きよこの書き散らかし小説。
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好きなように好きなものを書く、きよこのごった煮小説サイトです。

*NEW*

Deep Forest 第58話 タイミングとフライング(12/16UP)完結しました!

*Novels
 →作品一覧(下にスクロールしても作品一覧あります)
*Res
 →コメントへのお返事です
*すみっちょBBS
 →基本ひとりごと。お立ち寄りの際はぜひなんでも叫んでってください。
 (ケータイはこちらから)


***Memo***

長らく更新停止状態となっていましたが、少しずつ再開したいと思います。
今のところ、「小説家になろう」で新しい作品を更新しています。
滞っているここの作品も完結させていきたいと思っていますので、よろしくお願いしますm(__)m

  12.05.31 きよこ

新作→「ユーレーロミオに恋するジュリエット
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【2009/01/01 21:57】 | ご案内
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新しい小説サイトはじめました
のべぷろ
はじめまして。

「のべぷろ!」という小説投稿&イラスト投稿サイトを始めました。
小説を書いている人と、小説を読むのが大好きな人のコミュニティ投稿サイトです。
SNS機能を利用することもできますし、投稿した小説をそのまま新小説賞「のべぷろ大賞」にノミネートさせることもできます。イラスト投稿も受け付けています。
もちろん、登録は無料です。

ぜひ一度覗いてみてください。
http://www.novepro.jp/

よろしくお願いいたします。


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いろいろ書いてます。

*長編小説

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小説家になろう』というサイトでもいくつか作品を投稿しています。
こちら

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【2009/01/01 22:00】 | 作品一覧
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暇つぶしに(なるかどうかわからないけど)、読んでいただけるとうれしいです。

きよこの長編小説です。
バナーをクリックすると作品の目次に飛べます。(最新作順)

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Fly high, High sky
fh
「あてのない旅に出よう」
美月の突然の誘い。
私たちの人生の、プロローグを終わりにする旅が始まった。



Deep Forest

あの日、酔いに任せて一夜を共にした男。
もう二度と会わないと思ってた。なのに、再会は訪れる。
あの夜は、始まりでしかなかった。


神様がくれた(完結済み)
神様
なぜだか家出した。理由なんてなかった。
ただ一度だけしか巡ってこない、十七歳の夏。
それは、神様がくれた。




【2009/01/01 22:34】 | 作品一覧
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カトラス
ごめん、Deep Forest読んでのものだから。

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小説家になろうで活躍されている作者様のサイトです。

つぶ庵
→沢木香穂里さんのHP
 さらりとしつつも味わいのある文章を書かれる作者さまです。食事シーンはよだれがたれます。

ガラスの放浪癖
→徳次郎さんのブログ
 この方の作風に惚れこんでおります(笑)

きみと、ひみつの花園に。
→梶原ちなさんのブログ
 胸がキュンキュンします。恋愛といったらちなさんです!

風海堂
→風海南都さんのHP
 色気のある文章と練りこんだストーリーが魅力的。私の王子です(女性ですが笑)

うずたまの呟き部屋
→卯月海人さんのブログ
 勉強熱心な方で尊敬してます。一緒に笑ったり泣いたりできる作品を書かれてます。

GLORY WORLD
→ぐろわ姉妹さんのブログ
 わくわくが止まらない読み応えのある作品を書かれる作者さま。姉妹で書かれてるの、うらやましい!

籐菖庵
→俊衛門さんのHP
 戦闘ものを書かせたらこの方!白熱すること間違いなし。

穴があったら入りたい
→カトラスさんのHP
 同じ誕生日、同じ血液型でした。運命だ(笑)エロもステキですが、真面目な作品もステキなのです。

この声が届くまで。
→イリさんのブログ
 私がネット小説を読み出した頃、すごいはまった作者さまです。繊細で心揺さぶる物語を書かれてます。

わしんち
→弥招栄さんのHP
いつも『あとちょっと・・・』
→弥招栄さんのブログ
 あこがれの作者さま。文章力もすごいし、艶めかしい文体に心惹かれまくってます。




*dear author*
Rのココロ。(葵凛香さん)
YU-RI’Sわ~るど回遊魚は眠らない・・・(篠原悠哩さん)

【2009/01/01 23:30】 | リンク集
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*8/1、8/6に拍手下さったyuika様へ*
(反転してお読み下さい)
お返事がものすっごい遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
拍手&コメありがとうございました。
お誕生日のお祝いコメントまでいただけて、うれしくて舞い上がってます。
ありがとうございます。
yuikaさまのお言葉で、書く意欲が湧きました。
これからも楽しんでいただけるように頑張ります。
ありがとうございました!


*7/30 コメント下さったピンクリリー様へ*
(反転してお読み下さい)
コメントありがとうございます!
この頃の思いを少しでも共感していただけていたら、本当に嬉しいです。
ピンクリリー様のお言葉が、この物語のすべてを語っていただけているようで、感動してしまいました。
素敵なご感想、ありがとうございました!


