ。 友達は?」
「いや……彼氏と来てるんで」
「嘘だあ。さっきまで女の子と一緒に歩いてたじゃん。あの子、どこ行ったの?」

 言われて気付いた。美月がいつの間にかいない。

「女二人で歩いてたけど、彼氏もいるの。民宿で待ってるから。怒られるのやだし」

 長髪の男が「一人しかいねえんじゃ、つまんねえよ。行こうぜ」と短髪男を促す。短髪男は不服そうに舌打ちして、「一緒にいた女、超絶美少女だったんだぜ? もったいねえよ」と抗議する。
 あー……やっぱり美月狙いだったのね。

「超絶美少女なんて、いねえじゃん。もう俺は行くぞ」

 長髪男は美月の姿を見なかったんだろう。さほど関心を示さず、さっさと歩き出してしまった。短髪男は渋々「じゃあまたねえ」と長髪男の後を追って歩き出す。

 美月のやつ、妖怪アンテナみたいに感度が鋭いから、前から歩いてくる男二人組の雰囲気を察してさっさと逃げたな。
 美月はいつもそうだ。忍者みたいに急にいなくなったり、現れたり。
 学校とかでしつこく告ってくる男とすれ違いそうになる時なんかは、あっという間にいなくなってしまう。
 高校の終わりあたり、友達の間で美月のあだ名が「ハットリ君」になっていたのは言うまでもない。

 美月はモテモテだった。中学校も高校も、大学に進学してからは疎遠になっていたから詳しく聞く機会は少なかったけど、モテっぷりは変わらなかっただろう。

 中学の時に二人して好きになった男の子も、美月が好きだった。
 一目惚れなんて、今にして思えば、上っ面に惚れただけのお軽い恋愛ごっこだった。
 だけど、中学生だった私にとっては真剣な恋で、彼と同じ委員会になった時は浮かれ放題だった。
 週一の集まりの時なんかは、たいして頑張る気もなかったくせに、顔を覚えてもらいたくて色々発言しまくった。
 目立つことと頑張ってる風を装うことで、彼の心に印象付けようとしたのだ。
 何の委員会だったか……美化委員だったかな。

 たまたま、帰りが一緒になったことがあった。委員会の時、私と彼だけが提出物を提出し忘れていて、残るはめになったのだ。
 中学生の男女で、ましてや付き合ってもいないとなると、下校はさすがに照れくさかったのだろう。一緒に歩いたのは、昇降口までだった。

「委員会、頑張ってるよね」

 彼はぼそりとそう言ってくれた。

「そ、そうかな」

 恥ずかしくて、声を上ずらせながら返事する。微妙な会話の間が、苦しかった。

「よく一緒にいるけど……栗井さんとは仲いいの?」
「え? うん。同じ小学校だったから」

 中学生の時、美月と私は同じクラスにならなかったけど、しょっちゅう登下校は一緒にしていた。
 めんどくさいからと活動の少ない手芸部に入った美月は、ソフトボール部に所属していた私を待って、図書室で時間をつぶしてくれたりしていた。

「栗井さんて……誰か好きな人、いたりする?」

「仲いいの?」と聞かれた時点で、嫌な予感はしていた。美月と仲が良かった私に、探りを入れてくる男子は多かった。
 たいていの男はたいがいこの言葉から始めて、美月のことを聞き出そうとする。

「美月のこと、好きなんだ?」
「え!?」

 率直に問いただしたのは、正直に言って、むかついたからだ。
 どいつもこいつも。美月美月美月。
 確かに美月は綺麗だけど、性格は破綻してる。けして性悪なわけじゃないけど、あの突拍子もない性格についていける男なんていやしない。
 外面だけに惚れこんで、美月の内面なんて見てやしないくせに、好きって、なんなのさ。

「はっきり言えばいいじゃん。遠まわしに聞くなんて、男らしくない」

 あの頃の私には、自覚は無かった。『美月の内面も知らないで惚れる男の愚かしさ』に怒りを覚えているんだと信じていた。
 だけど、たぶん違ったのだろう。
 私は、美月に嫉妬していたんだと、思う。

「……お前って、嫌なやつだな」

 彼は白けた顔をして、ぼそっとそう言った。
 冷たい針で頭から足の先っぽまで刺された気がした。

「図星なこと言われて、むかついた? 自分こそ嫌なやつだね」

 プライドが邪魔をした。謝ることもできず、そう吐き捨てた。彼の顔も見ずに逃げるように帰って、それ以降、彼と話をすることは一度もなかった。
 しばらくたってから、美月が彼のことを振ったって噂を聞いたけど、美月はなんで彼を振ってしまったんだろう。
 私はあの出来事を話してなかったのに。


「かずーみ」

 後ろから抱きつかれ、またもや肩を震わせてしまった。美月の体がすっかり冷えていたからだ。

「美月、どこ行ってたの?」
「だってえ。前から男二人が歩いて来るんだもん。ナンパされたらめんどくさーい」
「私を盾にしたね」
「ばれた?」

 ふっくらした小さな唇を歪ませて、ニヒニヒ笑ってやがる。

「ちょっと聞きたいんだけどさ。さっき話した、二人で取り合った男って」
「高坂君?」
「高坂って言ったっけ? あいつって、美月はなんで振ったの? 惚れてたくせにさ」
「えー。覚えてないよー」

 さすがに中学生の頃のことなんて覚えてないか。美月は相当数の男に告られてるしな。

「あ! 覚えてる。性格悪かったんだよ。人の悪口言いふらしてたの、私知ってるもーん」
「それって、私の悪口?」

 美月は小首をかしげるだけで、何も答えない。
 波の音だけが、私と美月の間を通り過ぎていく。
 生ぬるい潮風が濡れた体を冷やす。ブルリと震えて、腕をさすった。

 ……たぶん、私の悪口だったんだろう。

「意外と、律儀だね。美月って」
「今更知ったの!? 遅い!」

 月の光は海を白く照らし出す。波の揺れで、白い光がゆらゆらと揺らめく。
 心地の良い波の音に、体が浮ついている気がした。

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【2009/11/20 03:22】 | Fly high, High sky(青春コメディ)
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Deep Forest

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第29話 決行の夜

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「観たい映画って」
「トトロ」
「メイちゃん?」
「さつきちゃん」

