きよこの書き散らかし小説。
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

Fly high, High sky

目次へ
TOPへ

第18話 道程

+++++++++++++++

 すぐさまチェックアウトし、車を走らせる。
 夏の深夜は冷たい夜露を含み、うっそうとした空気が濃密に充満する。少しだけ開けた窓から聞こえてくる風の裂く音をBGMに、私はアクセルをベタ踏みする。
 ラーメン屋の所在地は、はっきり覚えていない。来た道をたどりながら、何度も引き返し、それでも通ってきた道は私を導いてくれる。

 まるで人生ゲームみたいだと思った。旅の始まり、サイコロでルートを決めるやり方に、人生ゲームを連想した。
 行きたい場所もやりたいこともなく、サイコロを振り、なんとなくで決めるルート。それはまるで、私たちのこれまでの人生のようだった。
 特に将来の展望もなく、進むべき道もよくわかっていない。運任せ、風任せの人生。小学校、中学校、高校、大学……すでに用意されていた道を、何の疑問もなく歩んできた。

 だけど、いざ社会への出ようとする時、気付いてしまう。

 何のために生き、どうやって生きていきたいんだと。
 ルーレットやサイコロをどれだけ振ろうが、人生ゲームでは、道の先に起こる出来事は決められている。
 でも、違うんだ。
 何が起こるかわからない、道なき道を歩いていくのが、人生ってやつなんだ。

 私たちは私たちの人生を、私たち自身で選択し、自らの足で進んでいかなくてはならない。
 そのための覚悟と強さを、身につけなければならない。
 
 美月と並んで歩いてきた。
 ずっと一緒に進んできた。
 これから先、きっと私たちの道はどんどん離れていく。
 ずっと横にいて支えてあげられない。美月が倒れても、きっと気付いてあげられない。
 だから、何かあったら、言ってほしい。辛かったらきつかったら、何もかもが嫌になったら、言葉に出してほしい。
 けつを蹴って奮い立たせてやるし、優しい言葉でなぐさめてやる。
 私が必要な時、必要だと言ってくれれば、いつだって助けてやる。
 間違ってることをしてたら、殴って目を覚まさせてやる。

 ずっとそばにはいられないのだ。味方でいることだってできないこともある。
 それでも、私たち、友達でしょう?

 私たちはそういう風に大人になっていくんだと、思いたい。

 途中でフェードアウトするなんて、許さない。
 絶対、許さない。


 ***

 ラーメン屋にたどり着いたは、翌日の昼前だった。
 ずっと運転していたのに疲れは全く感じなかったが、車を停めラーメン屋に入ろうとした時には疲労困憊で倒れそうだった。
 ラーメン屋さんは開店していて、昼のピークタイムで人がいっぱいいた。私は店の座敷でぐったりしながら、おじさんが暇になるのを待った。
 おじさんは私のことを覚えていて、私が店に入った時、疲れきった私に気遣い、座敷で休んでろと言ってくれたのだ。
 おじさんはラーメンを手際よく作り、おじさんの奥さんなのかパートさんなのかわからないけど、おじさんと同年代の太ったパンチパーマのおばさんが忙しそうに動き回る。ぼんやりとそれを眺めていたけど、いつしか私は眠ってしまっていた。

 ふと目が覚めると、お店は閑散としていた。洗い物をする音だけが店の奥から聞こえてくる。
 立ち上がり、カウンターから台所に顔を出す。
 おじさんが気付いて、「何か食うか? ラーメンでいいか?」と聞いてきたから、私は小さな子どもみたいにいじいじしながら、うん、とうなずいた。
 座敷に戻り、テーブルに置きっぱなしになっていた水をごくごくと飲み干す。ポットが用意してあったから、すぐに注いで、またごくごくと飲んだ。
 少しして、湯気の上がったラーメンが目の前に差し出させる。
 見た瞬間に、お腹がぐうぐうと喚きだすのだから、現金なものだ。