*7/21 拍手下さったなおみ様へ*
拍手&コメありがとうございます!
お言葉、すごく嬉しいです。
なおみ様にまた読みたいと思っていただけるように頑張ります。
ありがとうございました!

*7/11 拍手下さった104様へ*
リクエストありがとうございます!
ほーちゃん目線のものですね。

1万HIT記念と言いつつ、かなり遅くなりそうな気がしますが、書いてみようと思います。
リクエストしてくださり、ほんとにありがとうございました!

【2009/01/01 23:33】 | 拍手・コメントお返事
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空に落ちる。In Blue


プロローグ:恋は苦しくて。


 空に思いを馳せるのは、あたしのくせなのかもしれない。
 苦しかったり辛かったりするたび、空を見上げて、言い聞かせてる。

 飛べる。飛べる。飛べる。

 まるで呪文のように唱えて、口ずさんで、反芻する。

 目に沁みるような青も、頬を照らす光も、手の平に触れたくなる雲も。

 あたしの中で溶けて消えて揺らいで。



 ――落ちていく。





「どうして、あの子なの」

 待ってて、と言われた。
 昇降口で待っていろと、そう言われた。
 靴箱が並んだ学校の昇降口は、スノコがひいてある。板と板の合間を眺めながら、膝を抱えて佐村を待っていた。
 隙間に落ちた砂埃が風で少しずつ移動するのをずっと見ているのも飽きてしまって、なんでこんな待ちぼうけをくらわなければいけないんだと、ちょっと怒りを覚えて、立ち上がった。
 そしたら、なんか気になって、いてもたってもいられなくなってしまった。

 階段を上がるたび、心臓がどくどくと音を立てた。

 それは、何かの予兆だったのかもしれない。

 三階の教室の、そのはじっこ。やましいことでもあるみたいに、隅で向き合う二人がいた。

 佐村と、佐村の腕を掴んだ女の子。

 隣のクラスの女の子だった。
 綺麗な顔立ちをしていて男子に人気がある子なんだけど、なぜかあたしはいつもにらまれるから、あんまり好きじゃない。

 斜めに下ろされた前髪の下の、マスカラで縁取られた瞳を佐村に向けて、訴えかけるように見上げる。
 小さな唇がわずかに震えて、佐村の服の袖を強くつかみ、大きな声で言葉を発する。

「どうして、あの子なの」

 とっさにあたしはドアの横にしがみついた。見つからないように縮こまりながら、嫌な場面に遭遇してしまったと、頭を抱える。

「どうしてって、なんで」

 佐村の顔はあたしの位置からでは見えない。白いシャツの背中がやけに遠く感じる。

「あの子、嫌な感じじゃない」
「それは、お前が竹永のこと、知らないからだろ」

 佐村の低い声は怒ってるようにも聞こえる。

「豊介が『知らない』んだよ。あの子、性格悪いよ」
「お前にとって悪くても、俺にとってはいいんだから、それでいいんだよ」
「絶対、後悔するから。竹永さんと付き合うの、絶対後悔するよ」
「なんだよ、それ」




 苦しい。

 苦しいんだ。

 佐村が、そばにいればいるほどに。

 汚い自分が浮き彫りになって、視界にこれでもかと入ってくる。

 怖くて、逃げ出したくなる。

 逃げたい。

 このまま、逃げ出してしまいたい。




【2009/01/06 02:26】 | 習作
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神様がくれた
ただ一度だけしか巡ってこない、十七歳の夏。
それは、神様がくれた。


2009/07/24 完結
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第1話 始まりは、海。
第2話 海の家でアルバイト。
第3話 ジーとミュー。
第4話 高山食堂にて。
第5話 風船みたいに。
第6話 一緒にゴハン。
第7話 ジーの隣。
第8話 初仕事。
第9話 だから、笑って。
第10話 海に沈む。
第11話 ツボ。
第12話 幸せ、と思う時。
第13話 テトラポットの上で。
第14話 恋人。
第15話 好き、だから。
第16話 真夏の夜。
第17話 同じ空気を持ってる。
第18話 優しい人。
第19話 厚志は、私の。
第20話 偶然がくれたもの。
第21話 想いは溶けて。
第22話 後悔を繰り返して。
第23話 浅はかだけど。
第24話 大人になりたい。
第25話 埋まらない、寂しさ。
第26話 ジーに会いたい。
第27話 ホーム。
第28話 ジーの元へ。
第29話 私がいるよ。
第30話 大事な場所。
第31話 じっと耐える時。
第32話 悪夢。
第33話 いつだって、逃げてる。
第34話 まっすぐに。
第35話 君は、残酷。
第36話 流される。
第37話 最悪な時も。
第38話 夢うつつの中で。
第39話 プレゼント。
第40話 嘘。
第41話 いつか、誰かを。
第42話 心、染まる。
第43話 君に会えて。
第44話 帰ろう。
第45話 始まりを見つけた。
第46話 ミウ、ミュー、実由。
第47話(最終話) 神様がくれた。(7/24UP)