 ジャイさんが観たがっていたのは、なんと『隣のトトロ』だった。ジャイさんとトトロがうまく私の中で一致しない。
 頭の中で見事にジャイアンとトトロがコラボしてしまい、ジャイアンがあの美声で歌を歌い、トトロがオカリナ吹いてる図が頭の中でエンドレスに流れている。

「凛香ちゃんはわかってないなあ。トトロは永遠の憧れだって」

 どんな憧れだよ。

「ああいう田舎で家族で暮らしてさあ、秘密基地作って、子供にしか見えない幻を見て。すんげー憧れる」

 もしかして、ジャイさんて家庭の温かさに飢えてる? だから、ああいう家族の幸せな姿に憧れちゃうのかな。

「ジャイさん、大丈夫だよ。幸せな家庭をジャイさんなら築けるよ。ジャイさん軽い性格っぽいけどいいパパになりそうだもん」

 つい慰めてしまったら、ジャイさんはぽかんとしながらも「ありがとう」と笑ってくれた。

「でも聞き捨てならないなあ。軽い性格っぽいってなんだよ。俺は重い性格だぞ」
「それはそれで嫌だけど」
「じゃあ重軽い性格」

 重いんだか軽いんだかわからん。
 ジャイさんが用意してくれたお茶をすすりながら、トトロを観る。
 時折、ジャイさんをチラ見するけど、ジャイさんは私のことなんか気にも留めてないのか、テレビの画面を食い入って見つめている。なんか、子供みたい。

「ジャイさんちって、どういうご家庭?」

 CM中に聞いたら、「え? オヤジとオカンと兄貴がいる、一般家庭」と普通の回答が返って来た。

「家族仲はいいの?」
「普通だよ。凛香ちゃんは?」
「私? うちは両親と弟のいる、一般家庭だよ」
「仲良し?」
「普通じゃない? 弟はからかって遊んでる」

 今頃、うちの弟はくしゃみでもかましてるんじゃないだろうか。

「家族と仲良くやれてる子って、いいよな」
「なんで?」
「結婚したら、自分の親とも仲良くやってくれそうじゃん」
「ジャイさんって、結婚も考えてるの?」
「ある程度はね」

 結婚の二文字が出てくるには、早くはない年齢だろう。ジャイさんは二十七で、私は二十六だ。周りの友達ももう何人かは結婚してるし、子供がいる子もいる。
 でも、私自身の心が、まだ『結婚』をリアルに考えていないから、こうやって『結婚をそれなりに考えている人』が間近に現れると、びっくりしてしまう。
 もうそんな歳なんだ。でも、そりゃそうだよね。もう二十代後半だもん。でも早くない? そういう考えがグルグル回る。

「凛香ちゃんは、結婚とか考えてないの?」
「あんまり……。彼氏もいないし」
「だから、俺のこと彼氏にすればいいじゃん。俺、真面目だよ」

 真面目な男は、軽くそんなことを言わないっつうの。真面目じゃないの、確定。

「嫌だわー。ものすげー疑ってる目をしてるわー」

 オカマ口調で言いながら、私の前で手を振ってくる。
 そりゃ疑いますって。

「男の人はすぐ嘘をつきますから」
「断言かよ」
「断言だよ」

 誠実そうで真面目そうなやっくんでさえ、ケロリと嘘をついたのだ。
 男なんて生き物を信用しちゃいけません。今日から佐村家の家訓に加えよう。

「俺が嘘つきかどうかは、凛香ちゃんが見極めればいいよ」
「なにそれ、自信ありげ」
「で、今日はどうするの?」
「何が?」

 白い壁に飾られたシンプルな丸いシルバーの壁掛け時計を指差され、はっとする。
 いつの間にかトトロは終わっていて、二十三時を回っている。

「帰る?」
「そりゃ……」
「泊まる?」

 帰るって言おうとしたのに、言葉を遮られた。

「言ったよね? 選択権は凛香ちゃんにあるって。俺は止めないし、何も言わない」

 って言ってますけど、腕をがっつりつかまれてます。
 帰るなって、手が言ってますよ。目は口ほどにものを言うって言いますが、今現在、手が口ほどにものを言ってます。

「な、な、な、」

 どどどどどどどどどどうすればいいですか? 神様仏様、凛香はどうすべきだと思いますか?
 今、ものすっごいかよわい子羊の気分。狼に食べられるっ! メー!
 トトロに出て来るばあちゃんが、「めーいちゃーん」と頭の中で騒ぎ出した。メーはメーでもそのメイじゃないっ。
 これが大混乱ってやつですね!

「もう少し、一緒にいよう」

 どかーーっん、頭が爆発する音がした気がした。ばあちゃんは頭の中でメイちゃんの靴を見つけて泣き叫んでます。ばあちゃん、それ、メイちゃんの靴じゃないから、大丈夫だから。

「な、な、なにも、しない?」
「なにもって?」
「……えっちなこと」
「しないよ」
「何もしないって言う男の人は信用しちゃいけないって、メイちゃんが言ってた」

 メイちゃんはそんなこと言うわけがない。もう脳みそ、破裂した。

「凛香ちゃんは俺のこと、信用してないの?」
「し、し、してますっ! めちゃくちゃ信用してます! 何もしないっすよね! 知ってますよ! ジャイさんは、紳士っすもん! 何もしないっすよねええ!」
「なんで、下っ端ヤンキー口調なの?」
「いや、私なんて下っ端っすもん。下っ端に手を出す総長なんているわけないっすもん!」
「俺、総長?」
「総長っす。うすっ! どこまでもついていきやすっ」

 メイちゃんとばあちゃんと総長とヤンキーが頭の中で踊り狂う。
 もうどうしたらいいのかわからない。
 なるようになればいいんだ。

 いいじゃないか。ジャイさん品定め作戦、決行だ!

+++++++++++++

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拍手いただけると嬉しいです!