 ラーメンを食べ終えた頃、おじさんが煙草を吸いながら、私の前に座ってきた。

「あの、すいません。突然押しかけて。しかも……休ませてもらっちゃったし」
「いや、いいんだよ。無駄に店は広いからな。夕方までは店は閉じてるし、ゆっくりしていけ」

 水を飲む。
 冷たい水が喉を通っていくのがわかった。

「美月のこと……私と一緒にいた子のことなんですけど」
「一緒じゃねえようだが、置いてきちまったのか?」
「いえ……いなくなっちゃって」
「自力で帰ったのか、保てなくなったのか、俺にはわからんな」

 保てなくなる? 意味がわからず、首をかしげる。

「あの嬢ちゃん、霊体だろう? 姿を保てなくなって、いなくなったのかもしれん」
「言ってる意味が、わからないんですけど」

 れーたい? ほーたいの間違い?

「生きてるのか死んでるのかまではわからんがな、幽霊ってやつだ。気付いてなかったんだな」
「おじさん、頭おかしいの?」

 つい本音をこぼしてしまい、慌てて口を塞ぐ。ほぼ初対面の人に、失礼すぎる。

「はは、よく言われる。俺は見える人間だから、変なもんはよく遭遇するんだよ。見えないやつからしたら、俺みたいな輩は『頭がおかしい』んだろうな」
「すいません。でも、美月は私にははっきり見えてました。幽霊じゃありません」
「あんたとあの嬢ちゃんは波長が合うから、あんたにははっきり見えたんだろ。俺にはぼやけて見えたぞ? それに、あの嬢ちゃんはあんたの前に立つためにああして霊体になったんだろうから、あんたにはっきり見えるのは当然のことだろうよ」

 すんなりと納得できるわけがない。
 そのはずなのに、私は諦めの境地に立たされたかのように、おじさんの言葉を素直に受け取っていた。

「美月は……自殺したって、聞かされました」
「そうかい。それは……辛いなあ」

 この旅の最中、美月が人と接触した姿を、私は一度も見ていない。このおじさん以外は。

 コンビニにも行かず車の中にこもり、ホテルや民宿でチェックインする時、後ろで眺めているだけだった。あのナンパしてきた男の子達も、一人は美月の姿を認めてたが、もう一人は見ていない。おそらくあの彼は、『見えていた』だけなんだろう。私と同じように。

 美月は確かに私と一緒にいた。
 でも、生身の人間では、なかった。

 
 美月は……何のために私と一緒にいようとしたのだろう。
 死んでしまったのに、私と旅に出た理由は何だったんだ。

 くり返し、くり返し。
 私たちは思い出話に花を咲かせた。

 死ぬ時、人は走馬灯のように過去を見るらしい。美月にとっての、それだろうか。

+++++++++++++++

がんがん更新中!
目次へ
TOPへ
スポンサーサイト

FC2blog テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

【2009/12/05 03:55】 | Fly high, High sky(青春コメディ)
トラックバック(0) |
Fly high, High sky

目次へ
TOPへ

第17話 逃げていた

+++++++++++++++

「お母さん?」

 実家に電話をかけると、母親が出てくれた。旅行から帰ってきたの? 遅い時間ねえ、と眠そうに答える母にすがる気持ちで先ほどまでの出来事を話した。

『……美月ちゃんのおうちに電話してみるから、あんたはそこで待ってなさい。美月ちゃんのおうちの電話番号は変わってないわよね?』

 うなずいて、電話を切る。
 ケータイを握りしめ、お母さんからの電話を待つ。美月の実家の番号は、ケータイに登録していない。自分で事態を把握できないもどかしさで、胃がむかむかする。
 吐きそうになり、トイレに駆け込む。
 だけど、胃液が喉まであがってくるだけで吐くまでには至らず、私を楽にしてくれない。

 トイレから戻り、ベッドに倒れたところで、ケータイが鳴った。出ると、開口一番『美月ちゃんと旅行に行ったのって、本当なの!?』と母が怒鳴ってきた。

「なに、どういうこと? 嘘ついてどうすんの? こんなことで嘘なんかつかない」

 反論する。しばらくの沈黙の後、母はため息をついた。

『……美月ちゃんとあんたが一緒にいるわけ、ないのよ?』
「は?」
『本当は男の人と一緒なんじゃないの? たちが悪い嘘はやめてちょうだい』
「たちが悪いって、どういう意味」