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お世話になっております。
小説の匣

【2009/01/26 04:35】 | 作品目次
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おけい
更新がんばってください♪ブログはじめたばかりなので先輩ですね^^ちょくちょくのぞきにきまぁっす★

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神様がくれた
じいに捧ぐ物語。

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第1話 始まりは、海。

+++++++++++

 目をつぶれば、あの時に戻れる。
 耳の底で鳴り止まない、波の音。
 朝焼けに照らされる赤い海の、あの色に染まる頬。

 海の音を。彼の声を。

 私は一生忘れないだろう。


 ***



 この海に来るのは、三度目だった。
 財布に残ったお金をつぎ込んで、電車に飛び乗り、この場所にたどり着いた。

 肩にかけたショルダーバッグには、財布とケータイと化粧品だけ。
 思い立ったが吉日だと、何も考えずに家を脱け出した。本当に何も考えていなかった。

「おなかすいた……」

 朝比奈実由(あさひなみゆ)はそれだけつぶやいて、朝焼けに染まる海を眺める。
 夕焼けよりも真っ赤に燃えた太陽は、海さえも赤く燃やしているようだった。

 家を出たのは、三日前。親に何も言わずに出かけて、メールで「友達の家に泊まる」とだけ伝えた。

 端的にいえば、『家出』したのだ。

 一晩で留まらず二晩目に突入した日、母親から電話があり、怒りの声を飛ばされた。
 だが、実由はあっけらかんと「明日も泊まるから」と答えた。
 実由は夜な夜な遊び歩くような子供だった。だから、母親も「連絡だけは毎日入れて」と呆れた声を発しただけだった。

 高校二年の実由にとって、闇雲に突き進んでいるだけのような今のこの時が、空しくてしかたなかった。

 大学は行くつもりだけれど、行きたい学校があるわけでもない。やりたいことがあるわけでもない。
 ずっと何も考えずに遊び歩いていたいだけ。
 将来のことなんて、考えたくもなかった。大人になるなんて、絶対に嫌だった。

 夏休みを迎えた日、実由の中で、何かが音をたてて壊れた。
 だから実由は、こうしてただ海を眺めている。

 さざ波が朝日を浴びて白い光を反射する。体育座りをした実由の足元にまで、波はせまってくる。
 けれど、実由はそこから動こうとしなかった。真っ白だったウェッジソールのサンダルはすっかり汚れ、その先端が少し濡れる。
 冷たい海風が頬をくすぐって、たまらず顔を膝の間にうずめた。

「なあ、あんた。この前からずっとここにいるけど、何してんの?」

 後ろから突然声をかけられて、実由はびくりと肩を震わせた。
 おそるおそる振り返ると、そこにはこげ茶の髪を寝癖でもしゃもしゃにした男が立っていた。
 実由よりも少し年上だろう。おそらくは大学生くらいの青年が、笑顔を向けてくる。

「海、見てる」

 あからさまに不機嫌な声で答える。見知らぬ人に声をかけられるのは苦手なのだ。

 優しげなタレ目はくっきりとした二重に彩られ、日に焼けて黒いのに肌は女の肌のように滑らかだ。
 実由は男の風貌を上から下まで眺めた後、急に恥ずかしくなって、また顔を膝の間にうずめた。

「もしかしなくても、家出?」

 図星をつかれて、顔を上げ、男を睨む。男はふっくらした唇を尖らせて「ひゅう」と風のような音を立てた。

「当たった」
「だから、なに? 関係ないじゃん」
「あそこ、俺の親がやってる海の家なんだ。ちょっと寄ってく?」

 彼が指差す先には、トタン屋根の薄汚れた海の家があった。『氷』と書かれた布が風で揺れている。

 突然のお誘いに、実由は驚きで目を見開くことしか出来なかった。


 ***


 夏といえども、海から吹いてくる風は涼しい。
 朝の風は潮の香りをのせて、海の家を通り抜けていく。
 実由は海側の一番端のテーブルに座り、寄せては返す波をじっと見つめていた。
 風で揺れる長い髪の毛を押さえると、ずしりと重みを感じる。潮風で髪の毛はすっかりごわついてしまっていた。
 肩甲骨辺りまで頑張って伸ばしたけれど、こうなるとうざったくって仕方ない。

 実由をこの場所に連れて来た青年は、ほうきで掃除をしながら、実由に話しかけてくる。
 彼は『高山厚志』という名前で、母親の経営する海の家――浜屋という――でアルバイトをしているらしい。
 大学二年の夏休みを暇で持て余してしまい、母の口車に乗って安い時給でこき使われるはめになってしまったのだそうだ。
 だからこそ、しょっちゅうさぼってるんだと、笑って話してくれた。