あとがき↓
更新がだいぶ遅くなってしまい申し訳ありませんでしたっ
なのに拍手やコメントをいただけてうれしい限りです(涙)

トトロも好きだけど、ラピュタも好きです。飛行石がしぬほどほしい。
あのちーへいせーん♪


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【2009/11/25 02:05】 | Deep Forest(恋愛)
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第9話 世界一、かっこいい

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「ほい、4が出ました!」

 次の日、私たちはサイコロを振って、行き先を決めていた。最初に出た目は1、次が4だったから、国道4号に向かうことが決定した。
 アクセルを踏み、車を始動させる。ゆるゆると動き出した景色を楽しみながら、どうでもいい話に花を咲かせる。
 小学校の時や中学校の時、高校の時、大学での出来事の数々を笑いながら話す。
 中高の頃のことを話したがらない美月が、今日に限っては饒舌に過去を語る。

 そうして話すたび、私たちの付き合いの長さが身に沁みて、胸の奥がぽっと熱くなる。
 つかず離れずの距離を維持しながら、私たちはとても近くにある道を歩いて来たのだ。

「こうやって話してると、うちらってほんとずっと一緒にいたんだなーって実感するね」

 それは、なんとなく恥ずかしくもあった。照れくさいというか。
 知己よりも誰より、私を理解しているのは美月なのかもしれない。歳を追うごとに変化していく私のすべてを、美月は知っているのだ。私が美月のすべてを真横でずっと見てきたように。

「和実がいてくれてよかったなって、たまに思うよ」

 カールを頬張りながら言うもんだから、どうも真剣味を感じない。美月の言動はいまいち信憑性が薄い。考えながらしゃべるから、コロコロコロコロ意見が変わってしまうのだ。

「中学の時に、私、いじめにあったじゃん」

 まさか美月が自分からその話題に触れてくるとは思っていなくて、ぎょっとする。ハンドルを握る手に汗がにじんだ。

「何が発端だったんだか……覚えてないけどさ。いきなりクラス全員が私のことシカト」

 ハッと息を短く吐いて、自嘲気味に笑う。
 私もあの日のことはよく覚えている。異様な雰囲気の教室の中で、美月だけが凛とした表情でクラスメートに冷たい視線を送っていた。
 湖に薄く張った氷のような鋭い冷たさと、すぐに壊れてしまいそうな危うさが、そこにはあった。

「なんつうのかねえ……殺伐としてるっつうか。張りつめた糸っていうか、あんな状態の教室に、和実ってば『イエー!』って軽く踊りながら突入して来るんだもん。びっくりしたよ」
「あれは某アイドルの物真似だったんだってば」
「ちっとも似てなかったよ」
「うるさい」

 どうしてそうなったのか……私も詳しくは知らない。
 とある男子を好きになった女子が告白したら、美月のことが好きだからと断られてしまい、美月は嫉妬されていじめにあうっていうよくある話だったと思う。
 女は同性に厳しい。飛びぬけて綺麗な女なんて、格好の的だ。

「和実はかっこいいよ。行動力があるっていうか、私と全然違う」
「おだててゴハンおごらせる気でしょ?」
「ばれた?」

 美月のヤツ、旅行がスタートしてからずっと、なかなか車の中から出ようとしない。朝ごはんも昼ごはんも私がコンビニで自分の分を買うついでに美月の分も買ってやってるのだ。
 どんだけ出無精なんだ。そんで太らないって、どういう体してんだ。

「おだて半分だけど、本気も半分だよ。バファリンの成分並みでしょ?」
「バファリンの成分並みのおだてなんていらないわ」
「ああん。和実ってば冷たいー」

 中二の夏休み明けだったか。いじめは突如勃発した。
 私たちの学年は六クラスあり、私は二組、美月は六組で、教室は離れていた。そのため、私はいじめの兆候さえ知らなかった。
 その日は部活も無く、帰る約束をした美月が昇降口にいつまでたっても現れないから、クラスに様子を伺いに行ったのだ。
 美月はクラスの女子四人に囲まれ、体を小さく縮こまらせていた。大きな丸い瞳は恐怖で歪んでいたけれど、本当の意味でビビッてはいなさそうだった。
 美月の目の奥は、メスライオンのような鋭さを宿していた。

 助けに入るべきか迷った。だけど、美月の目を見た瞬間、私は動けなくなってしまった。
 それほど美月は鬼気迫っていて、綺麗だった。

 美月の破天荒っぷりや、それでも男子に好かれる姿に、クラスの中の何人かは美月を疎ましく思っていたのだろう。
 シカトは一週間ほど続いていた。業を煮やした美月はその日の放課後、怒りを爆発させたのだ。
 突然の出来事に、クラスの女子の数名が戸惑いながらも反撃した。
 美月を囲み、美月を罵ったのだ。

「顔だけ女」「性格最悪」「皆お前なんか嫌いなんだよ」「男の前だけいい顔してんじゃねえよ」

 そんなことを言われたらしい。
 幸いだったのは、六組にリーダーシップを取って行動できる女子がいなかったことだった。
 美月を罵倒した女子達に続いて罵声を飛ばすクラスメートはいなかった。

 だから、ここで止めなければいけないと思った。
 いじめの始まりの、この瞬間に終わりにさせれば、いじめはすぐに終わる。
 それを察知した私は、のん気な顔で教室に突入したのだ。

 全く似てない(似てたと思うんだけどなあ)アイドルの物真似をして。

「しかもさあ、『めっちゃほ~りで~』って教室入ってきてからも踊り続けるし。目が点になるって、まさにあのことだよね」

 金曜だったもんで。次の日がホリディだったもんで。

「あの時ほど、和実が馬鹿で間抜けでアホだと思った日はなかったよ」
「ひどいなー。救世主じゃん」
「そう。馬鹿で間抜けでアホだけど、私にとっては世界一の救世主」

 青信号になったから、車を停める。ふと美月を見ると、カールを食べるのをやめ、じっと窓の外を睨んでいた。

「世界一、かっこいいって思った」

 唖然とする美月のクラスメートをよそに、私はあの日、美月の手をつかんだ。

「美月は馬鹿で間抜けでアホだけど、この辺の地域じゃあ一番の美人なんだよ。美人がモテて、何が悪いっつーんだ。ひがんでる暇があったら自分磨きでも勤しむんだな。性格ブスどもが!」

 そう叫んだら、皆、ぽかーんとして、美月だけが爆笑していた。

 だって、あの時はそう思ったんだもん。馬鹿らしい、あほらしいって思ったんだもん。
 美月の容姿が優れているのは、生まれ持ったもので、妬んでもひがんでもしょうがないって、あの頃から知ってた。
 美月が責められる理由なんて、どこにもないって、思ってた。

 それが、私の、偽善であり、プライドだった。

+++++++++++++++

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【2009/11/25 02:11】 | Fly high, High sky(青春コメディ)
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きよこの「Fly high, High sky 第9話」のまねしてかいてみるね