 疑われることが癪に障る。美月が行方不明だなんて嘘、それこそたちが悪い。そんな嘘つくわけないじゃないか。信用してくれない母親が、むかついてしょうがない。

『美月ちゃん、自殺したって』
「え、なに? なに? なんて言ったの、今』
『美月ちゃん、自殺したんですって。和実、あんた、なんで嘘をつくのよ……!』

 言葉の意味が捉えられず、口を動かすことしか出来ない。
 今、お母さんはなんて言った? じさつ。じさつと言った。
 何言ってるんだ。お母さんのほうがよっぽどたちの悪い嘘をついてる。失笑してしまう。

「お母さんこそ、嘘やめてよ。美月はさっきまで一緒にいたんだよ? なのに自殺って、何つまんない嘘ついてんだか」
『三日前に、自殺したんだそうよ。あんたと一緒にいるわけないでしょう。なんで、あんた笑ってるの? 笑えないでしょう。どういうことかわかってるの?』

 息を飲む。涙交じりの母の声は嘘をついているとは思えなかった。

「冗談やめてよ」

 笑いながら言った。だって、こんなのありえない。笑い飛ばしたくなる。

『お母さんは嘘なんてついてない。早く帰ってきなさい。早く帰ってきて、ちゃんと説明しなさい』

 馬鹿げてる、それだけ言って、電話を切った。
 私が男と旅行に行ったと思って、私を懲らしめてやろうとしているに違いない。
 そう思いたいのに、事実がすんなりと心の底に落ちていっていた。
 美月は死んでいたのだとしたら、私の横にいた美月は……何者だったというんだ。
 まさか幽霊?

 でも、もしそうだとしたら、この突然の失踪に合点がいってしまう。

「嘘に決まってる」

 大体、美月が自殺? あの能天気大魔王みたいな子が、自殺する?
 ありえない。
 ありえない?

 ありえない、わけない。あの子は、けして強い子ではない。
 ああやってバカなふりをしているのは、そうすることが一番、楽に生きれると知っているからだ。
 美月はしたたかな女だ。人に疎まれることが多く敵を作りやすいからこそ、すんなりかわす術も逃げるやり方もわかってる。
 だけど。
 不器用な子だ。
 楽に生きるための手段を知っていても、心はついていかない。

 小さなことに傷つき、周りに嫌われることを恐れ、だから、何もわかっていない顔をして、自分の心の傷に気付いていないふりをしてきただけだ。

 私はそれをわかっていたから、逃げたんだ。
 誰かの支えを必要とする美月に、寄りかかられることを恐れた。
 私はあんただけの私じゃない、私には私の道がある。美月の介入で、自分が傷つきたくなくて、逃げたのだ。
 美月のそばにいればいるほど、自分の醜い部分を垣間見た。
 女特有の嫉妬心や、薄汚い陰険な気持ち。
 見たくもない自分の一面を、露にされる。
 それは美月が近くにいると実感するほど大きくなるから、逃げてしまった。

 美月は馬鹿だ。
 自分を支えられるのは、自分しかいない。どれだけ支えを手に入れても、それは永遠ではない。
 私も、駿介も、美月が倒れそうになったらそばにいて助けてあげることは出来る。でも、支えにはなれない。
 駿介が美月から離れたのは……きっと私と同じ気持ちになってしまったからだろう。

 立ち上がる。
 美月が自殺? 馬鹿げてる。
 確かめないといけない。自分の目で確かめなければ、私は何も信じない。

 だって、美月が死んでいて、私の隣にいたのが幽霊なんだとしたら、あのナンパしてきた男や、ラーメン屋のステテコオヤジが見たのは何だと言うんだ。
 私の横に美月はいた。それは確かなことで、絶対だ。

 ふと、思い立つ。
 あのラーメン屋のおじさんは、美月と話だってしてる。あのおじさんと話したい。
 あなたは見ましたよね? 美月と私が一緒にいたのを見ましたよね? と。