「あんた、この海に来るの、三度目だよね?」

 そう言いながら、厚志はガラス戸をどんどん開けていく。平屋の家屋はほぼすべてがガラス戸になっていて、風通しがよい作りになっている。

 ガラス戸が開く度に、夏の日差しが濃くなっていく気がした。

「なんで、知ってるの」
「一昨日も昨日も今日も、朝は俺がここの掃除をしてるんだよ。あんたの姿も見てた」

 波打ち際が遠い、干潮の朝の時間。実由はこの三日間、一人ぽつんと波打ち際に座っていた。
 厚志がその姿を見たのは、今日で三度目、三日連続だったのだ。

 まだ夜の余韻を残す冷たい風が、照り出した太陽の暑さを弱めてくれる。まぶしい光が、波間波間に揺れて、キラキラと光っていた。

「ずっと話しかけようか迷ってたんだよ。毎日一人だし。服も……ずっと一緒だし」

 実由は自分の服をつまんで、苦笑するしかなかった。
 白いTシャツにブラックデニムのショートパンツは、今日に至るまで三日間、一度も洗っていない。

「なんで家出したの?」



+++++++++++

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【2009/01/26 04:42】 | 神様がくれた(恋愛)
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神様がくれた
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第2話 海の家でアルバイト。

+++++++++++

 唐突の質問に、実由はごくりと唾を飲んだ。
 いきなりそんな核心を突くようなことを聞かれるなんて、思ってなかった。

「……初対面の人に、教えることじゃないし」
「ま、そうだけど」

 つい冷たい声色になってしまったが、厚志は何も気にしていない様子だ。穏やかな笑顔で、実由を見ている。
 観察されているようで、どうも気恥ずかしくて、実由は体を背けて海に目を向けた。
 
「麦茶、飲む?」

 飲む、と答えていないのに、実由の右手の近くに麦茶の入ったコップが置かれた。水滴のついたコップは、触れるだけで実由の体を冷やしてくれた。

「そんなに警戒しなくても大丈夫だって」

 実由の前に厚志は腰を下ろし、からからと笑った。
 そのまま、足を崩しあぐらをかく。目の前であまりにリラックスした姿を見せる厚志に、実由はほんの少し安心感を覚えた。
 人に警戒心を与えない、優しい笑顔。目尻によった皺が、彼の優しさを物語っているようだった。

「……居場所が無いんだ」

 つい本音がこぼれる。なぜこんな素直に言葉を吐いてしまったのか、実由は慌てて自分の口を手で塞いだ。

「それが家出の理由?」

 うなずいて、そのままうつむく。もう言ってしまったことは取り返しがつかない。

「いじめ?」

 首を振る。学校内で横行するいじめだけれど、実由はラッキーなことにいじめにあったことは一度も無かった。

「親と不仲?」

 さらに首を振る。親には半分あきらめられているが、仲が悪いわけではなかった。

「彼氏と別れた?」

 首を振ろうとして、止めた。事実、実由は終業式の日に彼氏に振られていた。それが家出の理由ではなかったが、きっかけではあった。

「何日間、家に帰ってないの?」

 指を三本立ててみせた。厚志は「やっぱり」と苦笑いを浮かべて、ごろりと寝転がった。

「どうすんの? 親に連絡はした?」
「したから、平気」

 家出したとはいえ、実由は律儀な性格だった。親に言われたとおり、毎日連絡をしている。ある意味、親公認の家出なのだ。

「それって、家出じゃなくね?」

 声を立てて笑う厚志のくしゃくしゃになった顔が、実由にはまぶしく見えた。ちょうど、朝日が彼の顔に当たっているせいかもしれなかったけれど。

「麦茶飲んだら、家に帰りな。駅まで送ってやるから」
「嫌。帰らない」

 家に帰らなければならない――そう思ったら、急に喉がぐっと痛くなった。帰りたくないと、理由も無いわがままが支配して、てこでも動かない。

「帰らないって、じゃあ、どうすんの?」

 再びのそりと起き上がった厚志の体から、畳に残った砂が舞い落ちる。朝日に当たって輝いて、実由は少しめまいに似た感覚を覚えた。
 光の粒が、彼の体から落ちているみたいだった。

「ホームレスになる」
「はあ?」
「昨日、あそこにいるダンボールのおじいさんと仲良くなった」

 実由の指差す先には、防波堤がある。
 その先にある水族館の近くに、いつもダンボールを抱えた老人が住み着いている。
 行く当てもなくさまよっていた実由は、昨日、その老人と夜遅くまで一緒に過ごしたのだ。
 
「あのおじいさんと一緒にいる」

 厚志は実由の突拍子も無い発言に、唾を飛ばして噴き出してしまった。

「高校生でしょ? あんた」
「あんたじゃなくて、朝比奈実由」
「みゆ……みゅーちゃん、高校生でしょ?」

 いきなり名前を呼ばれて、実由は頬を赤く染めた。
 馴れ馴れしい、とは思ったけれど、悪い気はしなかった。
 厚志の透き通った声は嫌味なかんじを与えない。心地良さだけが残る。

「高二」
「高二の女の子が薄汚れたシャツ着て、ホームレスって本気?」
「帰りたくないんだもん」

 薄汚れたシャツ、と言われて、改めて自分の着ていたシャツをつまんで眺めた。家を出た時は真っ白だったシャツが、薄く黄ばんでいた。心なしか、汗臭い気もする。

「わかった。俺のかあちゃんに頼んで服借りるから。それで風呂入れ。ついでにここの手伝いをしろ」
「は?」
「アルバイト、探してたんだ。二、三日働いて、すっきりしたら家に帰ればいいだろ」