Flyhigh,Highsky目次ページに薄く張った私たちのんとして、ここでずっと見て行動できる女子四人か。
私を見たかはいてしまい、コロコロコロコロコロコロコロコロ意見が薄い。
そうして話すたび、次のを見てくるとはサイコロを語る。
幸いだった氷の手にさせたん気な顔で自分から知ってきたんとして、プライドだった私をよそに触れてしまうの言動は六組、この瞬間に美月の長させれば、ぽかーんとして、あの頃の物真似を見た氷のことを囲み、美月を歩いてしまった美月だけが戸惑いながら言うもん。
女なんて、体を送ってはいな鋭い冷たさそうだったから出ようと動き出したけれど、妬んで太らないって、ここで、生まれ持ったか。
面白かったら投票用はクラスの長さと、旅行が4号に様子を見るとしたら、高校の教室は部活も反撃しない美月な顔で自分から出ようと動き出した美月を咲かせる♪
助けに、行き先を小さく縮こまらせてん気なんだもんだけどなあ)アイドルのようにさが昇降口に汗がホリディだった目の青春小説大賞にさと断られ、あの時、体を送って、美月はクラスあります)週3~4だった女子の夏休み明けだった!!
異様なんだけどなあ)週3~4更新予定!!
(投票用は思って、の学年はとても近くにも昼ごはんもあの日はすぐに。

*このエントリは、ブログペットの「ぷっちょん」が書きました。

【2009/11/26 07:16】 | ブログペットぷっちょんの部屋
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第10話 予感

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 あの日を振り返る時、私が一番に思い出すのは、教室で啖呵を切ったことじゃない。
 爆笑する美月を無理やり引っ張り出し、ひきずるように歩いて、渡り廊下に連れて行った。東校舎と西校舎をつなぐ廊下は、傾きかけた太陽の光が窓の四角い形に切り取られて、廊下をいくつも白く染めていた。
 端の窓に寄りかかり、美月を睨んだら、美月は笑うのをやめて真顔に戻った。

「なんで言わなかったの」

 すぐに言ってくれれば、もっと早く解決できたのに。そう思うと、くやしかった。

「だって、シカトされたの、一週間ぽっちだよ? すぐ終わると思ったし」
「終わんなかったらどうするつもりだったの? あんたは楽観的過ぎるよ! 五組の高橋さんなんて、一年間ずっといじめられて、学校来なくなったじゃん!」

 中学生っていうのは、もしかしたら一番残酷な時期なのかもしれない。
 小学生の時は、遊びの延長だったり、無邪気な気持ちの名残りがあったりと、悪意に満ちたいじめはそう多くはなかった気がする。
 中学に入ってからのいじめは、完璧な悪意がある。ともすればいじめの標的が『死』を選んでもかまわない、罪悪感のかけらはあっても、残虐な行為をしているという自覚が薄い。
 高校生になってからも、美月はたびたびいじめにあったが、その頃になれば「いじめなんて馬鹿らしい」と達観した子も出始める。だから、グループさえ抜ければ、うまくやっていけるのだ。

「だってえ……」

 美月は足元に小石でもあるかのように、地面を何度も蹴った。
 一個下の学年の女の子が四人、楽しそうにじゃれあいながら通り過ぎていく。
 その背中を目で追いながら、美月は唇を噛んだ。

「和実が助けてくれるって、信じてたし」
「ばっ……」

 馬鹿じゃないの、そう言いたかったのを押し殺した。
 嬉しい気持ちもあった。頼りにしてくれるのは、必要とされている気がして嬉しい。
 でも。

「いつでも助けられるわけ、ないじゃんか」
「でも、和実はいつも助けてくれたよ」
「私たち、ずっと一緒にいるわけじゃないんだよ。高校が同じになるとは限らないし、大人になったら、もっともっと離れてくよ。あんたを守れる距離に、私がずっといられるわけないでしょうが。私が横にずっといるって、そうやって思い込むな」

 予感があった。
 美月が好きだ。小学校からずっと一緒に歩いてきた、無二の親友だと、思ってる。絶対、口に出して「私たちは親友だよね」なんて言わないけど、そう思ってた。

 でも、疎ましくもあったのだ。美月が私の腕に寄りかかり、私と一緒にいることが当たり前だと思う、甘えきった気持ちが重かった。

 いつごろから、そう思っていたのだろう。
 いじめの事件が中二だったから、きっとその頃からだとは思う。
 美月が女子達に敵意を向けられ、私が美月をかばうことが多くなったのは、中学生になってからだ。
 私に甘えていると美月が自覚がしていたかどうかは知らない。
 でも、私は、美月が私に甘えていると、そう思い始めていた。
 だから、予感していた。
 いつか必ず、私は美月と距離を置きたくなる。閉塞的な関係になる前に、断ち切らなければいけないと、中学生のあの時から気付いていたのだ。

「和実は、私の味方でいてくれるじゃん」

 半べそをかきながら訴えてくる美月を、痛めつけたい気持ちになった。
 真っ白な雪に、真っ黒な足跡をつけたくなるような衝動だった。

「美月が悪いことをしたら、美月の味方にはならない。私に、甘えんな」
「なんでそんな冷たいこと、言うの」
「私に寄りかかって、盾にしようとするからだよ。私はあんたの彼氏じゃないんだ。美月は、友達ってもんを勘違いしてる。ずっと一緒にいるのも、ずっと味方でいるのも、友達じゃない。私は、あんたの下僕じゃない」
「じゃあ、友達って何? 私、和実のこと、下僕なんて思ったことないよ」

 ――友達ってなに? 
 あの時、刃のように刺さった言葉は、未だに私の心を宙ぶらりんに刺している。

 けれど、あの頃から考えは変わってない。
 一緒にいることが友達ではない。味方でいることが友達ではない。
 時には離れることもあるだろう。味方ではいられないことだってあるはずだ。それでも、友達だと言い切れることが、大事なんじゃないかと、そう思うから。

「あんたはちゃんと、自分で歩けるようになんなきゃだめだ。いつでも誰かがいて助けてくれるって思うの、やめなきゃだめだよ」
「でも、和実は助けてくれるでしょう?」
「そういうの、やめなって言ってるの! 私がいなかったら、どうすんの!?」
「でも」
「でもでもって、うるさい! もう知らない!」