 心許なくなる自信を、取り戻したかった。
 私と美月が一緒に旅したこの三日間が夢だったと思いたくなかった。
 確かめなければいけないと、思ったのだ。

+++++++++++++++

次話(第18話)へ
目次へ
TOPへ

FC2blog テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

【2009/12/05 03:52】 | Fly high, High sky(青春コメディ)
トラックバック(0) |
Fly high, High sky

目次へ
TOPへ

第16話 美月の行方

+++++++++++++++

「え……なんで」

 ついさっきまで美月はそこにいた。なのに、隣のベッドには美月の姿は無い。
 トイレに行った気配も、どこかに隠れるような動きも、何も無かった。
 本当に忽然と、美月はいなくなったのだ。
 事態が把握できず、冷や汗だけがどっと溢れ出る。
 乱れたシーツに触れる。ひやりと冷たい。寝ていたはずの美月の温もりはどこにも無い。

「え、と。み、美月? どこ?」

 声を出し、返事を待つ。冷房の作動音だけしか聞こえない。
 溢れ出す汗をぬぐい、ベッドから這い出る。美月はいたずらが好きだ。あせる私を、どこからか見ていて笑っているに違いない。

「もう! つまんないよ、こういうの!」

 半笑いで怒鳴りながら、ユニットバスのドアを開けた。暗闇が漂うだけで、人の気配すらない。トイレの横にある風呂桶の中も覗き込む。覗き込まなくても丸見えだったからそこに何も無いのはわかっていたけど、確かめずにはいられなかったのだ。

「美月?」

 剥き出しの肌が冷房の風によって鳥肌に覆われる。両手で二の腕をさすり、部屋を振り返る。しんと静まり返った室内には、私以外の人の気配はどこにも無く、闇だけが存在していた。
 体がのしりと重くなる。氷の粒で体中を覆われたみたいに、冷気が私を食らいつくそうとする。

 なんなんだ。なんなんだ、これは。

 まるで、美月なんて最初からいなかったみたいな、この雰囲気は、一体なに?
 美月の荷物は鏡台の隅に置いてある。美月が寝ていた形跡のあるベッドだって、美月の存在を主張する。ぽかりと美月の姿だけを抉り取ったみたいに、最初から無かったことにされたみたいに、美月の存在だけが消えうせていた。

「嘘でしょ……」

 フロントに電話をかける。美月はこっそりと部屋を出て行ったんだ。きっと、風に当たりに、外に出たんだ。
 フロントの男性が電話に出たから、私は女の子が出て行かなかったか、その辺に女の子はいないか、怒鳴るように聞いた。
 私の勢いに戸惑っている様子で、男は「誰も通っていないし、女の子もいません」と声を上ずらせた。
 どうせ、寝ぼけて周りをちゃんと見てなかったんだろう。ビジネスホテルのフロントなんて、きっと使えないやつが多いんだ、そう言い聞かせて、部屋から飛び出る。
 エレベーターを降り、フロントに駆け寄ると、電話で聞いたことと同じことを聞いた。電話に出た男と、フロントにいるこの男は同じやつだろう。
 しどろもどろに「先ほどの方ですよね? 電話でお話したとおり、ここを通った人はいません」と答えるだけだった。

「でも、いなくなっちゃったんです。どこかにいると思うんですけど」

 食い下がる。だって、おかしい。こんなことあるはずない。ほんの数分前まで一緒にいた子が、突然姿をくらますなんて、ありえない。

「ちょっと、待って下さい」

 フロントの男は、困惑した様子のまま、奥の部屋に行ってしまった。仕方なく、私はガラス製のドアごしに外を眺め、美月らしき人がいないか探してみる。
 入口が裏通りにあるためか、人通りは一切無い。街灯の白い光に虫が群がっているのが、影になって見えた。

「あのう」

 さっきのフロントの男とは別の、整った身なりの女の人が眉間に皺を寄せながらも作り笑いを浮かべて話しかけてきた。

「お連れ様がいなくなったとお伺いしたんですが……」

 この人、チェックインした時にフロントにいた女の人だ。だったら、美月のことを見たはず。
 なんとなく安心して、短く息を吐いた。

「あの、私と一緒にいた女の子……目がくりっとしてて、長い黒髪が綺麗な子、覚えてますか? あの子がいなくなっちゃって」
「え? あの……チェックインされた時に一緒にいた方ってことですよね?」
「そうです。私の後ろにいた……」
「私は、お客様お一人しか姿を拝見しておりません。お友達は、どこにいらしたんですか?」