 厚志はいたずらっこみたいな笑顔を向けてくる。実由の顔は火がついたように熱くなった。 こんななりした自分が恥ずかしくなる。いきなり出された提案に、頭が回らない。

「はい、そうと決まったら、掃除よろしく。俺はかあちゃん呼んで来るから」

 柱に立てかけてあったほうきを手渡され、実由は両手でそれをかっちり掴んでしまった。
 わけがわからないままなのに、その行動を「YES」のサインと受け取られてしまったようで、厚志は「頼んだぞ」とだけ言い残して、小走りで海の家を出て行ってしまった。



+++++++++++

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【2009/01/27 22:18】 | 神様がくれた(恋愛)
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神様がくれた
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第3話 ジーとミュー。

+++++++++++


 家出してから二日目の夜だった。
 実由は行く当てもなく、海岸沿いをふらふらと歩いていた。
 お風呂に入っていないせいでべたついた体と、それ以上にべっとりと気持ち悪い髪の毛を嫌悪していても、家に帰る気にはなれなかった。

 海側から吹きつける湿気まじりの風が首筋をなぞって体を冷やしてくれる。
 実由は夏のこの空気が嫌いではなかった。
 これでもかと地面を焦がした太陽が沈み、名残を残したまま夜がやって来る。じとじとした大気の中を時折風が吹けば、一瞬汗が引く。

「おっきいな」

 海の大きさに比べれば、実由が抱える物思いなんて、ちっぽけすぎる。
 けれど、そのちっぽけなものはずしりと重くて、抱えて持つには苦しすぎた。

 なぜこんなに重いのか。それさえもわからないのに、それは背中にはりついて取れそうもない。
 あがいてもあがいても、どんどん重さを増していくだけで、ただ混乱するだけだった。

 しばらく歩いたところで、白い何かが動いているのを見つけた。楕円形の固まりみたいなそれは四本足をパタパタと動かして、闇夜に飲まれていく。
 海沿いに小さな灯台のような形をした円錐形の建物が見える。その方向に『何か』は向かっているようだった。
 幽霊? と一瞬思ったが、あの動きは犬だとすぐに確信する。好奇心に後押しされて小走りでその後を追うことにした。




「わんちゃーん」

 誰もいないのに、ついつい小声で犬を呼ぶ。
 静かすぎる建物周辺を足音さえたてないように、気を使いながら進む。
 門には『大潮水族館』と書かれていた。この建物はどうやら水族館だったようだ。
 門にはチェーンをかけているだけだったから、実由でもすんなり侵入することができた。

 犬の姿はどこにも見えない。波の音だけがリズムを刻んで聞こえる。
 世界には実由しか存在していないような、何の気配もない場所。
 急に怖くなって、自分の腕を何度もさすり、体を縮こまらせる。

「――な……そ……」

 ふいに人の声がした気がして、きょろきょろとあたりを見回した。大きな駐車場の入り口に実由は立っていたのだが、水族館の方から声は漏れている。

「太郎、どこ行ってたんだ」

 声がしたほうへ進むうち、その声はだんだんとはっきり聞こえてきた。低いしわがれた声。だけど妙にでかくて、通る声だった。

「太郎、動くな」

 太郎、と呼ばれているのは、おそらく先ほどの犬だろう。こんな時間に散歩でもしてるのだろうか、と腕時計を見た。もう深夜二時を回っている。

「太郎!」

 犬の鳴き声が空に溶けていく。
 その声に反応してか、どこからともなく、別の犬の鳴き声が上がった。
 それに気を取られた瞬間だった。実由の足にごわごわな物体がしがみついたのだ。
 実由はあまりに驚いて、悲鳴さえあげられなかった。あんぐり開いた口からは息さえ吐き出せない。

「太郎、何してるんだ!」

 ガサリと生垣から顔を出したのは、白髪の老人だった。
 しゃんと伸びた背筋とたっぷりの髪の毛。ベートーベンのような髪形をしたその老人は、鋭い目を実由に向けた。たるんだ皮膚の下に力強い黒目が光り、ふさふさの白い眉毛がその存在を主張する。

「嬢ちゃん、こんな夜中に何してんだ」
「おじいちゃんこそ、何してんですか」

 しがみついたままの犬は実由の太ももを掴んで、腰を振っている。嬉しそうにハッハと息を吐き出し、実由を見上げていた。

「俺は家出だ」
「私も家出です」
「なんだ、そうか」

 老人は安心したように急に表情をゆるませ、犬の頭をはたいた。
 犬は「きゃん」と鳴き声をあげて、実由から離れていった。

「こっちに来るか? いい場所がある」

 親指でくいくいと後ろを指す動作が、妙に様になっている。家出老人だという時点で驚きなのに、実由の家出発言にも全く動じない不思議な老人。
 実由の反応なんて気にも留めず、老人は親指で指した方向へと歩き出した。
 見た目は七,八十代だが、背筋の伸びた堂々とした歩き方は、とても老人とは思えない。実由はどうしようか迷ったが、好奇心に負けて老人の後ろにくっついていくことにした。