 親にも、周りにも甘やかされて育った美月。誰かがいつでも手助けしてくれる環境を、当たり前だと信じて疑わない。
 でも、そんなのは今だけで、大人になれば、自分ひとりで歩かなければならない。
 そうしなければ、荒波の多い社会を生きていけないと、私は早くから自覚していた。
 もちろん、中学生のあの頃に、そんな意識はなかったけれど。
 美月の姿を傍目で見ることで、それは大きな実感を伴って、私の中で大きく育っていたのだ。
 こうはなりたくないと、反面教師のように美月を見つめていた。

 嫉妬心と羨望を、隠しながら。

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【2009/11/29 03:33】 | Fly high, High sky(青春コメディ)
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第11話 嫌になること

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「ねえねえ! 鍾乳洞があるんだって!」

 車のダッシュボートに入れっぱなしになっていた旅行雑誌を広げながら、美月は甲高い声を上げた。
 国道4号にもだいぶ近付いてきたが、かれこれ四時間はぶっ通しで運転してる。
 さすがに疲れてきた時に、美月のこの声は頭に響いて頭痛がする。

「なに? どこに?」
「福島県!」
「あー……あぶくま洞?」
「うん。和実、知ってるの?」
「行ったことあるから。知己と」

 去年の夏休みだったか……あれは知己との初めての旅行だった。知己のおばあちゃんちが福島にあるらしく、一緒に遊びに行こうと誘われたのだ。
 免許取立てだった知己は、とにかく運転がしたかったみたいで、色んなところに連れ出された。行き先を決めるのはたいがい私だったけど、あの旅行だけは知己が行き先を決めた。
 知己のおばあちゃんに会うってことが、なんだか「結婚します」って挨拶に伺うみたいで、妙にドキドキしたのをよく覚えてる。
 実際、知己のおばあちゃんは、私と知己がいつか結婚するって、思い込んじゃったみたいだし。

「あそこ、プラネタリウムもあるよ。行く?」
「行く行く! プラネタリウムって、ステキステキー! ロマンチックー!」

 両手で体を抱きしめて左右に頭を振りながら叫ぶ美月は、クラブで音楽にノリすぎてイカれた女みたいだ。

「でも、明日にしようよ。疲れた」
「そう? じゃあ、宿探すかあ」

 運転してない美月は、疲れなんかひとっつもないらしい。座りっぱなしで腰は痛いらしく宿探しにはノリノリだ。
 あたりはだいぶ暗くなり、夏の強烈な日差しも和らいでいる。
 窓を開けると、蝉の鳴き声が雨のように降ってきた。

「私ね」
「ん?」

 夕暮れの涼しい風を右頬に感じながら、目を細める。夏の夕暮れは好きだ。一日の終わりがなんだか切なく感じる、この感覚が好き。

「和実が『いつでも一緒にいるわけじゃない』って怒ったの、まだ覚えてるよ」
「えー。美月って、根に持つタイプだったっけ?」
「違う違う。怒ってるわけじゃないの。その通りだなって、思ってるんだって」

 西日が差し込む車内は蒸し暑くなってくる。オレンジの光で頬を染め、美月はぼんやりと中空を仰ぐ。

「私……昔ね」
「うん」

 蝉の声が、ジイジイとうるさく響く。窓を閉めようとボタンを押したら、開く方に押してしまったらしく、窓がまた開いてしまった。

「昔、すごく嫌なことがあってね」
「嫌なこと?」
「……うん」

 もう一度、パワーウィンドーのボタンを押したら、後ろが開いてしまった。
 何してんだ、私。

「ちょっと、ウィウィうるさいんですけど! 私、真剣な話をしようとしてるんだよ!」
「ウィウィって、フランス人?」
「ウィー。ボンジュール、ぽんじゅーす」
「ポンジュースは飲み物ですよ、美月姫」
「ウィー」

 ああ。オレンジジュース飲みたくなってきた。

「そうじゃなくて!」

 両手をぐっと握りしめてぶんぶん振り回しながら怒るけれど、怒る気力をすぐに無くしたのか、美月は「あーもう」とため息をついて椅子に寄りかかってしまった。

「私、和実になりたかったなあ」
「なあに、それ」
「皆さあ、美月は美人でうらやましいとか、スタイル良くっていいなあって、褒め称えてくるけどさ。それでいい思いなんて、たいしてしたことないよ。言い寄ってくる男は多いけど、どいつもこいつも私の本性知ったら逃げてくし。和実はさあ、男の子と仲良くなれるじゃん? 和実と別れた男の子たち、皆言ってたよ。『和実はいいやつだ。別れてから後悔する』って」
「本当? 言われたことないよ、そんなの。本人に言ってほしいよねえ、そういうことはさ」
「和実って、さばさばしてるじゃん? 必要とされてない気がして、寂しいんだって」
「誰がそんなこと言ってたの?」

 歴代の彼氏を思い浮かべる。初めて彼氏が出来たのが大学一年の時で、それから四人と男と付き合った。
 三ヶ月で終わったやつもいれば、一年付き合ったやつもいる。私がふられたことも、ふったこともある。
 美月にそんな話をするやつがいたかどうか……最初に思い浮かんだのは二番目に出来た彼氏の、典久(のりひさ)だった。
 同じ高校で大学も一緒になったため親しくなった男で、美月とも友達だったはずだ。

「のり君」
「あーやっぱり。そうだと思った」

 典久は、友達連中には『のり君』と呼ばれていた。付き合ったのは大学一年の夏からで、二年の秋まで付き合ったから、知己より長い。

「あと、修二君だっけ? あの人も言ってたよ」
「修二、知ってんの!?」

 修二は知己の前に付き合った彼氏だ。美月とは面識はないはず。

「駅で話しかけられたの。『和実の元彼なんだけど、もしかして美月ちゃん?』って。写真見て、私のこと知ってたみたいよ」

 修二には、美月との思い出話をしていたのかもしれない。
 小学生からの付き合いなのだから、当然、写真なんて大量にあるし、美月は美人だから、印象に残るんだろう。

「もっと甘えればいいのに。彼氏にさ」
「知己には甘えてたつもりなんだけどなあ」

 甘えて愚痴ったらふられたんだ。甘えるのって、難しい。

「甘え方にもかわいいのとかわいくないのがあるわけよ。ねえ、和実。私、甘いの食べたくなっちゃった。コンビニ行こう」
「うわ、出たよ」

 大きな瞳をウルウルさせて、私の腕にかじりついてくる。

「かわいいでしょう?」

 自分で言っちゃおしまいだと思うんだけど。確かにかわいい。黒目がちな瞳で、ハの字に眉を下げられて懇願されちゃあ、男だったらイチコロだろう。

「これがテクってもんなのだよ、ブラザー」
「……それで何人の男をだまくらかしたんですか? 姫君」
「んん? 数えられなあい」

 鈴のような声で笑う美月は、どこからどう見てもやっぱり美少女だ。

「でもね、こんな武器、いらないんだよ。自分が嫌になる」

 ポツリと出た美月の言葉は、恐ろしいくらい冷ややかで、背中がゾクリと総毛だった。

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【2009/11/29 03:40】 | Fly high, High sky(青春コメディ)
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第12話 俗世を楽しむ