 息が吸えなくなりそうになり、ゴホ、と咳をした。
 チェックインした時、宿帳に名前を記入して……その時、美月は私のすぐ後ろで、「和実って、なにげに字綺麗だよねー」なんて茶々を入れてきた。

「私のすぐ後ろにいました」

 すがるような思いで、言った。声がわずかに震えた。

「思い違いを……されていませんか? お客様しかいらっしゃいませんでしたよ? お二人でのお泊りだとおっしゃっていたのに、もう一方の姿が見えなかったのでよく覚えてます。お友達、いなくなってしまったんですか? 私たちもお探ししますが」
「あ、いえ……大丈夫。すいません」

 頭の中が真っ白だ。
 どういうこと? 美月がいなかった? そんなバカな。つい数時間前のことを思い違いするなんて、ありえない。
 美月はすぐ横にいた。ずっといた。

 頭を下げ、すごすごとエレベーターの前に戻る。上のボタンを押し、エレベーターが来るのを待つ間、もう一度、玄関を見た。

 神隠し? 人が突然いなくなるなんて、神隠しってやつしか思い浮かばない。
 一瞬のまどろみの中で私は、現実とそっくりそのままの異世界にワープしてしまったんじゃないだろうか。
 こんな馬鹿げたことがあってたまるか。

 ようやく一階まで降りてきたエレベーターに飛び乗り、自分の部屋に戻る。美月が戻ってきてるんじゃないかと一縷の望みを抱いて部屋のドアを開けたが、やはり、そこには夜の闇しかなかった。

「なんで? どういう、こと?」

 わけがわからない。乾いた喉に無理やり唾を流し込み、電源を切っていたケータイをつかむ。
 わなわなと震える指に「ちゃんと動け!」と活をいれ、電話をかけた。

 誰か。助けて。
 なにが起こっているのか、教えてほしい。

『もしもし』

 電話に出た懐かしいテノールの声は、混乱した頭にじんわりと染み入る。溢れ出る涙をこらえきれず、嗚咽をこぼした。

「知己……!」

 電話の向こうの知己が、よそよそしく冷たい空気を孕んでいた。でも、私は気付かないふりをした。
 なぜ知己を頼ってしまったのか、冷水を浴びせられたかのように、一気に冷静になってしまった。

『なに?』

 別れたのに、今更なんだよ? そう言ってきそうな感情の無い声が怖かった。

「ご、めん。美月が……いなくなっちゃって。あせっちゃっただけ……」

 すぐに切ろうと、ケータイを耳から話そうとした時、知己の声に温かみが戻ったのがわかった。
「どうしたんだよ?」と心配そうに問いかけてきてくれたのだ。

「美月と、一緒に旅行に、来てる、んだけど、美月が、突然いな、いなくなっちゃって。どこに行ったか、わからないの」

 横隔膜が痙攣して、うまくしゃべれない。

『なに? はぐれたの?』

 はぐれたのとは違う。だって、美月は消えたのだ。マジックショーみたいに、一瞬で消えてしまった。

『美月ちゃんのケータイに電話かけて出ないなら、美月ちゃんの親か自分の親に電話して聞いてみろ。もしかしたら、先に帰ったのかもしれないし、連絡が来てるかもしれない』
「うん」
『電話、出来るか?』
「うん、平気」
『電話かけたら、俺に連絡しろ。和実はテンパるとなにしていいかわからなくなるだろ。俺に聞けばいいから。いいか? 美月ちゃんと親に電話かけるんだぞ』
「うん」

 鼻水をすすりあげ、電話を切る。
 美月の携帯電話に電話をかける。何回かのコール音のあと、留守電に切り替わってしまった。

 これはきっと、夢だ。
 連日の運転で疲れきった体が、脳みそが。私に悪夢を見させているのだ。

+++++++++++++++

次話(第17話)へ
目次へ
TOPへ

FC2blog テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

【2009/12/05 03:48】 | Fly high, High sky(青春コメディ)
トラックバック(0) |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。