 ***

 青々と伸びた芝生には、二枚のダンボールが敷いてあった。水族館の庭のような場所なのだろうか。建物から離れてはいたが、草木は綺麗に手入れされていた。

「嬢ちゃん、名前は?」

 ダンボールに腰かけた老人は、実由にも座るようにもう一枚のダンボールに目配せを送る
 おそるおそるそこに座ると、犬が老人と実由の間に割り込んできた。
 犬の体温や毛がちょっと暑苦しかった。

「おじいちゃんは?」
「俺か? 俺は……そうだな、Gと呼べ」
「……なにそれ? 召使い? じい?」
「アルファベットでGだ」
「……意味わかんない」

 ジーは真剣な顔で夜空を見上げている。冗談なのか本気なのか、全くもってわからない。

「嬢ちゃんは?」
「じゃあ、私はμ(ミュー)」
「鳴き声か?」
「違うよ。ギリシャ文字」
「意味わからん」

 ふっと右端の口角だけを上げて笑うジーの姿はシニカルで、少しかっこいい。老人の色気だな、と実由は感心してしまった。

「ジーはこんなところで何してんの?」
「俺はここで寝ようとしてんだよ」
「ほんとに家出してんの?」
「そう言ってるだろうが」
「ホームレス?」

 ホームレスにしては、ジーは小奇麗な格好をしている。白いYシャツに、グレーのスラックス。足元はビーチサンダルだけれど、はずしテクのおしゃれだと言われたら、納得してしまいそうなほど、なぜかかっこよくみえた。

「ホームレス? 言い得て妙だな。俺にはホームはねえ」
「ふうん。私と一緒」
「お前も帰る家が無いのか」

 無いわけではない。
 この海から電車を二時間乗れば、両親と兄一人と暮らす家がある。気ままな実由を優しく迎え入れてくれる両親、意地悪だけどここぞという時は優しい兄がいる。恵まれた環境にいることを、実由自身が一番わかっていた。

「家はあるけど……」
「俺と一緒だな」

 声高らかにジーは笑う。
 なんでそんなに面白いのかわからなかったけど、実由もなぜか笑っていた。



+++++++++++

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【2009/01/28 01:39】 | 神様がくれた(恋愛)
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神様がくれた
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第4話 高山食堂にて。

+++++++++++

「女の子が薄汚れた格好して、うろついてるなんて!」

 厚志の母親、里美は実由を見るなり、大きな口を大きく開けて笑った。
 小さな背とずんぐりとした体がドラえもんに似てる気がして、実由はつい噴き出してしまった。
 少し垂れた目尻が厚志と似ている。通った鼻筋も厚志と同じ。口元以外は、厚志は母親に似たのだな、と実由は思った。

 海の家でバイトすればいい、と言った厚志は、母親を連れて戻ってきた。
 その間の十分、実由は言われたとおり畳を一生懸命掃除していた。

「あっくん、あとはまかせるから、お母さんはこの子をうちに連れ帰るわね」
「よろしくー」

 「そういうことだから掃除変わるわ」と厚志は実由が握ったままのほうきに手を伸ばす。
 一瞬、実由の小指と触れ合った。思わずびくりと反応して、ほうきから手を離してしまう。
 厚志はまだほうきをしっかり握っていなかったから、ほうきが畳の上に倒れ、砂塵が舞う。

「あ、ごめんなさい……」

 顔が熱い。実由は頬に手をあて、その温度を確かめる。
 日焼けのせいなのか、それ以外のせいなのか、太陽の熱で茹だる体では判別がつかなかった。



 ***


 海岸沿いに走る道路を渡ると、民宿やお食事処が並んでいた。
 その中のひとつの、お世辞にも綺麗とはいえない古びた木造家屋に里美は入っていった。
 筆文字のような達筆な字で、『高山食堂』と書かれた看板が目に付く。
 家屋に入った途端、薄暗さが涼しさを呼び起こした。
 風鈴の涼しげな音がどこからともなく聞こえてくる。
 二つ並んだテーブルと、カウンターに五つの椅子が並んだだけのこじんまりとした食堂だが、片付けられた室内は見た目よりも古さを感じさせなかった。
 おばあちゃんの家に来たような、どこか懐かしい感覚に、実由はちょっとだけ涙が出そうになった。