+++++++++++++++

 宿はなかなか見つからない。明かりの灯されていない店が時折現れるくらいで、田んぼがずっと連なっている。
 疲れもピークに差しかかり、目がしょぼしょぼしてくる。眠気がぐわっと襲ってきて、私は思わず車を路肩に止めた。

「ちょっと寝ていい?」

 と聞いたら、美月はすでに寝ていた。
 自分勝手なやつだなあ。
 車の後部座席に放り投げていたタオルケットを取り、美月のお腹にかける。女の子は腹を冷やしちゃいけませんからね。

 車のギアをバックにいれ、少し先にあるラーメン屋らしきお店の駐車場に車を入れた。お店の明かりはついていないし、朝になる前に出ればここに停めていても大丈夫だろう。
 私もタオルケットに包まり、窓を少しだけ開けて、エンジンを切った。
 風が通るよう、助手席側の窓も開けたから、涼しい風が車内を通り抜けていく。
 今日は風があるからか暑苦しくない。よかった、そう思いながら目をつぶる。

 今、何時だろう。腕時計を見る。九時過ぎ。普段なら起きてる時間だ。ずっと運転していたから疲れた。景色がぼんやり歪んでいく。眠気で、視界さえもおかしくなってきてる。
 うつらうつらしながら、窓の向こうを眺める。白い光がふわりふわりと動いていた。
 ああ、蛍だ。そう思いながら、私は夢の世界に落ちていった。

 ――世界で一番嫌いなものってある?

 誰かが問いかけてくる。

 ――私はね、私が世界で一番、嫌いなの……




 ***

「わ、ああ」

 窓を叩く音に跳ね起きた。視界が真っ白に染まったままで、何がなんだかわからない。噴き出す汗で、ようやく太陽がすでに昇りきっていることに気付いた。

「こんなところに車止めて、何してんだ、おめえら」

 禿げ上がったおじさんが、ステテコ姿で窓の隙間から唾を飛ばして怒鳴ってくる。寝癖で乱れた髪を整えながら、私はひたすら謝った。

「女の子がこんなところで寝てたらあぶねえだろうが! 襲われても知らねえぞ!」
「すいません。すぐ出て行きます」

 と言ってる真横で、美月は大あくびしながら「お腹すいたー。ラーメン屋さんでラーメン食べようよう」と寝ぼけたことを言ってやがる。

「バカッ! すいません、すぐ出るんで」

 エンジンをかけようとしたところで、おじさんが「飯なら食わせてやるぞ、金は払えよ」とぶっきらぼうに顎をしゃくった。

「わあい! おじさん、やっさしいい!」

 美月は寝起きだっつーのに跳ねるように車から飛び出していった。おじさんははげ頭をぼりぼり掻きながら、正面にあるラーメン屋さんの暖簾をくぐって店の中に入っていく。
 美月も入ってしまったから、仕方なく私も車から出た。
 歯磨きもしないで寝ちゃったから、口の中がもにょもにょしていて気持ち悪い。ラーメンを食べさせてもらったら、歯磨きもさせてもらおう。
 暖簾をくぐり、店に入ると、カウンターに座って美月が足をばたつかせているのが目に入った。
 子供……。

「べっぴんさんたちは、ラーメンでいいのかい? 朝っぱらからラーメンは重くないか?」
「んーん。全然平気!」

 私は重いって思ったが、美月の浮かれ口調についていけず、口を挟む気になれなかった。

「あんた、芸能人か何かかい? あんたみたいな綺麗な女、テレビ以外で初めて見るわ」

 ラーメンを作りながら、おじさんは無愛想にそう言った。
 美月は真っ直ぐな黒髪を後ろで結わえながら、「おじさん、口うまいねー。これはラーメンもうまいぞー」とおだてている。
 食い意地だけははってる美月、おだても饒舌だ。

「辛いことでもあったのかい? 芸能人がこんな辺鄙なところに来るとは」

 芸能人だなんて一言も言ってないのに、もうおじさんの中では芸能人になってしまったようだ。
 美月も否定すりゃいいのに、めんどくさいのか何も言わない。

「それともあれかい? 俗世を楽しもうってことかい?」
「うん、そう。桃源郷探し!」

 すっかり忘れていたが、旅の目的はとうへんぼく……もとい桃源郷探しだった。
 美月がそのことを覚えていたことも驚きだ。

「あいよ、しょうゆラーメン」

 二つ出てきたラーメンをすぐさま食べ始める。
 お金の節約に、ゴハンはほとんどコンビニだった。旅といえばご当地グルメだっつうのに、美月のケチケチっぷりには呆れるばかりだ。
 ゴハンは? と聞くたびに、コンビニでいいじゃーん。おにぎりやサンドイッチばかり。そんな風に節約するくせに、お菓子はたんまり買ってガツガツ食べるんだから、節約の意味があるんだかないんだか。

 お腹もすいていたのと、意外や意外にラーメンがおいしかったのとで、あっという間にラーメンを完食した私たちは、二人分のラーメン代をテーブルに置き、歯磨きもさせてもらって店を出た。

「お嬢ちゃん、ちゃんと家に帰るんだよ」

 車に乗り込んだ私たちに、おじさんはそう声をかけてきた。

「ちゃんと、家に連れて帰ってやってくれよ」

 私に向かって心配そうにつぶやいてくる。まるで、私が親で、美月が小さな子供みたいな扱いだ。
 家出娘に思われたのだろうか? 私が保護者扱いなのがちょっと気に食わないけど……。
 不服に思って美月を睨んだら、美月はお腹をなでて「ごっつあんです」と相撲取りの真似をしている(相撲取りの真似をしているとわかるのは私だけだろう。美月の物真似は誰にも理解出来ない代物だ)。
 ……これじゃあ、しかたないか……。