「上は民宿なんだよ。ま、こんな汚い家だから、あんまり客はいないけど」

 書き入れ時なのに予約もさっぱりだ、と笑いながら、店の奥の階段を上がっていく。実由も慌てて、後を追った。

「あ、あの」
「なに?」

 赤の他人の自分が、人の家に勝手に上がっている。その事態に、戸惑いを隠せない。
 何か言わなければと声をかけたが、続く言葉が思い浮かばず、下を向いてしまった。

「遠慮しないでいいから。あっくんから事情は聞いてるし」

 太陽みたいに笑う里美の姿に、実由は安心してこっそり息を吐いた。
 里美は優しい。外見だけでなく中身も里美と厚志は似ているんだ、と心の中でつぶやく。

 階段を上がった先は廊下が続き、両脇にドアが二つずつ並んでいて、正面にもドアがある。
 民宿を経営しているというのだから、この五つの部屋が客室なのだろう。
 そのドアのひとつ、里美が立っているすぐそばのドアがからりと開き、実由と同じくらいの年齢の少年が、気だるそうに雑巾をぶら下げて出てきた。
 野球選手のように短く刈られた髪の毛を掻いて、鋭い目線を実由に投げかけてくる。

「お客?」
「いんや、家出少女」

 一重まぶたの切れ長の目が、実由を睨みつける。
 厚志や里美が優しげな雰囲気を身にまとっているのに比べ、この少年はひんやりとした冷たさを放っていた。
 その目が鋭すぎるから、実由にはそう見えたのかもしれない。

「あ、次男の和斗(かずと)だよ。高三。実由ちゃんのいっこ上、かしら。この子は実由ちゃん。うちでしばらく預かるから」
「はあ?」

 あからさまに嫌そうな顔をしてくる。ふっくらした唇をへの字にゆがめていた。

「私、お世話になるつもりなんてありません。ええと、あの、ホームレスになるから、平気です」

 慌てて、両手をぶんぶんと振りながら、実由は顔もぶんぶんと振り回した。元からお世話になるつもりなんてない。お風呂だけは入らせてもらおうと思っていたけれど。

「ホームレスって」

 不機嫌そうな顔が一気にゆるんだ。和斗は下を向いて笑いをかみ殺し、冷たい空気を和らげさせた。
 こんな風にころころと雰囲気を変える人間は初めてだ、と実由はまじまじと彼を見つめてしまう。

「すげえ女。そういう発想ってどこから来んの?」
「の、脳みそから」
「そりゃそうだけど」

 笑った顔は、厚志と少し似ていた。鋭い目が垂れて、くしゃっとなる。

「部屋の掃除、終わったの?」

 笑う和斗の頭を叩いて、里美が言った。

「終わったよ」
「ありがと。じゃ、食堂の掃除もよろしくね」
「オニババ」
「口が悪いこと!」

 頬をつねられ、和斗は「いてててて!」と素っ頓狂な声をあげる。低い声の彼の変な声に、実由はぶっと笑ってしまった。

「あそこ、実由ちゃんの部屋にしていいから」

 そう言われた先は、先ほど和斗が出てきた部屋だった。

「俺が掃除したばっかの部屋なんですけど」

 和斗が不満そうな声をあげると、すかさずまた頬をつねられる。また和斗は甲高い声で泣いた。

「お風呂は下の階にあるから、部屋に荷物置いてきな」
「でも……」
「帰りたくないんでしょ?」

 里美の核心をついた言葉に、実由は返事を窮してしまう。
 里美の言うとおり、帰りたくなかった。なぜなのか、そう問われたら、答えはでもしない。それでも、実由は帰りたくなかった。

 小花柄のカバーがかかったベッドや、ピンク色のカーテン。お気に入りの白い机――自分だけの空間、大事な自分の家の、自分の部屋。
 思い返しても、今は灰色の光景に変わってしまっていた。

 原因なんてわからなかった。
 ただ、むせ返るような息苦しい芳香が支配して、実由をさいなむ。
 立ちくらみに似た感覚は、ブラックホールが渦巻くように、実由の中の何かを次々に吸い込んでいってしまう。
 『何』が吸い込まれているのか、はっきりとしないけれど、それは、足元を砂場のようにして、実由をまっすぐに立たせなくしてしまっていた。



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【2009/01/29 00:21】 | 神様がくれた(恋愛)
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第5話 風船みたいに。

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 お湯の中でとろけそうになりながら、実由ははりのある体をなでた。
 べとついた汗は洗い流され、本来のみずみずしさを取り戻す。

 ふ、とため息をついて、これから先のことを考える。
 この家にお世話になっていいのだろうか。よぎるのは、厚志の優しい笑顔。

 目にかかるくらいのこげ茶の髪は、日に焼けて少し痛んでいた。
 たくましそうな浅黒い日焼けした肌は、その辺にたむろしているナンパな男を連想させるけれど、子供のようなくりくりとしたタレ目や常に上を向いた口角は、独特な甘い雰囲気を放っていた。
 田舎臭さの抜けない純朴さを残した、かっこいい男。
 厚志の印象はそんなかんじだった。