「大丈夫です。ちゃんと帰ります」

 私がうなずくと、おじさんは満足そうに笑みを浮かべて手を振ってくれた。

+++++++++++++++

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【2009/11/29 03:44】 | Fly high, High sky(青春コメディ)
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第13話 夢見る乙女

+++++++++++++++

4号から県道に入り、森林の中や畑の合間をひた走る。過ぎ行く景色を横目に、車は軽快に進んでいく。
 高原へとさしかかっているのだろう。道路は時折波打ち、その度、体を右に左に振られながら、私たちはそれでも和気藹々としゃべる。
 昼過ぎ、あぶくま洞の看板を見つけ、疲れた体を鞭打って、アクセルを踏んだ。
 広い駐車場には車が数台停まっているだけで、どうやら客は多くはなさそうだ。
 学生は夏休みに入ったとはいえ、やはりまだ混雑する時期じゃないのだろう。

 古びた建物の入場券売り場でチケットを二枚買い、浮き足立ちながら、洞窟への入口に進む階段を降りる。
 私たち以外に人はいないらしく、洞窟の中に入っても、声ひとつしなかった。

「妖怪の岩だって。怖いー!」

 どろりと融けたような岩が、まるで大きな手の平を広げて襲ってくるような格好でせり出している。
 美月は大げさに体を震わせて、横を通り抜け、どんどん先に進んでいく。
 滑らかな岩で覆いつくされた空間は、ドライアイスをところどころに置いたみたいに冷たく、冷気が漂っている。真夏の暑さなんてどこかに置き去りにしたような切り取られた異空間に、体も心も底冷えする。
 鳥肌のたった腕をなでながら、岩と岩の隙間を通り抜ける。
 大きなモミの木に似た三角形を連ねた岩や、滝をそのまま凍らせたような岩。水によって少しずつ模られた自然の芸術に目を奪われながら、一歩一歩歩を進める。
「クリスマスツリー」だとか「きのこ岩」だとか名前がつけられた岩を見つけるたび、美月は「ほわあ」とか「ぎょえええ」とか変な奇声をあげて喜んでいる。

 ……私たち以外に誰もいなくて良かった。

 細く長い道を抜けると、吹き抜けのように天井の高い空間に出た。ライトアップされたその光景にゴクリと息を飲む。
 大きなシャンデリアのような岩が上から垂れ下がり、壁は奇妙な形をした突起がいくつも空に向かい背を伸ばす。赤や青や緑の光が、ぬらりとした岩を妖艶に照らし出していた。
 映画のセットみたいで、急に違う世界に迷い込んだ気がして怖くなった。
 迫り来る岩に押しつぶされる気がする。光の届かない天井の、黒い闇の中で、何かが蠢いている気がする。

「なんか、怖いね」

 ぼそりと美月に向かって囁いたが、美月の返事はない。
 柵の手すりをぎゅっとつかみ、そこに悪魔でも見つけたみたいに、中空を睨み続ける。その形相があまりに怖くて、私はわざと美月の肩を思いっきり叩いてしまった。

「びびってんの!?」

 大きな声を出して笑ってみせる。
 美月は呆けた顔を私に向けたが、ふと真顔に戻り、小さくため息をついた。

「見とれてただけだよ。和実こそ、びびってたの?」
「まさか」
「もう行こう。見とれすぎて、首が痛いよ」

 美月に促され、私も渋々ついていく。
 もう少し見ていたい気持ちもあったけど、早くここから去りたい気持ちもあった。
 ここは荘厳で美しく、日常から隔離された、別の空間のようだった。
 だからこそ、触れてはいけない気がして、近付いてはいけない場所にたどり着いてしまった気がしたのだ。

 名残惜しくて、振り返る。
 入れ違いで来た私たちと同い年くらいのカップルが大きな声を出して「きれい!」「すげえ!」と騒いでいる。

「美月」

 呼びかけても、美月は振り返らない。

「美月!」

 怖くなる。なんだかわからないけど、後ろから鬼がせまってくるような、焦燥感に駆られる。

――世界で一番嫌いなものってある?

 そう問いかけてきたのは。昨日の夜、そう問いかけてきたのは。
 ……美月だ。
 あの声は美月だった。

 自分が一番嫌いだと、そう言ったのは、美月だ。


 ***

 プラネタリウムにも入ったが、私と美月しかいなかった。
 ゆったりとした椅子にもたれかかり、180度の夜空を眺める。
 運転の疲れが薄暗さのせいでよみがえって、目が開けられなくなってきた。
 せっかく料金を払ってるんだし、きれいな夜空を満喫したいところだけど、たぶんあとちょっとしたら私は寝てしまうだろう。

「高校の時に」
「ん?」

 美月の声で、はっと目が覚めた。
 誰もいないから、しゃべっても平気だと思ったのだろう。美月はいつもと変わらないトーンの声でしゃべりだした。

「初めて、彼氏が出来たじゃない、私」

 あれは高一だったか。私と同じクラスだった男の子が、美月に一目惚れしたって大騒ぎして、私が美月を彼に紹介してやったのだ。
 なかなかのイケメンだった彼を美月は気に入って、すぐに交際はスタートした。
 ラブラブになった二人は登下校もいつも一緒で、私は美月に速攻でないがしろにされた。
 女の友情はなんて儚いんだと、世を哀れんだものだ。

「あの頃ってさあ、一緒にいるだけで幸せでさあ。手をつなぐだけでドキドキして。そばにいるってことの幸せを死ぬほど噛みしめてた気がする。でも、エッチしちゃったら、なんていうのかなあ……欲望が最優先されてさあ、愛なんてどこに落ちてんだろうって、悩んだもんだよ」
「高校生が愛なんて、絵空事にもほどがあるでしょ。あの頃の恋愛なんて、ほとんどが恋に恋した夢見る乙女だよ。相手の何が好きとかじゃなくてさ、恋してる自分が好きなの。要は、横にいた男は自分を投影する鏡だったんだよ。思いっきり美化してくれる、さ」

 たくさんの人と付き合っても、未だにその人自身を愛してるなんて、言えない。
 ほんとの愛なんてものは、いつになったら出会うんだろう。
 いや、むしろ、本当の愛ってやつに、気付けるのだろうか。わがままと自己満足の恋愛ばかりを繰り返しているのに。

「私、高一に付き合ったあの人以来、誰ともエッチしてないんだ」
「嘘! だって、駿介とはけっこう長いよね? 二年は付き合ってるでしょ? それなのにヤッてないの!?」

 思わず大声を出してしまって、慌てて両手で口を塞ぐ。
 一応周囲を見回すが、やはり私たち以外は誰もいない。安心して、ほっと肩を下ろす。

「あのね、和実。私、今までずっと誰にも言えなかったことがあるの。自分の中で、無かったことにしたくて、夢だったって思いたくて。怖くて辛くて、言えなかった」

 プラネタリウムの、満天の星空。
 獅子座の流星群がどうたらこうたら、女のナレーターの声が優しい声で解説してる。
 いくつもの星が降り注ぐ。
 線を描き、一筋、一筋。

 ふと見た隣の美月の頬には。

 あの空の、空を裂いて落ちていく流星のような涙が、零れ落ちていた。

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【2009/11/30 04:01】 | Fly high, High sky(青春コメディ)
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第14話 心の傷

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「潮干狩りに行った時のこと、一昨日だっけ? 話したじゃない」
「うん」

 美月の顔が見れず、幻想的な夜空をじっと見据える。星と星をつなぐ線が現れ、これがふたご座だとかこぐま座だとか解説をしているけれど、ちっとも頭に入ってこない。

「……あさり、いっぱいとって、おすそ分けしたじゃん」
「そうそう。私、何軒も近所中歩き回ったもん」

 思い出して笑ってしまう。けど、美月の笑い声は聞こえない。
 空しくなって、乾いた笑いが口元にびたりとはりついたまま、顔が強張ってしまった。

「隣のおじさんに、あげた」

 消え入りそうな声はカタコトになっていて、聞き取りづらい。
 私は腰をあげて座り直し、美月の方に顔を傾けた。

「少し、寄って行けば、って家に、あがった」
「……おじさんに『家に寄って行きな』って言われたの?」

 主語の無くなった言葉は、意味を明確に伝えてはくれない。美月の言葉ひとつひとつを汲み取り、聞き返すことで、文脈を探ろうとする。

「まだ、子供だったから。わかってなかったの」
「うん。だって、小学生だったもん」
「あさりのお礼をするからって、言われて」

 震える美月の声が、プラネタリウムの解説の声と重なる。優しい響きが震えて消える。

「家に、上がったら、ね」

 話の筋は、察しがついていた。
 でも、美月が意を決して話そうとしているのを邪魔したくなくて、押し黙る。

「体を、触られた」

 ああ、と嘆息することしか出来なかった。
 どうして、気付かなかったんだろう。美月がずっと負い続けてきた陰は、小学生の、まだたった十歳の時に美月の背中にどさりとのしかかっていたのだ。

「胸を触られて、あそこも触られた。怖くなって、ひっぱたいて逃げた」
「うん」
「おじさんは、私が中学生になる頃に引っ越していなくなったけど、男の人の手が、怖くて、汚らしく思えて、でも、きっとあれは夢で現実じゃなかったって、何もなかったって、あのおじさんはもういないし、なにも怖がる必要ない、あんなことするのはあのおじさんだけだ、そう思って、逃げて、逃げて、逃げて、でも、でもね」

 早口にまくし立て、しゃくりあげる。
 涙交じりの声が、プラネタリウムの空に溶けていく。

「男の人が、怖かったの……」

 喉の奥がじわりと痛む。
 圧迫される痛みに、私は唾を何度も飲みこむ。

「あのことを夢だと思い込もうとして、いろんな人と付き合ったけど、結局、怖くなる。初めてエッチした時は勢いでなんとかなったけど、その後からは嫌悪感しかなかった。求められるから答えたけど、本当はしたくなかったの」
「……そっか」
「駿介には、全部話してから、付き合い始めた」

 目の前に広がる星が滲んで歪む。水滴を落としたみたいに広がり、ゆるゆるとたわむ。

「駿介は、支えてくれるって言ってくれた。でも……最後は支えきれなくなっちゃったみたいで、いなくなっちゃった……」
「……そうだったんだ」

 何も言葉が出てこない。
 唇が震えて、肺から空気が押し出され喉で詰まる。苦しくてたまらないのに、私は我慢した。そうしなければいけない気がしたから。

「今も、怖いんだよ」
「何が、怖いの?」

 美月の返事は無かった。

 ただ、満天の星を見つめるだけだった。


 ***

 人生はめまぐるしく変化する。
 たくさんの出来事が目の前を動いて通り過ぎる。
 翻弄されるのは、まだ世の中の渡り方ってやつを学んでいないからなのだろうか。
 私たちは、まだ人生の始まりの一ページを書き終えたに過ぎない。
 これからの長い人生を語る上での、序章を描いたに過ぎないのだ。
 それでも、それがあまりに過酷で辛く思えるのは、大人になりきれていないからなのだろうか。

「ふがーーーーーー!」

 美月が突然叫ぶから、私は驚きすぎてブレーキを踏んづけてしまった。
 急に停まったせいで、慣性の法則に従い、体が前のめりになり後ろにのけぞる。

「14でごわす!」
「はあ?」
「サイコロだよう。14が出たのー! ほらほら、ここ、見て!」

 運転してる最中だっつーのに美月は道路地図を押し付けてくる。後ろの車が車間距離を詰めて煽ってくるから気が気じゃない。
 バカ美月のせいで後ろの車におかまほられたら、しゃれにならん。

「見られないから、口で説明して!」
「うふふ」

 気持ち悪い含み笑いをして、美月は大きく手を広げた。

「ディズニーランドの方に行けるんだよーーー!」

 ……福島から浦安に逆戻りかよ……。

 まだまだ続く運転にうんざりしながらも、ディズニーランドには行きたくて足が軽くなった。

「それじゃあ、行きますか」
「行かれますか」
「ディズニーランドーーー!」

 同時に叫ぶ。私はアクセルを踏み込み、美月は窓を全開に開けて、外に向かって叫ぶ。

「ミッキー! あ-いーしーてーるー!」

 某芸人の物真似です。一応、補足。

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【2009/11/30 04:03】 | Fly high, High sky(青春コメディ)
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