 触れた小指をなでる。くすぐったくて、笑みが零れ落ちた。
 パシャリと顔にお湯をかけると、一気に顔が赤らんでくる。
 少しだけ、この家にいたいと思ってしまった。

 厚志と話をしてみたい。もう少しだけ、彼と時間を共有してみたい。

 そんな欲求が胸に込み上げてきて、お湯の中に顔をうずめる。
 ブクク、と鼻から吐いた息が、泡となって飛び出した。





「お母さん、あのね」

 お風呂を出た後、母親に電話をかけた。実由の母、玲子(れいこ)はいつもの通りの気だるそうな声で「ああ、実由」とだけつぶやいた。

「アルバイト、していい?」
「いいけど、どこで?」
「海の家」
「海って、うちから何時間かかると思ってんのよ」

 二時間、と心の中だけで返事をする。

「だからね、泊まりでアルバイトするの」
「はあ? 家出してんのに?」

 家出してるから、じゃないの? と実由は言いそうになってこらえる。
 母は考え方が少しずれている。だから、実由の家出だって許容してくれるのだ。

「だめ? ちゃんとしてるところだよ?」
「電話番号と、その海の家の責任者? 経営者? 誰でもいいから名前を教えて。その人と話をしてみて、大丈夫そうだったらいいわよ」
「ほんと?」
「ふらふらうろつかれるよりはマシだわ。社会勉強でもしてきなさい。あんたはいつもふわふわふわふわ。風船みたいに浮いてるだけなんだから、地に足をしっかりつけて生きることを学びなさい」

 ぴしゃりと言い放たれて、何も言えなくなる。

 地に足がついていない、ふわふわ風船のよう。実由自身だって、自分のことをそう思っていた。
 しっかりとした『自分』がない。すぐに人に流され、あっちへこっちへと浮つく。
 こうだ、と主張することも出来ない。情けないくらい、風まかせな生き方。

「またあとで電話するね」

 電話を切って、まだ濡れた髪にタオルを絡ませる。
 
「結局、うちで働くの?」

 鋭い声音が聞こえて、実由はびくりと肩を震わせた。
 和斗がシャツの下に手を突っ込んで腹を掻きながら立っていた。

「……だめ?」
「いいけど、さっきまでは働かないって言ってたじゃん。どういう心変わり?」

 ストレートな物言いに、戸惑う。
 三白眼ぎみの目がまっすぐ実由に向かってくるから、怖くて仕方ない。

「ひとっ風呂したら、は、働きたくなった」

 びくびくしながらも声を大にして叫んだら、和斗の目がまあるくなった。すぐに目をそらされ、ブフフ、と口元を手で隠して笑いをこらえられてしまった。

「どんな風呂の入り方だよ」
「頭までしっかり入っただけだもん」
「あ、頭までって」

 また笑いをかみ殺している。なぜそんなに笑われているのか、実由にはさっぱりわからない。

「いいんじゃねえの? 手伝うやつが多かったら、俺のやることも減るし。その分、勉強できるしな」

 つんつん尖った黒髪をなでながら、和斗は踵を返して歩いていってしまった。


 ***


 働き出すのは明日からでいいと言われた実由は、一日を浜辺で過ごし、夕飯を食べた後は、家を脱け出した。
 ジーに会うためだ。
 家出して二日目の夜にあったジー。
 老人なのに凛とした立ち姿をしていて、若い頃はきっとすごくかっこよかったんだろうと勝手な想像を広げる。
 水族館の裏側の海に面した小さな庭が、ジーの居場所らしい。

 昨日、初めて会った時、ジーは煙草をくわえながら、「家出は継続するのか?」とニヒルに笑った。
 実由が「たぶん」とうなずくと、「気が向いたら、ここに来い。俺は毎日ここにいる」と遠くを見つめながらつぶやいた。
 実由に向かって言ったのだろうけど、その視線は黒い海に向かい、発した言葉は実由には向かってこない。独り言のようだった。
 だから、実由は返事をしなかった。それでも、ジーはきっとここにいて、実由が来たら喜んでくれる気がした。

「ジー、いる?」

 駐車場を突っ切って、建物の脇から顔を出す。白い尾が人魂みたいに揺れていた。

「あ、太郎」

 ジーの飼い犬の太郎が、実由の方を向いて、しっぽを振っていた。その隣で、ダンボールをシート代わりにジーが座っていた。

「ジー、来ちゃった」

 プカリプカリ、とドーナッツ型の煙が飛んでいる。
 返事をしてくれないジーだけど、わざと煙をドーナッツ型にしてくれている気がして、実由は嬉しくなる。
 スキップするように跳ねて、ジーの隣に座った。

「ジー、こんばんは」
「おお。来たのか」
「うん」

 煙草の煙が、むわっと広がる。
 それを手で仰いでいると、太郎がジーと実由の間に割って入ってきた。

「太郎って、メス?」
「なんでそう思う?」
「私とジーが仲良くしてるの、嫉妬してるんじゃないの?」
「じゃあ、オスかもしれないだろ」
「どうして?」

 真っ黒の目をじっと実由に向けて鼻をヒクヒクさせてくる太郎の尖った耳をつついてやる。

「お前さんに惚れて、俺を邪魔だと思ってるのかもしれん」

 まさかあ、と笑いながら、太郎のおなかをのぞいてみたら、ちょこんとシンボルマークがあるのを見つけてしまった。

「オスだ」
「ほらな」

 ジーが高らかに笑うから、実由もやっぱりつられて笑う。

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【2009/01/31 02:21】 | 神様がくれた(恋愛)
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